当社では、3Dプリンタを用いて、利用者の持ち込んだ物を3Dデータ化し、そのコピーを製造する3Dプリントサービスを始めることを考えていますが、どのような行為に知的財産権侵害の可能性があるのでしょうか。
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権利者の許諾なく行う次の3つの行為について、知的財産権侵害の可能性を検討する必要があります。
(1)物から3Dデータを作成する行為
(2)3Dデータを他人に譲渡する行為
(3)3Dデータから立体物を製造する行為解説
1 著作権
(1)物から3Dデータを作成する行為
著作物の3Dデータを作成する行為は、著作物の再製にあたるので、複製権侵害となります。
もともと2次元の著作物を3Dデータにする行為も、複製権または翻案権(新たに創作性を付け加えた場合)の侵害となります。(2)3Dデータを他人に譲渡する行為
著作物の3Dデータを、インターネット上のサイトを通じて共有・ダウンロードできる状態にする行為は、公衆送信権侵害となります。
3Dデータを記録媒体に記録させて第三者に渡す行為は、譲渡権侵害となります。(3)3Dデータから立体物を製造する行為
著作物の3Dデータから当該著作物の立体物を製造する行為は、著作物の再製そのものですので、複製権侵害となります。2 意匠権
(1)物から3Dデータを作成する行為
意匠にかかる物品の3Dデータを作成する行為は、あくまでデータの作成であり、物品の製造にはあたらないため、意匠権侵害とはなりません。
なお理論的には、3Dデータの作成が意匠権侵害の準備・幇助的行為であるとして、意匠権侵害とみなされる場合があり得ます(意匠法38条1項)が、極めて限定的な規定であり、3Dデータの作成行為自体から意匠権侵害が生じる可能性が高いといえる例外的な場合に限られるでしょう。(2)3Dデータを他人に譲渡する行為
この場合もデータ作成と同様に、3Dデータの譲渡が、意匠権侵害の準備・幇助的行為にあたり、意匠権侵害とみなされる場合があり得ます(意匠法38条1項)が、限定的な場合に限られます。(3)3Dデータから立体物を製造する行為
意匠にかかる物品自体の製造にあたるので、意匠権侵害となります。
3 商標権(1)物から3Dデータを作成する行為
登録商標を含む物の3Dデータを作成する行為は、データ作成自体では商標の使用にはあたらないため、商標権侵害とはなりません。
そして意匠権の場合と同様、3Dデータ作成行為から商標権侵害が生じる可能性が高いような場合には、商標権侵害の準備・幇助的行為であるとして、商標権侵害とみなされる場合があり得ます(商標法37条8号)が、限定的な場合に限られます。(2)3Dデータを他人に譲渡する行為
この場合もデータ作成と同様に、3Dデータの譲渡が、商標権侵害の準備・幇助的行為にあたり、商標権侵害とみなされる場合があり得ます(商標法37条6号、8号)が、限定的な場合に限られます。(3)3Dデータから立体物を製造する行為
登録商標を含む物の3Dデータから製造した立体物を商品とした場合には、商標の使用にあたるため、商標権侵害となります。たしかに3Dプリントサービスの利用者が個人で楽しむためだけであれば、これらの行為は知的財産権侵害に問われません。しかしながら過去の裁判例等の傾向をふまえると、個々の利用者ではなく3Dプリントサービスを提供している会社が、事業として、知的財産権侵害を行っていると認定されてしまう可能性が高いでしょう。3Dプリントサービスに関する法規制ついては今後進められるルールづくりや裁判例の蓄積を待つ必要がありますが、現在ではそのようなリスクがあることを理解しておく必要があります。