著作物の引用

1 はじめに

著作物は、著作権で保護されます(著作権は、複製権、翻案権、上演権、頒布権等の権利の総体です)。
それらの著作権は、著作権者が専有します。このため、著作権者の許諾がある場合、または著作権法上の例外に該当しない限り、第三者が著作物を利用(複製、翻案、上演等)することはできません。
著作権を侵害すると、民事賠償責任だけでなく、原則として、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処され、又はこれが併科されることになります(著作権法119条1項)。もちろん「以下」なのでこれらはペナルティの上限であり、いきなりこれらの上限が適用される可能性は低いです。著作権侵害に刑事罰を処するのは国際的なルールであり、日本もこれに倣っています。

著作権の代表的な内容は、複製権です。つまり、コピーする権利であり、著作権者からコピーをすることについて許諾がなければ、原則として、コピーすることは許されません。
ただ、この原則には例外があり、個人的に家庭内で利用するために複製したり、研究や教育目的で複製することは許容されます。
また、「引用」に該当する場合には、著作権者の許諾がなくとも著作物を利用できます。ただし、「引用」に該当するためには著作権法上のルールにしたがった方法で行わなければなりません。

2 引用の要件

著作権法第32条は引用について次のように定めています。
「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」

また、著作権法第48条は、引用の要件として、出所の明示義務を定めています。
このため、適法な引用の要件は、以下のように整理できます。

  • 公表された著作物であること
  • 引用が公正な慣行に合致すること
  • 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること
  • 引用する場合には、複製または利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により出所を明示すること
  • 著作者人格権を侵害しないこと

そこで、以下では上記の②③の要件について説明していきます。

3 引用が公正な慣行に合致することとは?

  • 公正な慣行

「公正な慣行に合致」するかどうかは、著作物の種類、引用の目的等に照らして社会通念上妥当といえるのかによって判断されます。一般に以下①②が満たされる場合には「公正な慣行に合致」しているとされます。

  • 引用する著作物と、引用される著作物が明瞭に区別されること(明瞭区別性)

かつ、

  • 引用する著作物と、引用される著作物の関係について、前者が主、後者が従たる関係であること(主従関係)
    • パロディ・モンダージュ事件(最判昭和55328日)の考え方
    • 論者により明瞭区別性、主従関係が「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること」の要件であると整理する見解もある。
    • 上記最判以後の下級審には、表現の目的、引用部分の位置づけ、利用の態様、分量などを総合的に考慮して判断するものがある。

(1)-①明瞭区別性

明瞭区別性が認められるためには、引用される著作物と引用する著作物が明瞭に区別されることが必要です。
例えば、( )や「 」のような括弧で区別することが必要とされ、それを一般的な立場から理解したときに主たる表現と引用が一体化してしまっている場合には適用な引用とはいえません。

(1)-②主従関係

引用する著作物が全体の中で主体性を保持し、引用される著作物がそれらの補足説明、例証、参考資料となり、不住的な性質を有しているに過ぎない場合に認められます。
これらが対等である場合や、引用される著作物が主体的な地位であると評価できる場合には、不適法な引用になります。
主従関係は、引用された著作物の分量や内容を踏まえ、一般的な読者の立場から総合的に判断されます。

4 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること

引用される著作物を引用する内容、分量等が、引用の目的から妥当である必要があります。
たとえ従たる関係にあったとしても、引用する必要性が認められない場合、必要性を大きく超えて引用することは不適法と評価されます。

5 その他

以下では、「引用」に関し相談が多い、=皆さんが疑問を持ちやすい点について説明します。

  • 著作者が引用を禁止する旨を明示している場合

公表された著作物について、契約や約款で引用などの著作者の権利を制限するルールに反する扱いを認める規定が法律的に有効か否か、これを権利制限規定のオーバーライド問題といいます。

著作権法は強行法規である、=つまり、当事者間でどのような合意をしても著作権法に違反する部分は無効になるとすれば、権利制限を解除する禁止条項は無効になりますが、著作権はその全体が強行法規であるとは解されていません。しかし、権利制限条項は、著作権者と利用者との利益衡量を図ったものであるため、「引用」に関していえば、「引用を禁止します」という文言があった場合にも、引用の要件を満たしている場合には引用することができると考えるのが多数説のように思われます。

  • 要約して引用する場合

ある書籍や論文を要約して利用したいことがあります。

しかし、著作権法は、「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する(法27条)」と定めており、著作物を改変することは原則として許されていません。
それでは、適法な引用に該当するのであれば、著作物を要約して利用してもよいのでしょうか。
この論点に関して、以下のような理由で止むを得ない範囲で行われる「要約」は許されると判断した裁判例があります(「血液型と性格」要約引用事件・東京地判平成101030日)

  • 「引用」は、原著作物をそのまま使用する場合に限定されるという法令上の根拠がない
  • 要約を行うことは、著作物の全文や大部分をそのまま複製するよりも著作権者の利益を損なわない
  • 「引用」は全文をしなければならないと解すると不必要な部分も引用せざるを得なくなり不合理である。要約は、批評や研究の目的に照らして十分であり、全文を引用する必要はない
  • 47条の趣旨からすると、引用のための翻案は「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変(法20条2項4号)」に該当すると解され、同一性保持権を侵害することにはならない

著作物は、思想や感情の創作的な表現であり、著作者にとってはいわば子供のように愛着のあるものです。このため、著作権侵害に対して、著作者が時として感情的な態度をとり、解決しづらい紛争になることがあります。
このため、他者の著作物を利用する場合には、慎重な対応をお勧めします。

以上

Category:特許・著作権 , 著作権

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