海外企業への投資と外為法について
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1 はじめに
海外企業への投資を行う場合には、外国為替及び外国貿易法に留意する必要があります。
外為法は、外国為替及び外国貿易法という名称の法律です。外為法は、「対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もって国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与すること」を目的としています(同法第1条)。
もともとは名称から伺えるとおり外国為替に関するルールとして設けられましたが、その後貿易そのものを管理するように拡充され、支払手段等の輸出・輸入、資本取引(対外直接投資を含む)、役務取引、仲介貿易、対内直接投資等、特定取得、技術導入契約の締結等、外国貿易(輸出・輸入)の8種類の対外取引と、これら取引を決済するための支払等を管理・調整するものとなっています。2 対外直接投資に関する規制
「対外直接投資」とは、日本から海外で設立した法人に出資や投資をしたり、金銭を貸し付けたりすることを言います(法第23条第2項)。対外直接投資には、海外に子会社やブランチを設立する投資を行うもの(グリーンフィールド投資)、および海外企業に資本参加・買収を行うための投資(M&A投資)があります。対外直接投資はドル/円の為替相場に影響を与え、また為替相場の環境に影響を受ける関係にあります。
このような取引が一定の要件に該当すると、財務大臣への届け出、報告、または許可が必要になる場合があります。本稿では、以下において、対外直接投資に関する規制の概要を説明します。3 事前の「許可」が必要なケース
対外直接投資として事前の許可が必要なケースは、以下のような事項を踏まえて財務大臣が告示により定めることになっています(法第21条)。
- 条約その他の国際約束の履行や国際協調を妨げる
- 国際収支の均衡を維持することが困難になる
- 為替相場に急激な変動が生じる
- 国際的な大量の資金の移動により金融市場や資本市場に悪影響が生じる
現時点では、北朝鮮、イラン、イラク、ロシアやテロリスト等に対するものに限られています。
4 事前の「届出」が必要なケース
日本経済の円滑な運営に著しい悪影響を及ぼすことになり、または国際的な平和及び安全を損ない、又は公の秩序の維持を妨げることになるおそれがあるものとして政令で定めるものについては、事前の届出が必要です(法第23条1項)。
現在は、以下の業種に対する対外直接投資については、事前の届出が必要とされています。- 漁業
- 皮革または皮革製品の製造業
- 武器の製造業
- 武器製造関連設備の製造業
- 麻薬等の製造業
5 事後の報告
対外直接投資のうち、以下のいずれにも該当しないものについては、事後の報告が必要です(法55条の3)。
- 事前の許可が必要であるもの
- 事前届出が必要になるもの
- 事後報告が不要とされるもの
つまり、事前の許可や届出が不要とされる対外直接投資の場合には、事後報告が不要とされていない限り、事後の報告が必要です。
報告が不要な対外直接投資は、以下のいずれかに該当する取引とされています。- 報告省令で定める小規模(1億円相当額以下又は10億円相当額未満)のもの。
- 証券貸借取引(貸付、貸付の回収、借入、借入の返済)
- 海外支店等の設置・拡張、廃止に伴う当該海外支店等への支払および海外支店等か らの資金の受領
- 金銭の貸付
6 対外直接投資とは
「対外直接投資」の要件は以下のようになっています(法第23条第2項、外為令第12条4項、外為省令23条)。
(1)居住者性
外為法の適用対象になるのは居住者に限られます。
日本人は原則として居住者として取り扱われますが、2年以上外国に滞在する目的で出国し、外国に滞在する者や、外国にある事務所に勤務する目的で出国し、外国に滞在する者、出国後外国に2年以上滞在する者などは非居住者になります。
法人については、日本国内に主たる事務所を有する法人が居住者になります(外国にある支店、出張所、その他の事務所は非居住者です)。(2)行為
居住者が外国における事業活動に参加するために、次のa.~d.のいずれかに該当する外国法人の発行する証券を取得する場合、対外直接投資に該当します(下記のいずれの場合も、証券を取得した結果、出資比率が10%以上になる場合も含みます。)。
a. 居住者の出資比率が10%以上の外国法人。
b. 居住者と、当該居住者の100%出資子会社(居住者、非居住者の違いは問わない)との出資比率の合計が、10%以上の外国法人。
c. 居住者と共同出資者(居住者、非居住者の違いは問わない)との出資比率の合計が10%以上の外国法人。
d.居住者が、当該外国法人に対して役員を派遣している(常勤、非常勤は問わない)、当該外国法人に対して長期にわたる原材料の供給を行っているかまたは当該外国法人と製品の売買を行っている、当該外国法人に対して重要な製造技術を提供している、のいずれかの永続的関係にある外国法人。参考になるサイト:
JETRO 対外直接投資に際して必要な届出または報告https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-010802.html
日本銀行 届出書様式および記入の手引等https://www.boj.or.jp/about/services/tame/t-down.htm
以上