著作権の利用ライセンスを受けています。著作権者が替わった場合、当社が利用し続けることはできるでしょうか。

1 はじめに

著作権のライセンス期間中に著作権者が替わってしまうという場合があります。
例えば、著作権者が事業譲渡によって著作物を含めて第三者に譲渡する場合や、著作権者が破産することによって破産管財人の管理下に置かれた場合などです。
このような場合に、使用許諾を受ける立場では、使用を継続できるのかどうかが不明になり、不安定な立場に置かれてしまいます。
本記事では、法律上の原則論を踏まえ、著作権法上の当然対抗制度について解説し、使用を継続するために必要な方策について説明します。

2 著作権の利用許諾とは

著作権の利用許諾は、著作権者との合意により成立します。
著作権の利用をする場合、著作権者(ライセンサー)と著作権の利用許諾を受ける者(ライセンシー)との間で使用許諾契約(ライセンス契約)を締結します。
これによって、著作権の利用許諾を受ける者(ライセンシー)が著作物の利用をすることができるようになります。

ただし、このようなライセンス契約に基づく利用権限は、著作権者と、その許諾を受ける者の二者間の合意によって付与される債権に過ぎません。
債権者は、債務者に対してのみ権利主張ができることが原則です。
とすれば、利用許諾を受けたライセンシーは、ライセンス契約の債権者として、債務者である著作権者であるライセンサーに対してのみ権利主張ができることが原則といえます。

3 著作権者が変わった場合の権利関係

このような原則を前提にすると、著作権者が変わった場合、その著作権者との間では何らの契約がないので、新たな著作権者に対しては何も請求できないことが原則となります。

仮に、このような原則を貫いて新たな著作権者に対して何も請求できない場合、著作権を譲渡した元の権利者に対して損害賠償請求等をすることが考えられます。
しかし、使用する著作物が事業上重要なものであれば、たとえ損害賠償請求をしても金銭では損害の回復ができない場合もあり得ます。
また、著作権を譲渡した元の権利者が破産したような場合には、損害賠償請求をしても回収はほぼ不可能です。
このように、新たな著作権者に対して何も請求できないとすれば、ライセンシーの立場は著しく不都合になります。

4 当然対抗制度

著作権法では、このように著作権が譲渡された場合に、ライセンシーを保護するため、当然対抗制度という制度を用意しています。

著作権法63条の2の条文
利用権は、当該利用権に係る著作物の著作権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

上記の条文のとおり、当然対抗制度は、「第三者に対抗することができる」制度です。
「第三者に対抗することができる」というのは、元の著作権者から付与を受けた利用権を、新しい著作権者に対しても同様に主張することができるという意味です。
つまり、著作権の譲渡があった場合でも、ライセンシーは、元の著作権者との間で締結したライセンス契約に従って、引き続き著作権の利用をすることができることになります。

これは、当然に対抗できるという制度であるので、新たな著作権者との間で協議や合意をする必要もありません。
(もちろん、協議や合意をして、新しいライセンス契約を締結できるのであれば、その方望ましいこともあり得ます。)

また、元のライセンス契約の条件に従うことになるので、元のライセンス契約よりも不利になることも有利になることもありません。

5 留意点

以上のとおり、当然対抗制度によって、著作権が譲渡されて著作権者が替わった場合であっても、ライセンシーは、従前のライセンス契約の条件に従って利用を継続できることになります。

留意するべきであるのは、ライセンス契約の存在や、その条件については立証ができなければ当然対抗制度を活用できない場合があり得ることです。
つまり、新たな著作権者がライセンス契約の存在を認めないような場合には、ライセンシーが、元の著作権者との間でライセンス契約があったこと、そのライセンス契約の条件について立証する必要があります。
これを踏まえると、ライセンス契約においては、たとえ信頼関係がある者との間の条件であっても、その著作権が譲渡される場合に備え、ライセンス契約を書面等の方法で明確化しておくことや、その条件について明確化しておくことが非常に重要であるといえます。

また、ライセンス契約では、著作物の利用権を付与する以外に、ライセンサーの義務として、コンサルティング等の別の業務が付随する場合があり得ます。
このような別の業務に関する条件は、著作権ではないので、当然対抗制度によって保護されません。
ライセンス契約がそのまま引き継がれるものではないという点には留意が必要です。

Category:特許・著作権 , 著作権

企業向け顧問弁護士サービス
企業を対象とした安心の月額固定費用のサービスを行っています。法務担当を雇うより顧問弁護士に依頼した方がリーズナブルになります。