本稿では、総会のハイライトである議案審議から決議、閉会までを解説します。
特に「質疑応答」は、株主との対話の場であると同時に、説明義務違反等の法的リスクが生じやすい場面でもあります。
現場で判断が難しい「回答拒否の境界線」や「動議への対応」を中心に確認します。
株主総会の運営は、会社法だけでなく、いわゆる「会議体の(一般)原則(会議体という性質上、当然に適用されるルール)」に従って行われます。議長の権限や運営方法などに関する「会議体の原則」は、イギリス議会での長い歴史の中で蓄積された慣習や先例が体系化され、後にアメリカで一般議会法等として明文化されることで、近代的な会議運営の一般的なルールとされています。日本の国会の運営なども原則としてこれに従っています。
第1 決議事項(議案)の上程
1 会社提案議案の説明
取締役は、株主総会に提案した議案について説明義務があるため、議長(または担当役員)は提案内容や理由を説明します。
招集通知に記載がある場合は、「招集通知に記載したとおりです。」と、その旨を述べることで足ります。
2 株主提案議案の取扱い
株主提案権(会社法第305条)に基づき議案が提出されている場合、議長から内容を説明することも可能ですが、提案株主から説明の要望があれば、議長は当該株主に説明の機会を与える必要があります。
なお、会社側の取締役・監査役は、株主提案議案についての積極的な説明義務までは負わないと解されますが、質疑応答において会社側の見解を問われた場合には回答する必要があります。
第2 質疑応答における説明義務
質疑応答は、株主と経営陣が対話を行う重要なプロセスです。
会社法上の「説明義務」の範囲と対応がポイントとなります。
1 説明義務の原則
取締役および監査役は、株主総会において株主から特定の事項について説明を求められた場合、必要な説明をしなければなりません(会社法第314条本文)。
もし正当な理由なく説明を拒否し、それが決議事項に関するものであれば、決議取消事由(会社法第831条第1項第1号)となるリスクがあります。
2 説明義務の範囲と基準
説明義務の範囲は、決議事項に関するものが対象になります。
説明の程度は、平均的な株主が、当該事項について合理的な理解および判断を行い得る程度の説明をする必要があります。
3 説明義務を負わない範囲(回答拒否できる場合)
一方で、会社法および会社法施行規則により、説明を拒否できる正当な理由が定められています(会社法第314条ただし書、会社法施行規則第71条)。
(1)主な拒否事由
①質問が会議の目的事項に関しないものである場合。
②説明することにより、株主の共同の利益を著しく害する場合(例:企業の高度な営業秘密やノウハウに関わる質問など)。
③説明をするために調査が必要な場合(ただし、後述の事前質問状がある場合を除く)。
④実質的に同一の事項について繰り返しの質問である場合。
(2)事前質問状への対応
株主から事前に質問状が送付されている場合、会社側は「調査が必要」という理由で当日の回答を拒否することはできません(会社法施行規則第71条第1号イ)。
ただし、事前質問状が送られただけで即時に説明義務が生じるわけではなく、あくまで総会当日に株主が質問して初めて法的義務が発生します。
第3 株主からの動議への対応
質疑応答中や審議中に、株主から「動議」が提出されることがあります。
動議には大きく分けて「修正動議」と「手続的動議」があります。
1 修正動議
修正動議とは、会社が提案した議案に対して、修正案を提出するものです。
適法な修正動議が出された場合、会社提案の原案と一括して審議し、採決においては原案を先に採決することも適法です。
2 手続的動議
会議の進行や運営に関する動議です。
これらは、議長が自ら判断できるものと、議場に諮らなければならないものに分類されます。
(1)議場への諮問が必須な動議
以下の動議については、議長は必ず議場に諮り、出席株主の議決権の過半数等をもって決定しなければなりません。
① 総会提出資料等調査者選任の動議(会社法第316条第1項)
② 延期・続行の動議(会社法第317条)
③ 会計監査人の出席要求の動議(会社法第398条第2項)
④議長不信任動議
※ なお、「議長交代の動議」が出されても、議長を交代せず議事を進めるべきです(東京地平23年1月26日判決・インスタイル事件)。
議事妨害を目的とした濫用的な動議が繰り返された場合、総会の収拾がつかなくなるおそれがあるためです。
具体的には、例えば、議長は「この動議を採決いたします」と宣言し、「原案(議長交代)に賛成の方の拍手を求めます」と諮り、否決(過半数の賛成なし)を確認して、「否決されました」と宣言し、元の議事に戻ります。
(2)議長が判断できる動議
休憩の要求や、審議方式・採決方法の変更を求める動議などは、議長の議事整理権(会社法第315条第1項)の範囲内であり、議長が自ら採否を判断することができます。
第4 採決の方法
質疑応答が終了した後、議案の採決を行います。
1 採決方法の決定
採決の方法(拍手、挙手、起立、投票用紙など)について法律上の決まりはなく、議長の裁量に委ねられています。
実務上、会場の大多数の賛成が見込まれる場合は、「拍手」による採決が一般的です。
一方、賛否が拮抗し、目視での確認が困難な場合は、投票用紙を用いた厳密な集計が必要となることもあります。
2 審議方式による違い
個別上程・個別審議方式:各議案の質疑終了後、その都度採決を行います。
一括上程・一括審議方式:全議案の質疑終了後、第1号議案から順次採決を行います。
3 定足数と決議要件
採決の際には、各議案に必要な定足数(出席株主数・議決権数)と決議要件が満たされているかを確認する必要があります。
会社法又は定款に基づき、普通決議、特別決議のいずれであるのかを確認し、要件を確認します。
第4 閉会
全ての目的事項の審議・採決が終了した後、議長は閉会を宣言します。
これにより株主総会は法的に終了します。
質疑応答や動議の対応は、条文の知識だけでなく、その場の状況に応じた瞬時の判断が求められます。
想定問答集の作成や、本番を想定した「模擬株主総会(リハーサル)」を会社法に詳しい弁護士からアドバイスを受けることをお勧めします。


