インサイダー取引の基本について教えてください。

1 はじめに

上場会社の株式は株式市場において随時売買がされています。
このような市場において、上場会社の役職員等でないと知り得ない情報を活用して株式の売買を行うと、そのような情報を持たない他の投資家との不公平が生じます。
このような不公平な取引を制限するためにインサイダー取引規制が存在します。
未上場の株式会社であっても、上場会社との取引やその検討等によって規制の対象になることがあり得るので無関係ではありません。

2 インサイダー取引の概要

株式売買についてのインサイダー取引規制の概要は、以下のとおりです。

  • 上場会社の会社関係者、元会社関係者又はそれらの者からの情報受領者が、
  • その会社の業務等に関する重要事実を職務等に関して知った場合、
  • その重要事実が公表される前にその会社の株式の売買をしてはならない、

というものです。
典型的なものは会社の従業員が社内会議で業績が上方修正・下方修正したことを知って、それが公表される前に会社の株式を売買するようなケースです。

インサイダー取引がされると、一般投資家である取引の相手方に損害を与えることになります。
また、健全な取引市場に対する信頼も損なわれることになります。

3 規制の対象者

(1)会社関係者

上記のとおり、規制の対象になるのは、会社関係者、元会社関係者又はそれらの者からの情報受領者です。
これらの者が下記のとおり重要事実を知って行ったその会社の株式の売買は、インサイダー取引になります。
会社関係者としてインサイダー取引の対象になるもの概要は以下のとおりです。

  • 当該上場会社等の役員等がその者の職務に関し重要事実を知ったとき
  • 当該上場会社等に対して会計帳簿の閲覧請求権を有する株主等が当該権利の行使に関し重要事実を知ったとき
  • 当該上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者当該権限の行使に関し重要事実を知ったとき
  • 当該上場会社等と契約を締結している者または締結の交渉をしている者(その役職員等を含む。)が当該契約の締結もしくはその交渉または履行に関し重要事実を知ったとき
  • ②④に掲げる者であって法人であるものの役員等がその者の職務に関し知ったとき

(2)元会社関係者

「会社関係者」には、会社関係者でなくなった場合でも、その後1年間は該当します。
このため、会社役員を退任した場合や、退職、取引が終了した元会社関係者であっても、1年間は規制の対象になります。
ただし、この場合には、会社関係者であったときに知った重要事実に限られます。

(3)情報受領者

会社関係者から重要事実を伝えられた者も情報受領者として規制の対象になります。
以下の者が該当します。

  • 会社関係者・元会社関係者から重要事実の伝達を受けた者
  • ①の者が所属する法人の他の役員等であって、その者の職務に関し重要事実を知った者

4 重要事実とは

重要事実とは、上場会社に関する決定事実、発生事実、決算情報、その他バスケット条項該当事実をいいます。
バスケット条項において、「当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実」「当該上場会社等の子会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実」という抽象的な定めがされています。
これは、重要事実を網羅することが困難であるため、包括的に定めているものです。
重要事実の範囲についてはこのように明確に確定することができないので、過去の課徴金事例等を踏まえて判断すべきものといえます。

5 違反した場合の罰則

インサイダー取引の違反は、5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはその両方の刑事罰の対象です。
また、法人の役職員等が、その法人の業務または財産に関して、インサイダー取引規制違反を行った場合には、その法人についても5億円以下の罰金が科されることになります。
さらに、課徴金も課されることになります。

6 民事責任

インサイダー取引には、相対取引であっても、取引市場での取引であても、取引の相手方が存在します。
取引の相手方は、インサイダー取引の行為者と同じ情報を保有していれば、取引しなかったともいえるので、行為者は、取引の相手方に対して損害賠償義務を負う場合もあり得ます。
(市場取引の場合には相手方の特定や因果関係等の立証が困難であることが通常ですが、理論的には責任を負う可能性があるといえます。)

Category:コンプライアンス

企業向け顧問弁護士サービス
企業を対象とした安心の月額固定費用のサービスを行っています。法務担当を雇うより顧問弁護士に依頼した方がリーズナブルになります。