Q ストックオプションプール制度について教えてください。

1 はじめに

2024年92日施行の改正産業競争力強化法に基づき、ストックオプションプール制度が創設されました。
本制度は、主にスタートアップ企業を対象に、ストックオプションを機動的に発行することができる制度です。

2 本来のストックオプションの発行手続き

ストックオプション(新株予約権)の発行においては、原則的に、株主総会の決議が必要です。
株主総会では、新株予約権の内容(権利行使価額、行使期間、行使条件など)を決定して決議します。
また、新株予約権を発行して従業員に付与(割当)するたびにこの株主総会決議をすることが原則です。

しかし、発行するたびに株主総会を開催して決議するのは手続きが煩雑になるため、新株予約権の発行を株主総会から取締役会に委任するという制度が会社法によって用意されています。
このような取締役会への委任という制度を活用すれば、取締役会は、株主総会を開催することなく、株主総会から委任された範囲内で割当てすることができます。
ただし、取締役会への委任という制度を活用しても、以下のような点から、機動的なストックオプションを発行するという観点では使い勝手が悪い部分がありました。

3 本来の取締役会の委任ではオプションプールとして不十分

取締役会への委任制度では、新株予約権の内容については、株主総会で決定することが必要です。
つまり、新株予約権の権利行使価額や、行使期間については、株主総会で委任する際に決議しておく必要があります。
スタートアップのストックオプションでは、税制適格にするために、権利行使価額を時価以上に設定する必要がありますので、株主総会で権利行使価額を定めても、企業価値の上昇に伴って、権利行使価額を調整しなければなりません。
しかし、権利行使価額を株主総会で決定する必要があるため、このような調整ができず、実質的には、オプションプールとして活用することはできないところでした。
また、取締役会への委任制度では、委任の期間は、株主総会決議日から最長1年以内のストックオプションの発行に限られているため、1年後以降のストックオプションの発行については、改めて株主総会決議が必要です。

4 ストックオプションプール制度

以上のような使い勝手の悪さを踏まえ、ストックオプションプールの制度が創設されています。
ストックオプションプール制度を活用すれば、以下のような特例を受けることができます。

①委任事項の拡大

権利行使価額と権利行使期間については、株主総会で決議せず、それらの事項の決定も取締役会の委任することができます。
これにより、取締役会で割当てするタイミングで権利行使価額を設定することができます。
例えば税制適格にするために時価以上とする場合には、割当日時点の時価を基準として権利行使価額を設定することができるため、条件の柔軟な調整が可能になります。

②委任期間の伸長

株主総会から取締役会への委任の期間が本来1年間であるところ、会社設立後15年間まで伸長することができます。
このため、ストックオプションプール制度を活用することにより、一度、株主総会で決議をしておけば、長期間に亘ってストックオプションの発行枠を取締役会に認めることができるといえます。

5 ストックオプションプール制度の活用条件

ストックオプションプール制度を活用するためには、経済産業⼤⾂及び法務⼤⾂の「確認」を受ける必要があります。
この確認にあたっては、以下のaからcの全ての条件を満たす必要があります。
VC等から投資を受けているスタートアップの多くはこの条件を満たすでしょう。

  1. 設立の日以後の期間が15年未満
  2. 新株予約権の発行条件や手続きについて総議決権の3分の2以上の株主と合意がある
  3. 以下のいずれかを満たす。

・残余財産分配を内容とする種類株式が登記されている
・取得条項を内容とする種類株式が登記されている
・総議決権の3分の2以上の株主と上場等合意がされている
・投資事業有限責任組合から出資を受けている

6 方法

経済産業⼤⾂及び法務⼤⾂の「確認」を受けるにあたっては、事前相談の上で、申請書や、上記の条件を満たす資料の整備のうえで、経済産業省及び法務省の審査を受けたうえで、確認を受ける必要があります。
このために必要な期間は、事前相談のあと、正式申請をしてから1か月程度とされています。

Category:ストックオプション , 会社法

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