2024年度改正の税制適格ストックオプションの規律について教えてください。

1 はじめに

2024年度(令和6年度)税制改正により、税制適格ストックオプションに関する規律が変更されました。
2024年度以降に発行する税制適格ストックオプションについては、よりインセンティブ目的として、活用しやすいものを発行できます。
また、発行済みの税制適格ストックオプションについても、202412月末までに変更契約をすることによって、改正点を踏まえた条件に変更することもできます。
本記事では、上記の改正点と、202412月末までに確認すべき事項を解説しています。

2 改正点

(1)従来の税制適格ストックオプション

従来の税制適格ストックオプションでは、以下のような規律となっています。
なお、令和5年度税制改正により、イの行使期間については、行使期間を付与決議の日後2年を経過した日から15年を経過する日までとできる場合が追加されています。

ア 付与対象者

下記に該当する者(ただし、大口株主及び大口株主の特別関係者を除く。)
・会社又は子会社の取締役、執行役及び従業員
・一定の要件を満たした外部高度人材

イ 行使期間

・権利行使可能期間が付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までであること(ただし、設立後5年未満の非上場会社は、付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日まで)

ウ 権利行使価額

契約締結時の株式の価額(時価)以上

エ 行使上限

・年間(暦年)権利行使可能額が1,200万円までであること

オ 株式の管理

・権利行使により取得した株式について発行会社と証券会社又は信託銀行との間で一定の管理信託契約を締結し、当該契約に従い一定の保管の委託又は管理等信託がされること

カ その他

・無償で発行されたものであること
・譲渡が禁止されていること
・権利行使時の新株の発行又は株式の移転が会社法に定める手続に基づいて行われること

(2)改正点①(年間行使上限額)

上記のとおり、従来の税制適格ストックオプションでは、行使上限額について、年間1200万円までという規律がありました。
これについて、令和6年度改正では、スタートアップの人材獲得力向上のため、一定の株式会社が付与するストックオプションについて、下記のとおり、年間の権利行使価額の限度額を引き上げがされました。

  • 設立の日以後の期間が5年未満の株式会社が付与するストックオプション

上限2,400万円/年への引上げ:

  • 設立の日以後の期間が5年以上20年未満の株式会社

上限3,600万円/年への引上げ:

(3)改正点②(保管委託要件)

上記のとおり、従来の税制適格ストックオプションでは、保管委託要件として、証券会社等に株式の保管委託をしなければならないという規律がありました。
このような規律があるために、未上場会社の保管委託を受け入れる証券会社等がなく、未上場の段階ではストックオプションを税制適格にすることができないという問題がありました。

これを踏まえ、令和6年度税制改正において、譲渡制限株式について、発行会社による株式の管理がされる場合には、証券会社等による株式の保管委託に代えて発行会社による株式の管理も可能となりました。

これにより、未上場段階でもストックオプションの行使について税制適格とすることができることになり、M&Aによるイグジットをする場合にも、ストックオプションを行使し株式を売却することについて税制適格とすることが可能となります。

(4)今後発行する税制適格ストックオプションにおける対応方法

今後発行する税制適格ストックオプションについては、上記の改正点を踏まえた規律とすることができます。
このためには、ストックオプション割当契約において、上記の改正点を踏まえたストックオプション割当契約を締結する必要があります。
従来の税制適格ストックオプション割当契約と同じ条件のものとしてしまうと、上記の改正が反映されないことになるため、ストックオプション割当契約の雛型について、見直しが必要といえます。

(5)発行済みの税制適格ストックオプションにおける対応方法

上記の改正点は、インセンティブ目的として活用しやすいものに大きく変更されていますので、多くの企業では、発行済みの税制適格ストックオプションについても、上記の改正点を踏まえた条件に変更したいところです。

この点、2024年(令和6年)3月31日以前に締結された契約についても、2024年(令和6年)4月1日から同年12月31日 までの間に、①年間の権利行使価額の限度額、②発行会社自身による株式管理スキームに関する契約の変更をし、改正後税制に規定するそれぞれの要件を定めた場合には、改正後税制の要件が定められている契約とみなされ、改正後税制が適用されます。
このような条件を満たせば、発行済みの税制適格ストックオプションについてもより活用しやすい条件に変更できることになります。

注意しなければならないのは、2024年12月末日までに、ストックオプション割当契約の変更契約が必要になるという点です。
税制適格ストックオプションに変更することを希望する企業は、改正点を踏まえた変更契約を2024年12月末日までに行うようにしてください。

Category:ストックオプション , 会社法

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