所在が分からず、連絡がとれない株主がいます。このままでは将来的に弊害がありそうなので対応を検討したいです。

1 はじめに

株主から住所やその変更が適切に届け出られておらず、住所が不明であり、連絡方法がないという場合があります。
株式会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主の住所にあてて発すれば足りるとされていますが(会社法126条)、このような住所不明の株主を放置すると、株主管理が非効率になります。

例えば、株主総会の招集通知等の株主に通知するべき書類はそのような株主にも(届かないとしても)送付しなければなりませんし、また剰余金の配当を行う場合には、そのような株主に対しても配当通知書を送付して配当できる準備をしなければなりません。

また、会社をMAにより売却する場合には、会社の全株式の譲渡を求められることが多いため、そのような所在不明株主からの譲渡ができないとM&Aが成立しないおそれもあります。
原則として、株式の譲渡は、株主による任意の取引により行われます。
このため、所在不明株主が保有する株式についても、所在不明株主と連絡が取れなければ譲渡されないことが原則です。

しかし、一定の要件に基づいて所在不明株主の株式を取得できる場合があります。
本記事では、このような対応方法についてご説明します。

2 対応方法

上記のような所在不明株主がいる場合には、以下のような手続きを活用して所在不明株主から株式を強制的に取得・譲渡することができます。

①所在不明株主の株式の競売等の制度
②スクイーズアウト(少数株主の締め出し)

①所在不明株主の株式の競売等の制度は、一定の要件の下で、所在不明株主が保有する株式を強制的に競売等により売却し、または売却することができる手続きです。
②スクイーズアウトは、株式の併合や特別支配株主の株式等売渡請求の手続きを活用することによって、所在不明株主の株式を強制的に競売等により売却し、または売却することができる手続きです。

3 所在不明株主の株式の競売等の制度

(1)内容

所在不明株主の株式の競売等の制度を採用すると、保有株式を競売又は売却することになります。
市場価格がある株式の場合(上場会社の場合)には、市場価格をもって売却することになり、未上場会社の場合には、裁判所に売却許可の申立てを行い、売却許可を得て、会社が自ら買取ることや、会社が指定する者(例えば代表取締役等)が買取ることができます。

このような買取や売却をすると、所在不明株主は株主ではなくなります。
そして、その代金は、法務局に供託する方法によって支払うことになります。

(2)要件

所在不明株主の株式の競売等の制度の要件は以下のとおりです。

①当該株主に対する通知・催告が5年以上継続して到達していないこと
②当該株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったこと(配当していない事業年度が含まれている場合には、当該事業年度に配当をしなかったこと)

(3)手続き

・取締役会設置会社の場合には取締役会決議、取締役会非設置会社の場合には取締役の過半数による決定(株主総会は不要)
・一定の事項を公告し、かつ、対象株式の株主に催告したこと
・異議が述べられずに会社が定めた3か月以上の異議申述期間の経過
・裁判所に対し売却許可の申立て
・売却代金の供託

(4)注意点

所在不明株主の株式の競売等の制度は、上記のとおり、所在不明株主に対する通知・催告が継続して到達しない期間が5年未満である場合や、所在不明株主が継続して剰余金の配当を受領しなかった期間が5年間未満の場合には利用できません。

ただし、経営承継円滑化法により、会社法の特例として、事業承継が必要となる会社である場合には、都道府県知事から認定を受けることにより、1年間に短縮することができる場合があります。

4 スクイーズアウト

(1)スクイーズアウトの方法

スクイーズアウトの具体的な手続きとしては、以下のものが活用されます。

①特別支配株主の株式等売渡請求
②株式併合

(2)特別支配株主の株式等売渡請求

ア 内容

特別支配株主の株式等売渡請求の手続きを活用することにより、特別支配株主(議決権が90%以上の株主)が所在不明株主の保有株式を取得することが可能です。

所在不明株主に対する対価の支払は、法務局に供託する方法により行います。

イ 要件

・支配株主(その100%子会社等を含む)の議決権割合が90%以上であること

ウ 手続き

・特別支配株主から会社への通知
・取締役会設置会社の場合には取締役会決議、取締役会非設置会社の場合には取締役の過半数による決定(株主総会は不要)
・会社から特別支配株主への通知
・会社から売渡株主への通知
・特別支配株主による売渡株式等の取得
・事後備置書類の備え置き
・売却代金の供託

エ メリット

特別支配株主がいて、特別支配株主が取得することで問題がなければ手続きが比較的容易であり望ましいといえます。

(3)株式併合

ア 内容

株式併合(例えば100株を1株に併合する)を行い、併合後の少数株主の保有株式数が1株未満となるような併合割合での株式併合を実施します。

1株未満の少数株主の保有株式は、端数株式として強制的に取得・譲渡できます。

イ 要件

株主総会の特別決議が必要です。

ウ 手続き

・株主への通知又は公告
・事前備置書類の備え置き
・株主総会の特別決議
・事後備置書類の備え置き
・裁判所に端数株式の売却許可の申立て
・許可決定
・売却代金の供託

以上

Category:会社法 , 株式

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