取締役や監査役は、その職務を行う上で、会社以外の第三者に対してどのような場合に損害賠償責任を負いますか。

1 会社法上の第三者責任

取締役や監査役の役員等は、その職務を行うについて悪意又は重過失があるときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法4291項)。
役員等は、会社と委任に準じた関係にあり、契約関係のない第三者に対しては、民法の不法行為責任以外には責任を負わないはずです。

しかし、会社の事業活動は第三者に重要な影響を与えることがあります。
そこで、会社法では、民法の不法行為責任とは別に、特別の責任を認めています。
会社法上の第三者責任が認められると、役員等は、その第三者に生じた損害を賠償しなければなりません。

これは、以下の要件を満たした場合に認められます。
①役員等が「任務懈怠」したこと
②役員等の任務懈怠について「悪意又は重大な過失」があること
③任務懈怠によって第三者に「損害」が生じていること

以下では、各要件について説明します。

2 ①役員等に任務懈怠があること

役員等が会社法上の第三者責任を負うには、役員等に任務懈怠があることが必要です。
これは、役員等が負担する注意義務に違反すること、または具体的な法令に違反することをいいます。
例えば、法令を遵守しない意思決定、会社との競業や自己取引などの利益相反行為、詐欺的な取引、放漫経営などを行った場合や、他の取締役の業務執行を適切に監督せずに不正行為を見逃した場合には、任務懈怠ありと評価されることがあります。

もちろん、役員等による業務の執行は、将来の予測によらなければならないこともありますので、経営には失敗もあり得ます。
このような失敗によって生じた損害が全て注意義務違反となれば、役員等が行う専門的技術的な判断ができなくなります。
そこで、役員等の経営判断については、判断の過程および内容に著しく不合理な点がない限り注意義務違反にはならないと解されています。

3 ②任務懈怠について「悪意又は重大な過失」があること

役員等が任務懈怠をしたことについて「悪意又は重大な過失」があることが必要とされます。
つまり、①役員等が役員等としての任務懈怠について知っている場合(悪意)、②任務懈怠について認識・予見するべきであるのに、著しく注意を欠いたためそれを認識・予見できなかった場合(重過失)に責任を負います。
「認識・予見すべき」場合かどうかは、一般に役員等に要求される能力に応じた注意義務を基準に客観的に判断されます。
一般的な役員であれば当然に認識・予見できる任務懈怠であるにもかかわらず、著しい注意義務違反によって任務懈怠を見逃したような場合には、「重過失あり」と評価されます。

なお、会社法上の責任は、「任務懈怠」について悪意又は重過失がある場合に生じます。
これとは異なり、民法の不法行為責任は、第三者の「損害の発生」について故意又は過失がある場合に生じます。

4 ③任務懈怠によって第三者に「損害」が生じていること

任務懈怠によって第三者に損害が生じていることが必要となります。
例えば、債務超過で弁済の見込みがないのに取引を行い、第三者に回収不能という損害を与えた場合や、法令に適合する労働環境を整えなかったために、従業員が過労死した場合などがあり得ます。

5 損害賠償責任の内容

役員等は、以上のような①から③の要件を満たす場合には、民法の不法行為責任とは別に会社法上の損害賠償責任を負います。
この場合、役員等は、この第三者に対して直接に損害賠償義務を負います。
会社が責任を負うのではなく、自らが責任を負担します。

6 責任の制限

このような責任が生じることをおそれて役員等の候補者が見つからないと困ります。
そこで、責任を制限する方法として、DO保険の付保や、責任限定契約(業務執行取締役等は除く。)などが用意されています。

Category:会社法

TAGS:会社法 , 役員 , 損害賠償 , 第三者責任

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