Q 改正民法が一部の規定を除き、2020年4月1日に施行されます。契約書を作成するうえで留意点はあるのでしょうか。
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A 契約書(特に各種業務委託契約)には契約の有効期間において自動更新条項が定められていることがよくあります。改正民法施行後に自動更新条項により契約が更新された場合、更新後の契約には改正民法が適用されます。そこで、今後改正民法施行後に自動更新が見込まれる契約を締結する場合には、あらかじめ改正民法に対応した契約条項を盛り込むなどの対策を施すことで、改正民法適用に関するトラブルを未然に防ぐことができます。
以下では一般的な業務委託契約の条項について改正民法に対応すべきポイントをいくつか紹介します。
1 担保責任について
(1)文言の変更
改正民法では、従来民法で担保責任の要件としての「瑕疵」(民法570条等)の文言が「契約の内容に適合しない」の文言に変更されました。そこで、契約書の担保責任に関する条項に「瑕疵があった場合」旨文言を使用していた場合、「契約の内容に適合しないものである場合」等と修正するのが望ましいです。
(2)履行の追完内容に関する受託者の選択権
改正民法では、担保責任の法的効果として、目的物の修補、代替物や不足物の請求請求が認められます(改正民法559条、562条1項)。また、受託者は、委託者に不相当な負担を課するものでない時は委託者が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができるとされています(改正民法562条1項但書)。かかる条文により、委託者が選択した追完方法が、受託者の判断により変更される可能性があります。そこで、委託者においては、かかる追完請求権が、受託者の判断により変更されないよう、改正民法562条1項但書が適用されないことを定める条項を加えることが望ましいです。
(3)代金減額請求権
改正民法では、代金減額請求は、相当の期間を定め履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときに可能となります(改正民法563条1項)。そこで、委託者が履行の追完を待たずして直ちに代金の減額請求権を行使するためには、契約条項に、履行の追完の催告をすることを要しない旨を定める必要があります。
(4)期間制限
改正民法では、原則として、委託者は仕事の目的物が契約内容に適合しないことを「知ったとき」から1年以内に「通知」しないときは、履行の追完請求、報酬減額請求、損害賠償請求、契約解除できないとしました(改正民法637条参照)。これは、従来民法がかかる請求ができる期間を「仕事の目的物を引き渡した時から1年以内」としていたことに比べ委託者の負担が軽減されています。もっとも、この「知ったとき」の基準時あるいはその認定事実をめぐり争いになる可能性があるため、それらを具体的にしたうえで条項に加えることが望ましいです。
2 所有権の移転・危険負担について
(1)危険の移転時期
改正民法では、受託者が委託者に目的物を引き渡した場合には、それ以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によって生じた目的物の滅失又は損傷については、委託者は、これを理由とする担保請求の追及をすることも、代金の支払いを拒むこともできなくなりました(改正民法559条、567条1項参照)。そこで、「引き渡し」時期に関しては、契約条項で特定(例えば「納品時」や、「受入検査合格時」等)し明確にしておくことが望ましいです。
(2)危険負担
改正民法では、いわゆる危険負担制度(従来民法536条)は廃止され、契約の解除(改正民法541条~543条)に一元化されました。そのため、債権者が反対給付債務を確定的に消滅させるためには、当然に反対給付債務の履行を拒否した上で(改正民法536条1項)、契約を解除することとなります。
3 契約解除について
(1)改正民法では、債務不履行解除において債務者の責めに帰すべき事由を要件としないこととしました(改正民法541条、542条)。
(2)改正民法では、判例法理を踏まえ、債権者は「債務不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は、契約を解除できないとしました(改正民法541条但書)。そこで、債務不履行の軽微性を問うことなく解除を可能としたい場合には、改正民法541条但書を排除する旨の条項を加える必要があります。
4 損害賠償責任について
損害の範囲について、従来民法が「予見し又は予見することができた」場合に、特別な事情によって生じた損害(特別損害)の賠償を請求できるとしたのに対し、改正民法では、「予見すべきであった」場合と変更されました。そこで、「予見すべきだった」との主張が認められるために、責任を負うべき特別損害の例といったような具体的事情を、契約条項に盛り込むのが望ましいです。
5 履行の割合に応じた報酬について
改正民法では、委任者(委託者)の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなった場合または委任が履行の途中で終了した場合には、受任者(受託者)は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるとされました(改正民法648条3項)。そこで、後々の争い避けるために、契約が途中で終了した場合の報酬規定についてはあらかじめ当事者間で検討・交渉し、契約条項に盛り込むのが望ましいです。
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