出向という形態で他社に当社の従業員を利用させることを検討しています。法的にどのような問題がありますか。

1 出向

 出向(在籍出向)とは労働者が雇用されている企業に在籍したまま、他の企業とも雇用契約を締結してその企業の業務に従事することをいいます。

出向をする場合、出向元企業と出向先企業との間では出向契約が締結されます。
従業員は出向元企業には在籍したままになりますので、雇用契約が残ります。
また、従業員は出向先企業とも雇用関係が成立しますので、出向先企業は、その従業員に対して指揮命令をすることができます。

多くの場合、グループ企業への人材不足の補充や、出向先の技術指導、従業員の教育等を目的として行われることが多いといえます。
ただし、出向という形態をとって、他社に自社の従業員を利用させるというビジネスを検討することがありますが、これには法的な問題があることがあります。

2 出向と労働者派遣

 出向と類似する関係のものとして労働者派遣があります。

 労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」と定義されています(労働者派遣法21号)。
派遣は、派遣元会社の従業員を、派遣先会社に派遣して働かせるものです。
派遣先会社においては、人材が不足している時に不足している人数だけ派遣会社から従業員の派遣を受けることができる、人材採用・育成のコストが不要である、保険・労務対応が不要である、などといったメリットがあります。
なお、このような派遣を行う場合、派遣会社は、派遣事業の許可を得る必要があります。

派遣元会社の従業員は、派遣元会社との間で雇用契約を残したまま、派遣先会社において業務に従事します。
また、その従業員は、派遣先会社において指揮命令を受けます。
これらの点は、出向と同様です。

他方、派遣には派遣先会社との間では雇用契約が成立しないところ、出向には派遣先会社との間でも雇用契約が成立する、という点が両者の相違点です。

3 出向と「労働者供給」

以上を踏まえると、出向という形態を用いれば、労働者派遣と同じように、自社の従業員を他社において従事させることが可能なように見えます。
労働者派遣においては労働者派遣事業の許可が必要ですが、出向においては基本的にこのような許認可等は必要ではないため、許可なく実施できるようにも思われます。

しかし、「労働者供給事業」は、職業安定法第44条において禁止されています。
「労働者供給事業」は、「労働者供給」を行として行う者をいいます。
「労働者供給」とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないもの」をいいます。

出向は、上記の定義に当てはまり、職業安定法47号の「労働者供給」に該当します。
このため、これを事業として行う場合、「労働者供給事業」に該当します。
つまり、出向は、事業として行う場合、「労働者供給事業」として禁止されます。

4 「業として」行う労働者供給

「業として」は一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に遂行することをいいます。
また、厚生労働省の労働者供給事業業務取扱要領によると、営利を目的とするか否か、事業としての独立性があるか否かが反復継続の意思の判定にとって重要な要素となる、とされています。

この例として、労働者の供給を行う旨宣伝、広告している場合、事務所を構え労働者供給を行う旨看板を掲げている場合等については、原則として事業性ありと判断される、とされます。
このような方法で出向を実施すると禁止される労働者供給事業に該当し、違法といえます。

ただし、たとえ反復継続的に行われる出向であっても、以下①から④のいずれかに該当する出向であれば、社会通念上、業として行われていると判断し得るものは少ないと考えられています。
もちろん、個別的な判断になりますので、事業性がないと評価できるような運用をする必要があります。

労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
経営指導、技術指導の実施
職業能力開発の一環として行う
企業グループ内の人事交流の一環として行う

5 まとめ

出向を行う場合には、上記の条件に該当するように実施する必要があります。
労働者派遣の許可を得ることを回避しつつ自社の労働者を利用させたい、業務の受託をしながら委託元企業において労働者に対する指揮命令を認めたい、などの目的には利用できませんので注意して下さい。

Category:労働問題 , 労働者派遣 , 契約

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