1 はじめに
消費者契約法では、不当条項規制として、一定の消費者契約の条項を無効とするルールがあります。
2023年6月施行の改正消費者契約法では、無効とされる類型が追加されましたので、改めて見直しをするとよいです。
2 不当条項規制の背景
消費者契約法では、「事業者の損害賠償責任を免除する条項等の無効」というルールがあります。
事業者が消費者向けに提示する契約書や利用規約では、事業者側が利用者に対して負担する損害賠償責任を制限する条項が設けられることが多いといえます。
このような条項は、消費者の権利を制限するものであり、このような制限が不当な範囲に及んでしまうと、消費者の正当な権利行使が抑制されてしまうことになります。
このため、消費者契約法では、事業者の損害賠償責任を制限する条項について、一定のものについて「無効」としています。
3 不当条項規制の内容
具体的には以下の条項が無効とされます。
具体的な条項例とともにご確認ください。
①事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
②事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
③消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
④消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
【無効になってしまう条項例】
・当社は、いかなる場合であっても、利用者に対し、損害賠償責任を負いません。
・当社が損害賠償責任を負う場合、当社が定める範囲に限り、損害賠償責任を負います。
・当社の故意又は過失により利用者に対して負担する損害賠償責任は、金●●万円を上限とします。
4 サルベージ条項規制の追加
(1)2023年6月施行の改正
2023年6月施行の改正消費者契約法では、不当条項規制として上記の規制に追加してサルベージ条項も規制されることになりました。
【消費者契約法第8条第3項】
事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。
(2)無効になってしまう条項例
無効になってしまう条項の例は以下のとおりです。
【無効になってしまう条項例】
・当社は、当社が利用者に対して損害賠償責任を負う場合であっても、法律上許される限度で損害賠償責任を負担します。
・当社は、当社が利用者に対して損害賠償責任を負う場合であっても、法律上許される場合に限り、損害賠償額の限度を●万円とします。
(3)変更例
「重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかに」しなければなりません。
このため、以下のように変更の見直しが必要です。
【変更例】
・当社は、当社が利用者に対して損害賠償責任を負う場合であっても、損害賠償責任を負担します。ただし、当社の故意または重過失がある場合はこの限りではありません。
・当社は、当社が利用者に対して損害賠償責任を負う場合であっても、法律上許される場合に限り、損害賠償額の限度を●万円とします。ただし、当社の故意または重過失がある場合はこの限りではありません。