残業代の管理が煩雑なので、1日2時間程度の残業代を含めた給与制度にしたいと考えています。そのような制度を設けても良いでしょうか。
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結論からいうと、残業代込みの給与制度(固定残業代)は、基本給部分と残業代部分を明確に判別することができるように設計されれば有効です。但し、労働者にとって不利益変更になる場合には、動労者の個別同意が必要です。
システム開発のような労働集約型の企業では、しばしば残業代込み給与制度を採用していることがあります。
しかし、そもそも残業代込みとする給与制度そのものが許されないのではないかが問題となります。
最高裁は、これまで労基法37条の定める残業代が支払われるのであれば、同上の趣旨は守られるので、法は、そのような給与制度そのものを許さない趣旨ではないとしています。しかし、支給された賃金のうち、いくらが残業代部分なのかが明確にされていない場合、裁判所は残業代込みという合意は無効であって残業代の支払いがなされていないと判断します。平成29年の最高裁のケースを紹介しましょう。
このケースは、医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていました。具体的には、夜間、休日出勤、および当直を除く勤務については、8時半から夕方5時半を超える残業も1700万円の年俸に含まれるというものです。
原審である高等裁判所は、医師の仕事内容の特色(定時が来たからといって治療行為を中断するわけにはいかないことなど)、医師には業務の実施について裁量があることや、年俸が高額であることなどから残業代込みを有効としても労働者に不利とはいえないとして、残業代の未払があるとは認めませんでした。
しかし、最高裁は次のように述べて、高裁の判断を取り消して、残業代の未払があると判断しました。労基法37条の定める残業代が支払われたかどうかを確認するためには、基本給部分と残業代部分が区別されていなければ計算することができないから、医療法人が医師に支払った年俸についても、通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することもできない。よって、医師に対する残業代(割増賃金)が支払われたということもできない。
このような考え方は、最高裁が過去の事例(※)でも述べてきたものですが、このケースによって、ある程度裁量がある年俸が高額な労働者についても同様の考え方をすることが明らかになりました。
このような最高裁の考え方を踏まえると、企業が残業代込みの給与制度を定める場合には、基本給部分と残業代部分との区別を明確にし、給与明細などにそれを反映する運用をする必要があります。当然ですが、基本給部分は最低賃金制度を満たすものでなければなりません。
平成29年7月7日 最高裁判決
要旨URL: http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86897
(判示事項)判決全文はこちら: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/897/086897_hanrei.pdf
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