Q.当社では従業員の副業・兼業の促進に取り組もうとしています。従業員が副業・兼業をする際に当社として気を付けることはありますか?(1/2)

A.「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和291日改訂・厚生労働省)[1]及び「副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&A」[2]に企業に対する留意点が示されています。留意点を抜粋すると次のとおりです。

1 安全配慮義務

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなくてはなりません(労働契約法第5条)。

従業員が副業・兼業を行うと必然的に全体の業務量・時間は多くなってきます。したがって使用者としては、従業員の副業・兼業を含めた全体の業務量・時間を把握し従業員の健康に配慮しなくてはなりません。具体的な対策としては次のようなものが挙げられます。

・就業規則、労働契約等(以下「就業規則等」という。)において、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと

・副業・兼業の届出等の際に、副業・兼業の内容について従業員の安全や健康に支障をもたらさないか確認するとともに、副業・兼業の状況の報告等について従業員と話し合っておくこと

・副業・兼業の開始後に、副業・兼業の状況について従業員からの報告等により把握し、従業員の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずること

2 秘密保持義務

従業員には使用者の業務上の秘密を守る義務を負っていますが、従業員が副業・兼業先で当該秘密を漏えいするリスクがあります。そこで、使用者としては、従業員が副業・兼業先で業務上の秘密を漏えいしないように、就業規則等において、業務上の秘密が漏洩する場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができる旨を定めたり、副業・兼業を行う従業員に対して、業務上の秘密となる情報の範囲や、業務上の秘密を漏洩しないことについて注意喚起したりする等の対策が必要です。

3 競業避止義務

従業員は一般的に使用者と競業(使用者が対象とするマーケットにおいて競争状態となること)する業務を行わない義務があります。ここで競業する業務とは、使用者の正当な利益を不当に侵害する業務を言いますから、競業避止義務違反は、業種・職種の同一性のみでなく、本業と副業・兼業の内容や範囲等を鑑みて判断する必要があります。

したがって、使用者としては、就業規則等において、競業により、自社の正当な利益を害する場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができる旨を定めたり、副業・兼業を行う従業員に対して、禁止される競業行為の範囲や、自社の正当な利益を害しないことについて注意喚起したりする等の対策が必要です。

4 健康管理

使用者は、従業員が副業・兼業をしているかにかかわらず、労働安全衛生法第66条等に基づき、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等(以下「健康確保措置」という。)を実施しなければなりません。健康確保措置の実施対象者の選定に当たっては、副業・兼業先における労働時間を通算する必要はありません。しかしながら、副業・兼業を認めている以上、健康保持のため自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝えるよう周知したり、副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施したり、副業・兼業を行う従業員の健康確保に配慮することが求められます。

5 副業・兼業の禁止又は制限の可否

このように、使用者としては、副業・兼業を促進するといっても、場合や状況に応じてそれらの禁止や制限を定めることも必要となってきます。

従業員の副業・兼業を例外的に禁止又は制限することできる場合は次のとおりです。

①労務提供上の支障がある場合

業務上の秘密が漏洩する場合

競業により自社の正当な利益が不当に害される場合

自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

以上

[1] https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf

[2] https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000193040.pdf

Category:労働問題 , 労働契約 , 就業規則 , 雇用問題

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