Q.当社では従業員の副業・兼業の促進に取り組もうとしています。従業員が副業・兼業をする際に当社として気を付けることはありますか?(2/2)

A.「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和291日改訂・厚生労働省)[1]及び「副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&A」[2]に企業に対する留意点が示されています。留意点を抜粋すると次のとおりです。

労働時間管理

 労基法第38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む(労働基準局長通達(昭和 23 5 14 日付け基発第 769 号))ため、副業・兼業の認める使用者としては、副業・兼業を行う従業員の労働時間の管理は重要になってきます。

 もっとも、労基法が適用されない場合(フリーランス、コンサルタント等)や労基法が適用されるが労働時間規制が適用されない場合(農業・畜産・水産業・高度プロフェッショナル等)、いわゆる36協定に定めた延長時間がある場合といった例外的な場合には労働時間が通算されません。

(1)所定労働時間の通算方法

 まず、副業・兼業の開始前において、自らの事業場における所定労働時間と他の使用者の事業場における所定労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認してください。この通算により、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した使用者(副業・兼業先)における当該超える部分が時間外労働となり、当該使用者における 36協定で定めるところによって労働を行うこととなります。

(2)所定外労働時間の通算方法

 次に、上記所定労働時間の通算に加えて、自らの事業場における所定外労働時間と他の使用者の事業場における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、当該超える部分が時間外労働となります。各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間のうち、自らの事業場において労働させる時間については、自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内としなくてはなりません。各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間(他の使用者の事業場における労働時間を含む。)によって、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件(労基法第36条第6項第2号及び第3号)を遵守するよう、1か月単位で労働時間を通算管理する必要があります。

(3)割増賃金の支払い

 各々の使用者は、自らの事業場における労働時間制度を基に、他の使用者の事業場における所定労働時間・所定外労働時間についての労働者からの申告等により、

①まず、労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し(上記(2))、

②次に、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって、それぞれの事業場での所定労働時間・所定外労働時間を通算した労働時間を把握し(上記(3))、

③その労働時間について、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金(労基法第37条第1項)を支払う必要があります。

(4)具体例

以上の通算方法を具体例で示すと次のようになります。

ア 甲事業主と「所定労働日は月曜日から金曜日、所定労働時間8時間」を内容とする労働契約を締結しているAが、乙事業主と新たに「所定労働日は土曜日、所定労働時間5時間」を内容とする労働契約を締結し、それぞれの労働契約のとおりに労働した場合。

(ア)まず、甲事業場での1日の労働時間は8時間であり、月曜から金曜までの5日間労働した場合、労働時間は40時間となり、法定労働時間内の労働であるため、労働契約のとおりさせた場合、甲事業主に割増賃金の支払義務はありません。(上記①及び②参照)

(イ)そうすると、Aの労働時間は、週の法定労働時間に達しているため、乙事業主での土曜の労働は全て法定時間外労働となります。

(ウ)したがって、乙事業場では時間外労働に関する労使協定の締結・届出がなければAを労働させることはできず、乙事業場で土曜日に労働した5時間は、法定時間外労働となるため、乙事業主は5時間の労働について、割増賃金(割増率1.25倍以上)の支払い義務を負うことになります。

イ 甲事業主と「所定労働時間4時間」という労働契約を締結しているBが、新たに乙事業主と、甲事業場における所定労働日と同一の日について、「所定労働時間4時間」という労働契約を締結し、甲事業場で5時間労働して、その後乙事業場で4時間労働した場合。

(ア)まず、Bが甲事業場及び乙事業場で労働契約のとおり労働した場合、1日の労働時間 は通算して8時間となり、法定労働時間内の労働となります。(上記①参照)

(イ)この時点で1日の所定労働時間が通算して8時間に達していますが、実際にはBは甲事業場で5時間の労働をしており、1時間の時間外労働をしていることになります。(上記②参照)したがって、甲事業場では時間外労働に関する労使協定の締結・届出がなければBを労働させることはできず、法定労働時間を超えて労働させた1時間分について甲事業主は割増賃金(割増率1.25倍以上)の支払い義務を負います。

(5)所定外労働時間の把握

このように、労働時間の管理は、副業・兼業先の所定労働時間や実際の労働時間を把握する必要があります。したがって、使用者としては従業員に対し、

・一定の日数分をまとめて申告等させる(例:一週間分を週末に申告する等)

・所定労働時間どおり労働した場合には申告等は求めず、実労働時間が所定労働時間どおりではなかった場合のみ申告等させる(例:所定外労働があった場合等)

・時間外労働の上限規制の水準に近づいてきた場合に申告等させる

等の方法で従業員の労働時間を管理してください。

以上

[1] https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf

[2] https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000193040.pdf

Category:労働問題 , 労働契約 , 雇用問題

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