英文契約書において、契約の相手方と紛争が生じた場合に備えるための、仲裁条項(Arbitration)や裁判管轄(Jurisdiction)などはどのように記載すればよいでしょうか。

紛争解決条項

 契約締結時においては円満な関係の当事者であっても、その後の様々な状況の変化によって両当事者間で紛争が生じることがあります。そのときに当事者間の協議で解決できればいいのですが、協議による解決が難しく第三者(紛争解決機関)による解決が必要な時もあります。そのようなときに適用されるのが紛争解決条項(Settlement of Disputes)です。
 国際取引における紛争解決の方法としては、主として、仲裁か裁判になります。そこで、紛争解決条項としては、仲裁条項か裁判管轄条項を定めておくことになります。この紛争解決条項で自分に有利な内容の条項を定めておくことは、紛争になった時に相手方に与えるプレッシャーは大きいと言えます。
 以下にそれぞれについて検討してみます。

仲裁条項(Arbitration)
 紛争解決と言うと裁判が一番に思いつくかもしれませんが、国際取引の紛争解決手段では仲裁を検討することの方がむしろ一般的かもしれません。仲裁を選ぶメリットとしては、商慣習に詳しくない裁判官や陪審員による判断を避けることができること、仲裁は非公開が原則であること、仲裁では一般的に上訴がないため比較的早期に解決すること、仲裁の方が強制執行が容易な場合も多いこと(この点は後記します。)などが考えられます。いずれも重要なメリットですので、紛争解決の場として仲裁を選択したいと考えることも合理的なのですが、当事者間で仲裁合意をしておかないとそもそも仲裁機関が受け付けてくれませんので、もし紛争になった時には仲裁で解決したいと考えるのであれば契約締結時に検討し、合意しておくことが必要になります。
 仲裁合意として最低限定めるべきことは、①仲裁機関の指定、②仲裁を行う場所、③仲裁判断が当事者を最終的に拘束するかどうかです。さらに、④仲裁人数や④仲裁言語を当事者間で定める場合もあります。
 
 例文
All disputes, controversies, or differences which may arise between the parties, out of or in relation to this Agreement or for the breach thereof, shall be submitted for arbitration to be held in New York, New York, U.S.A. Arbitration shall be proceeded by one or more arbitrators under the rules of the American Arbitration Association. The award of the arbitrators shall be final and binding upon the parties.
(本契約又はその違反から直接もしくはそれに関連して、当事者間に起こり得る一切の紛争、紛議又は意見の相違は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市における仲裁に付されるものとする。仲裁は、アメリカ仲裁協会の規則に従い、1名又はそれ以上の仲裁人により行われる。仲裁人による仲裁裁定は、最終的なものとし、当事者を拘束する。)

 仲裁機関として世界的によく引用されるのは、アメリカ仲裁協会(American Arbitration Association)(略称AAA)、国際商業会議所国際仲裁裁判所(International Chamber of Commerce Court of Arbitration)(通称ICC)、ロンドン国際仲裁裁判所(The London Court of International Arbitration)(通称LCIA)です。日本では、日本商事仲裁協会(JCAA)が著名ですし、アジアでは中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)やシンガポール仲裁センターがよく利用されているようです。
 ところで、国際競争力が増している中国との関係では、裁判所の判断による強制執行の可能性が問題となります。現在の状況では、日本の裁判の判決をもって中国国内で強制執行することは困難と言ってよいです。同様に、中国の判決で日本国内に強制執行することもできない状況です。他方で、日本も中国も外国仲裁判断の承認・執行に関する多国間国連条約(いわゆるニューヨーク条約)」に加盟しており、仲裁判断であれば相互に執行可能と言えます。
仲裁を行う場所の決め方としては、両当事者のいずれかの国を指定する場合もあれば第三国を指定する場合もあります。
 仲裁判断が最終的なものではないとした場合には結局裁判になってしまうおそれがありますので、そのような取り決めをする場合は慎重に検討する必要があるかと思います。

裁判管轄条項(Jurisdiction)
 仲裁によらない場合には裁判により紛争を解決するということになります。その場合には裁判管轄をどこにするかが非常に重要です。相手方の国に裁判管轄を認めるということは、相当にリスクが高いと言えます。例えば、日本では懲罰的損害賠償は認められていませんが、相手国ではそれが認められていて想像をはるかに超える賠償額が認められてしまうおそれもあります。相手国によっては裁判が必ずしも公正にされるとも限りません。ですから、この裁判管轄をどこにするかは非常に重要なのです。
 なお、国によっては当事者間の合意管轄を認めないこともあり得ますので、定めたとしても無効になってしまうおそれがあることもご留意ください。

 例文
The Parties hereto agree that all the lawsuits hereunder shall be exclusively brought in the Tokyo District Court of Japan.
(本契約の当事者は、本契約から生じる一切の訴訟について日本の東京地方裁判所の専属的裁判管轄に服することを合意する。)


最後に
 紛争解決条項は、当事者間の力関係にもよりますが、上記のとおり非常に重要な規定ですし、一歩間違えるとせっかく合意しても無意味な規定にもなりかねません。

Category:英文契約書

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