勤務規則等に要求される対価決定手続
-
法令上要求されている対価決定手続は,
- (1) 職務発明規程等を策定するに際し使用者は従業者(研究者)と協議を行うこと
- (2) 協議の結果策定された職務発明規程等を従業者(研究者)に開示しておくこと ex.掲示,イントラネット,配布など
- (3) 具体的な発明に際して職務発明規程等を適用して対価を算定する際には,従業者(研究者)の意見を聴取すること ex.対価算定前に予め意見聴取,対価支払後に異議を受付など
の3点です。 特に,(1)(2)は職務発明規程を作成する段階,閲覧させる段階で必要となる手続であり,職務発明規程を準備するだけでは不十分である点にご注意下さい。 また,労働協約や就業規則が労働法上有効に成立しているとしても,必ずしも特許法35条の「不合理性」が否定されるわけではありません。
以下,(1)職務発明規程等を策定するに際し使用者は従業者(研究者)と協議を行うこと,について詳細します。
職務発明規程等を策定するに際し使用者は従業者(研究者)と協議を行うこと
集団的に話し合いを行なう場合
- 必ずしも1人1人と個別に話しあう必要はない。例えば従業員等が一同に会して話合いを行ったり,イントラネットの掲示板や電子会議等を通じても「協議」になる。
- 結果的に発言しなくとも,発言の機会が与えられてさえいれば「協議」が行われたといえる。
- 研究職とそれ以外とをあわせて話会いを行なってもよいが,それによって,研究職の発言の機会が実質的に奪われる場合には,結果として策定された対価の定めの不合理性が高くなる。
- 大半の従業員が一同に会した話会いに同意するが,1人だけ個別の話し合いを求めている場合には,当該従業員に対しては個別に話し会いをする必要がある。
- 話し合いが紛糾して,まとまらない場合でも,話し合いが十分に尽くされていれば,結果として策定された対価の定めの不合理性が高くなることはない。
代表者と話会いを行なう場合
- 代表者は従業員等を正当に代表していることが必要であり,原則として明示的な委任がのぞましいが,代表者が協議を行なうことについて当該従業員が事前に通知を受けながら異論を明確に唱えなかった場合など,黙示の委任があったと評価できる場合もある。
- 代表者の選出を多数決による場合は,反対者を代表したとはいえない。ただし,多数決で選出することを,従業員らが了承した場合には正当な代表者であると評価できる。
- 労働者が100%加入している労働組合の代表者と使用者の話し合いは,全労働者が組合に代表を委任したといえる場合には,労働者との間では「協議」となるが,役員との間では『協議』が行われたこととはならない。
協議の進め方について
- 協議の時間をあらかじめ定めておき,予定された時間が経過すれば協議を打ち切るという協議の方法は,実質的に協議が尽くされたと評価できるものでないかぎり,結果として策定された対価の定めの不合理性が高くなる。
- 使用者が話し合いを求めたにもかかわらず,ある従業員がどのような方法の話し合いにも応じない場合には,結果として策定された対価の定めの不合理性が高くなることはない。
協議において従業者に開示説明する事項
- 職務発明規定(特許法35条)に関する事項や,研究開発に関連して使用者等が受けている利益,使用者が負担するリスク,他社の基準など。
対価を決定するための基準の内容について
- 具体的にある特定の内容が定められている必要はない。
平成21年3月