当社は、不採算部門を会社分割によって他社に承継させようとしています。これに関して労働者の保護のための特別な法律があると知ったのですが、どのような手続きを行えばよいのでしょうか。

主に、

  1. 過半数組合または過半数代表者との協議(労働者の理解と協力を得るための措置)
  2. 労働契約承継に関する労働者との協議
  3. 株主総会の日の2週間前までの労働者への通知

を行う必要があります。

解説

会社分割は、合併や株式交換などの他のM&Aと異なり、承継対象となる労働者にとっては、実際の勤務先の変更により生活に重大な影響を及ぼすものであるにもかかわらず、労働契約を引き継ぐ際には、個々の労働者の同意は不要です。そのため、労働者保護の趣旨から、以下の手続をとることを求めています。

  1. 労働者の理解と協力を得るための措置(労働契約承継法7条、「7条措置」)。
  2. 労働契約承継に関する労働者との協議(平成12年商法改正附則5条、「5条協議」)
  3. 株主総会の日の2週間前までの労働者への通知(労働契約承継法2条)

なお、労働契約承継法の概要を詳しく知りたい場合は参考1を、3の通知の様式例について知りたい場合は参考2をご覧ください。

7条措置や5条協議の手続に違反した場合の効果については判例(参考3)があります。そのポイントは、以下のとおりです。

  1. 5条協議を全く行わなかった場合、または、協議の際の当該会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるような場合には、5条協議義務違反として、労働契約承継の効力を争うことができる
  2. 7条措置は、努力義務であるため、この違反自体は労働契約承継を無効とはしないが、5条協議義務違反の有無を判断する一事情となる
  3. 以上の判断の際には、手続が指針(参考4)に沿って行われたものかも十分に考慮される

指針の概要は以下のとおりです。

5条協議

  1. 労働者との事前の協議 後に当該労働者が勤務することとなる会社の概要、当該労働者の労働契約承継法2条1項1号該当性についての考え方等を十分説明し、本人の希望を聴取した上で、労働契約の承継の有無、その場合に従事することを予定する業務内容、就業場所その他の就業形態等について協議をする
  2. 協議に当たっての代理人の選定 労働者が個別に労働組合を代理人として選定した場合は、当該労働組合と誠実に協議をする
  3. 協議開始時期 通知期限日までに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて協議を開始する

7条措置

  1. 内容

    過半数組合または過半数代表者との協議など

  2. 対象事項
    • 会社分割をする背景及び理由
    • 効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行に関する事項
    • 当該労働者が労働契約承継法2条1項1号に該当するか否かの判断基準
    • 法第6条の労働協約の承継に関する事項
    • 会社分割にあたり、会社等と関係労働組合または労働者との間に生じた労働関係上の問題を解決するための手続
  3. 開始時期等

    遅くとも5条協議開始までに開始され、その後も必要に応じて適宜行われること

参照

  1. 「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)の概要」(厚生労働省HP)
  2. 「通知書・異議申出書の様式例」(厚生労働省HP)
  3. 「日本アイ・ビー・エム事件」(最高裁平成22年7月12日判決)(裁判所HP)
  4. 「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」(厚生労働省HP)

Category:労働問題 , 労働契約

企業向け顧問弁護士サービス
企業を対象とした安心の月額固定費用のサービスを行っています。法務担当を雇うより顧問弁護士に依頼した方がリーズナブルになります。