当社は、業績悪化によりやむなく従業員の人員削減を行うことにしましたが、その際、法的リスクを最小限にするにはどうすればよいでしょうか。

希望退職者の募集→退職勧奨→整理解雇という手続の流れで行うべきです。

  1. 希望退職者の募集は優遇条件を合理的なものにするように、
  2. 退職勧奨はその方法が違法とならないように、
  3. 整理解雇は4つの要素をみたしているかに注意してください。

解説

人員削減の手段としては、希望退職、退職勧奨、整理解雇などが考えられます。 その順序については、できるだけ労働者の意思を尊重すべきとの観点から、まず希望退職者を募集し、退職勧奨を行い、それでも奏功しない場合に、整理解雇を行うという流れが望まれます。この点は後述の3.整理解雇の有効性にも関わってくるので注意が必要です。 以下では、各手段の注意点をあげます。

  1. 希望退職

    会社が、一定条件(対象年齢など)をみたす労働者全員に対し、優遇措置(退職金の加算など)を設けるなどして、広く退職を募集するものです。その際、優遇措置の対象となる労働者にあたるかでトラブルが生じることがあるため、その条件を合理的なものとすべきです。
    会社による希望退職者の募集に対して、労働者が応募し、これに対して会社が承諾するという過程を経ることになります。したがって、労働者が応募をしても、会社の承諾がない限り、退職の効果は生じませんので、会社は辞めてほしくない社員の退職を拒むことも一応可能です。
    希望退職に応募した労働者については、解雇ではなく合意退職となりますが、雇用保険では、原則として解雇(会社都合)と同様の扱いとなり、速やかに失業給付がなされます。

  2. 退職勧奨

    会社が対象者を定めて、退職を促すことを退職勧奨といいます。労働者が退職勧奨に応じ、退職願を提出した場合、労働者の自由な意思に基づく退職として、合意退職となります。この場合も、雇用保険の扱いは会社都合となります。
    退職勧奨は、会社が自由に対象者を定めることができることが利点ですが、対象者を性別等によって差別することはできません。
    退職勧奨を実施する際、労働者に対し執拗・半強制的な態様で心理的圧力を加えた場合(参考1)、懲戒解雇事由が存在しないのを知りつつ、それがあるかのように誤信させたような場合(参考2)などには、退職の意思表示が取消し・無効になったり、労働者から損害賠償請求されたりする可能性がありますので注意が必要です。

  3. 整理解雇

    「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」(労働契約法16条)と定められており、整理解雇も普通解雇の1つですので、これが適用されます。
    裁判所は、整理解雇の有効性を判断する際、以下の基準(「整理解雇の四要素」)によって判断しています。

    1. 人員削減の必要性
    2. 人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性(解雇回避の努力を尽くしたか)
    3. 解雇手続の妥当性(労使協議等を行っているか)
    4. 解雇対象者選定の合理性(選定基準が客観的・合理的であるか)

    従来は、これらの要素をすべて満たす必要があるとされてきましたが(参考3など)、近年では、いずれかの要件を満たさないからといって、直ちに整理解雇が無効とされるものではなく、総合的に判断される傾向にあります(参考4など)。もっとも、2.の解雇回避の努力を尽くしたかに関して、他の手段を試みずにいきなり整理解雇を行った場合には、ほとんど解雇は無効とされる傾向にあります。

    従業員のリストラは、その過程で辞めてほしくない従業員から離職してしまう傾向がありますし、従業員全体のモチベーションの低下など深刻なダメージを伴うため、軽々に選択するべきではありませんが、やむなく行わなければならない場合には、以上の点に注意すべきです。

参考

  1. 下関商業高校事件(最高裁昭和55年7月10日判決)(裁判所)
  2. 宮崎交通事件(宮崎地裁昭和41年3月10日判決)
  3. 東洋酸素事件(東京高裁昭和54年10月29日判決)(裁判所HP)
  4. ナショナル・ウェストミンスター銀行事件(東京地裁平成12年1月21日判決)

Category:労働問題 , 雇用問題

企業向け顧問弁護士サービス
企業を対象とした安心の月額固定費用のサービスを行っています。法務担当を雇うより顧問弁護士に依頼した方がリーズナブルになります。