新型コロナウイルスによってイベントや習い事教室が中止になりました。チケット代金や授業料金は返金されるのでしょうか?
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A 原則的に返金されます。
1 返金される理由
(1)契約に基づく返金
まず、イベントのチケットを購入する際の利用規約や、習い事教室を受講する際の契約に基づき返金を請求できる場合があります。契約や規約のなかで、中止の際にチケット代や授業料を返金する定めがあるか確認してください。このような定めがある場合は、原則的に返金請求ができます(例外は後記2(1))。
(2)法律に基づく返金
規約や契約に返金を認める定めがない場合でも返金請求をすることができます。新型コロナウイルスによる中止は、主催者側も国の方針に従ったやむを得ない措置であり、主催者の自己都合による中止ではなく主催者に責任があるとは言えないと判断され、一見返金が認められないとも思われます(法律上、主催者の債務不履行に帰責事由がない場合にあたると考えられます)。
しかし、中止について主催者に責任があると言えない場合であっても、改正民法542条1項 に基づき、規約や契約を解除することにより、返金を請求することができます。
なお、未だチケット代や授業料を払っていない状況で中止になった場合には、民法536条1項 に基づきそれらの代金の支払い拒否することができます。2 例外的に返金されない場合
(1)不可抗力条項の定めがある契約
例外的に返金の請求が認められない場合もあります。それは、規約や契約のなかで不可抗力条項が定められている場合です。
不可抗力条項は、一般的に地震や津波といった天災や、テロや火災といった人災等、元来人の力による支配・統制を観念することができない自然現象や社会現象(不可抗力)が発生した場合に契約関係や契約効果をどのようにするかを規定した条項をいいます。
そのため、不可抗力条項で、「不可抗力によってイベント(授業)が中止せざるを得ない場合には代金の返金には応じられない」といった定めとなっている場合、例外的に返金が認められないことになります。
もっとも、新型コロナウイルスが「不可抗力」の事由に該当するかどうかは当然争いがありますから、不可抗力条項があるからといって100%返金が認められないというわけではありません。
(2)その他の定めがある場合
また、規定や契約の中には、「イベント(授業)が中止になった場合、いかなる場合であっても返金対応はしません」といった、理由を問わず返金を認めない定めも時々見受けられます。しかし、このように、主催者都合による中止を含んだ、理由を問わず返金しないとする定めは、参加者や受講者に一方的に不利な条件といえ、消費者契約法10条の消費者の利益を一方的に害する条項に該当するとして無効となる可能性があります。
したがって、このような一方的な不利な条項があっても、当該条項の無効を主張して返金を請求することができます。3 イベントや習い事教室から参加を拒まれた場合
イベントや習い事教室が中止にならなくても、主催者側から参加を拒否される場合があります。例えば、「熱や咳のある方の参加はお断りします」といった具合です。「新型コロナウイルスに感染している方の参加はお断りします」ということであれば、このような制限措置は認められることについて特段異論はないかと思いますが、新型コロナウイルスに感染した確証がないのにもかかわらず、感染の疑いのある症状のみをもって参加を拒否することは許されるのでしょうか。
仮にあらかじめ契約や規約に定めがあれば、当然当該措置は許されるでしょうが、新型コロナウイルスは文字通り「新型」であり想定外の出来事ですから、契約や規約に定めがあるのは考えにくいでしょう。
もっとも定めがない場合であっても、今般の社会情勢や感染拡大防止の観点から許されるとすべきでしょう。その際の根拠としては、主催者の管理者としての権利が挙げられます。管理者の権利を行使している例として、一般的によくみられるものとしては、「会場内での迷惑行為または危険行為を禁止します。主催者が警告しても当該行為を止めない場合は、退場処分とします。」といったものがあります。今回の制限措置もこのような管理者としての権利行使の一つとして認められると考えられるでしょう。
したがって、主催者側から参加を拒否された場合は、代金支払の拒否(改正民法536条1項)あるいは契約解除をして代金の返金(改正民法542条1項)を請求するとよいでしょう。4 現状の対策
新型コロナウイルスの影響は当初の予想を上回り、日本全国に大きな影響を与えています。今回のようなイベント等の中止が自分の身に降りかかる可能性は今後も大いにあります。仮にそのような事態に直面したときは、焦らずに主催者のホームページ確認や、規約・契約の確認を行ってください。参考条文(民法)
第542条1項 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。第536条1項 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
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