いわゆるリバースエンジニアリング(製品などを分解・解析し、その仕組みを明らかにすること)によって容易に取得できる情報は営業秘密にはあたらないので、ライバル会社がこれを利用することは違法ではありません。このような場合は事前に、秘密保護のための対策を講じる必要があります。
解説
リバースエンジニアリングは違法?
他社の「営業秘密」にあたる技術上の秘密を不正に取得・使用することは、不正競争防止法違反となる場合があります。
もっとも、製品開発に用いられる技術上の情報が不正競争防止法の「営業秘密」として保護されるには、3つの要件が必要です。
営業秘密の3要件
1 秘密として管理されていること(秘密管理性)
2 有用な情報であること(有用性)
3 公然と知られていないこと(非公知性)
このうち3つ目の要件(非公知性)は、その情報が刊行物等に記載されていないなど、情報保有者の管理下以外では一般に入手できない状態にあることをいいます。ということは、他人や書物等から容易に引き出すことができる情報は、非公知性要件を満たさないということです。
今回の御社の製品に関する技術上の情報も、御社から技術上の情報を聞き出さなくとも、市場で流通している製品を分解して調査すれば容易に取得できるものですので、非公知性の要件を満たさないということになります。なお、情報を「容易に引き出すことができる」かどうかというのは、製品の分解や解析に特別な技術や多額の費用が必要となるかどうかという点がポイントになります。
したがって、ライバル会社のリバースエンジニアリング行為は営業秘密の不正取得にはあたらず、適法です。
自社の技術を守るための秘密保護対策
技術上の秘密を守るための方法としては次のようなものが考えられます。
御社の技術上の秘密の内容に応じて適切な秘密保護策を講じることが大切です。
- 当該技術について特許を取得する
特許を取得すれば、当該技術を独占的に使用できます。技術を真似て製品を製造・販売するライバル会社に対しては、特許権侵害の差し止め、損害賠償請求等を行うことができます。ただし特許の出願を行う場合は、(最終的に特許を取得できない場合であっても)技術の内容を公表しなければなりません。また特許権は出願から20年経過すると消滅してしまいますので、それ以上の期間秘密として保護することはできません。 - 製品の売買契約でリバースエンジニアリングを禁止条項を定める
製品の購入者に対してリバースエンジニアリングを禁止する旨の契約の定めは、実務上は有効と考えられています。製品の売買契約でリバースエンジニアリングを禁止し、これに違反してリバースエンジニアリングを行った相手方に対しては損害賠償請求を行うことを通じて、秘密の保護を図ることが考えられます。
ただし、リバースエンジニアリング禁止条項の効力を無制限に認めることには否定的な見解も多いところで、特許法69条等を参照して、禁止条項が無効であるとする学説もあります。また、とくにコンピュータ・プログラムのライセンス契約に関するリバースエンジニアリング禁止特約は、プログラムの研究・開発においてその自由競争を阻害するものとして、独占禁止法違反(不公正な取引方法12項「拘束条件付取引」)にあたりうるものとされています。現状ではこの問題について明確な結論が出ているとはいえない状況ですが、自由な研究開発を促し産業の発展に寄与するというリバースエンジニアリングのメリットを大きく損なわしめてしまうような契約条項は無効とされる可能性があるということです。
参考
経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」
知財高裁平成23年7月21日判決
ソフトウェアと独占禁止法に関する研究会「ソフトウェアライセンス契約等に関する独占禁止法上の考え方」