当社が売掛債権を有する取引先が民事再生手続に入りました。当社は当該取引先に債務も負担しているので相殺できればと考えています。ただ,売掛債権の弁済期は債権届出期限の後に到来するもので,かつ,民事再生手続の申立てを期限の利益喪失事由とする約定は結んでいません。相殺はできないのでしょうか。
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民事再生法では,再生債権者による相殺権の行使は,裁判所の定めた債権届出期間内に限りすることができると定められています(法92条1項)。
その趣旨は,相殺を広範囲に認めると会社の再生・更生を図ることが困難になるといったことや,民事再生は再建型の倒産処理手続であるため,権利関係を再生計画案作成・提出までに確定しておかなければならないからであるとされています。
なお,再生債権に手続開始の時点で,期限,停止条件,解除条件が付いている場合でも,債権届出期間満了までに期限が到来するなどして相殺適状となった場合には,相殺することが出来ます。
賃料債権を受働債権とする相殺
賃料債権を受働債権とする相殺については,再生債権者は,手続開始後に弁済期が到来する賃料債務につき,再生手続開始時における賃料の6カ月分に相当する額を上限として,相殺することができます(法92条2項)。
この上限額の範囲内であれば,相殺可能な賃料債務は,債権届出期間満了までに弁済期が到来するものに限られません。
上記のような例外に当たらない限り,債権届出期限までに弁済期の到来しない再生債権を自働債権とする相殺は認められません。
●かかる不都合を防止するためには,事前に,相手方の民事再生手続の申立て等を期限の到来事由とする特約(期限の利益喪失約款)を定めておくべきといえます。
※敷金返還請求権について
再生債務者に敷金返還請求権を有する賃借人が,再生手続開始後に弁済期の到来する賃料債務について弁済期にこれを支払った場合,再生手続開始時における賃料の6カ月分に相当する額の範囲内で,弁済額を上限として,その敷金返還請求権は共益債権とされます(法92条3項)。
もっとも,この保護を受けるには,弁済期における賃料の現実の弁済が要件とされています。
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