M&A後の旧経営陣向けインセンティブプラン。当社は、会社の売却を進めています。買主からは一定期間経営に関与するように求められており、これに関するインセンティブプランについて交渉がされそうです。これらの概要を教えてください。

1 はじめに

株式譲渡によるM&Aにより会社を売却する場合であっても、売却する会社の経営に最も明るいのは従来の経営株主であるので、従来の経営株主が直ちに経営を退くのではなく、一定期間、引き続き経営することが求められることがあります。
この場合、単純に、株式譲渡契約において、「経営株主は、株式譲渡日後も**年間、対象会社の経営を行う。」などと合意するにとどまることもあり得るところです。

しかし、従来の経営株主にとっては、売り渡してしまった会社の経営は、売り渡す前に比較して、やる気や熱量を維持することが難しいことがあり得ます。
そこで、従来の経営株主のやる気や熱量を維持させるために、従来の経営株主に付与するインセンティブプランが交渉されることがあります。
経営株主の立場からは、不利な条件とならないように、インセンティブプランの概要を理解しておく必要があります。

2 一般に見られるインセンティブプランの種類

このようなインセンティブプランとして、一般に、以下のようなものがあり得ます。
①経営株主の役員報酬を業績連動報酬とする。
②株式譲渡契約においてアーンアウト条項を付す。
③株式の譲渡を段階的譲渡とする。

①経営株主の報酬を業績連動報酬とする。

①は、最も分かりやすい方法です。
株式を譲渡した経営株主の報酬について、会社の業績に応じて報酬が決定することとします。
このような方法にすれば、経営株主は、より多額の報酬を得るために(報酬を減額されないようにするために)、会社を成長させるインセンティブが生まれます。

②株式譲渡契約においてアーンアウト条項を付す。

アーンアウト条項とは、株式の譲渡後に、会社が一定の指標を達成した場合には、買主が追加で譲渡価格を支払う、という条件をいいます。
このような条件が付されていれば、従来の経営株主は、追加の譲渡価格を得るために、会社を成長させてそれらの指標を達成しようとするインセンティブが生まれます。

③株式の譲渡を段階的譲渡とする。

段階的譲渡の場合は、従来の経営株主から買主に対する株式の譲渡を1回で行うのではなく、一部の株式を従来の経営株主に持たせたままとし、将来に、買主に対し、譲渡されることを合意しておきます。
この譲渡金額は、将来の一定の時期の企業価値に基づいて算出されることとするため、従来の経営株主は、それら一部の株式をより高値で売却するために会社を成長させるインセンティブが生まれます。

3 各インセンティブプランの論点・問題点

①経営株主の報酬を業績連動報酬とする。

業績連動報酬とする場合には、業績報酬の決定方法を交渉する必要があります。
この場合、各種の経営上の指標等に基づき報酬額を算定する方法や、会社を買収した親会社のストックオプションや株式報酬が付与されることも考えられます。

なお、このような業績連動報酬が税務上の損金算入ができるかについて、業績の指標等を踏まえた税務上の検討が必要であるといえます。

②株式譲渡契約においてアーンアウト条項を付す。

アーンアウト条項を付した場合も、どのような条件で追加金額を決定するのか(どのような指標を基準にして追加金額を定めるのか)を協議して決定する必要があります。
また、経営株主には株式譲渡後は、経営上の各種の制約(例えば、一定の事項については親会社の事前承諾が必要になるなど。)が付されるところ、制約がある中で指標の達成が難しい場合もあり、制約内容との関係性の観点でも、指標の決定が難しくなることがあり得ます。
加えて、アーンアウト条項に基づく追加金額が支払われる前に買主がさらに第三者に会社を売却してしまった場合には、アーンアウト条項をどのように取り扱うのか、についても明確にしておく必要があります。

また、アーンアウト条項の特有の問題点としては、株式の譲渡対価である以上、従来の経営株主以外にも株主がいる場合には、その株主にも追加金額が支払われることになる点です。
経営株主に対するインセンティブプランとして設計したものであり、ほかの株主に分配させる必要はないことが通常であり、留意が必要です。
特に、会社が優先株を発行しているケースでは、経営株主への譲渡金額の支払の前に、優先株主が優先して分配を受けることになってしまうので、従来の経営株主としては、自らの利益をきちんと確保できるのかについて十分に検討しておく必要があります。

③株式の譲渡を段階的譲渡とする。

段階的譲渡とする場合、いつ、どのような条件で譲渡されるのかを交渉して決定することになります。
例えば、一定の時期(例えば「第1回譲渡日から1年後の日」など)を定めておき、その日に自動的に譲渡されるという方法があり得ます。
また、「買主が従来の経営株主に対して売り渡しを請求した時」、などが求められることもあり得ますが、いつまでも買取をしてくれないと、従来の経営株主としては不都合であるので、できるだけ確実に買取りされるように交渉するべきといえます。

また、アーンアウト条項と同様に、経営株主には株式譲渡後は、経営上の各種の制約(例えば、一定の事項については親会社の事前承諾が必要になるなど。)が付されるところ、制約がある中で指標の達成が難しい場合もあり、制約内容との関係性の観点でも、指標の決定が難しいことがあります。
他方で、「経営株主以外の株主にも譲渡対価を分配してしまう」というアーンアウト条項で生じた問題点に関しては、通常、経営株主のみが一部の株式を保有し続けて他の株主は株主の地位を喪失することになるため、段階的譲渡を採用した場合には生じません。

Category:M&A , 契約 , 契約書

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