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どうしてトランプ大統領が選ばれたか

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2025年7月上旬に、日弁連のSDGsに関する講演を聴講した。
全体的に、日本は人権に配慮した先進的な取り組みをして世界に発信して行きましょう ^_^
という論調だった。  が、

パネルとして参加した米国在住日本人弁護士が、「現在、米国ではSDGs、D &I(Diversity & Inclusion)を持ち出すと、そっち系の人(民主党、リベラル、グローバリスト)と思われるので、口に出しづらい。」とコメントをされたのが印象的だった。

米国は、”新資本主義”、SDGs、D&Iなどをやりすぎて、白人中間層が没落し、社会が不安定になった。

1970年代までの米国では、子供は結婚して子供ができる頃には親の収入を超えて豊かな生活ができるのが当然だった。
1973年、79年のオイルショックによって住宅ローン金利は高騰し、サブプライム問題(2007年)、リーマンショック(2008年)、リストラによって家を失い、家族も失う。当たり前と思っていた平和で豊かな未来像が裏切られるのは辛い。
ヴァンス副大統領の回顧録が映画になった『Hillbilly Elegy』(2020年)を見ると、ラストベルト(Rust Belt)の白人労働者階級が、工場の閉鎖や経済の衰退によって職を失い、貧困の連鎖から抜け出せないでいることや、家族の薬物依存(特にオピオイド/商品名:オキシコンチン)やアルコール依存、家庭内暴力などがよくわかる。
1990年代以降、高卒以下の白人は、所得が増えず、家族も満足に養えなくなって、薬物の過剰摂取による中毒、自殺、アルコール性肝臓疾患による死亡が顕著に増加した(いわゆる「絶望死」)。
薬物+自殺+アルコール関連死の合計は、2021年には176,386人 に上り、「アメリカの第5位の死因」になり、2022年には21万人超、2023年も同程度と推定されている。
製薬業界は、議員や政治団体に多額の献金をすることで、強力な鎮痛作用を持つが依存性も強烈なオピオイドの規制を緩和し、患者支援団体に資金を提供して「痛みは治療すべき」というプロパガンダを展開し、医師や医療機関に高額な謝礼やコンサルティング料を支払って処方を促進させ、多くの人が中毒になり、オーバードーズによる死者が急増した。
2021年の米国での薬物過剰摂取による死者は10万8,000人、そのうち、オピオイドの過剰摂取による死亡者数は8万人以上に上ると推定されている。
そもそも健康を助けるはずの製薬業界が、”金のため”に人命や健康を害する構図になった。

米国は、住みづらい国になった。例えば、乳児死亡率は、その国の保健医療水準、衛生環境、栄養状態、そして社会全体の発展度合いを示す重要な指標だが、2023年の米国の1000人あたり乳児死亡率は5.204人で、ロシアの4.541人より多くなっている。

人々のエリートに対する考え方も変わっていった。
良い大学を出て熱心に仕事をし、社会的地位を得たエリートに対する信頼や尊敬はなくなった。
変わりに、貧困層の人々は次のように考えるようになった。
彼らは、ボストン、ニューヨーク、サンフランシスコといった特定の都市に生活し、金持ちの両親から子供のころから”負け組になるな”と言われ、自分のことだけ考えて試験に出ることだけ熱心に記憶し、良い大学を出て、高額の報酬をもらう職に就く。彼らは、口では、インクルーシブな世界を作ろうとか、誰もが平等な機会をとか、持続可能な未来を創ろうなどと言っているが、内心は貪欲に自分の利益だけを追求し、豪勢な消費生活を続けている腐敗した偽善者であると。
学歴や能力主義(メリトクラシー)に対する社会全体の不満は、エリートは、
「国民の本当の苦しみを知らない」
「データを見るだけで現場の人の話を聴かない。」
「成功しないのは努力が足りないからだ(自己責任論)と信じていて、構造的な貧困や格差の問題を見ないようにしているか、逆に格差を固定化し再生産して保身を図っている」
「世の中のあらゆる問題をビジネス=金儲け=効率性の視点からしか見ていない。」
という論調に結びつく。
反対に、金融・デジタルのエリート側は、毎週日曜日に教会に行き、聖書を大切にしている人たち(反中絶、反同性婚、ダーウィンの否定)を、怠け者の負け組・意識低い系の人たちとしてlook downする。
バラク・オバマ(2009年~17年)政権下では、期待とは異なり、上位1%の超富裕層が大きな恩恵を受け、貧富の差の「絶対的な開き」が拡大した。
貧困層の人々は、政治献金をくれる金持ち企業にすり寄る既存の政党に絶望し、堪忍袋の尾が切れて、グローバリスト、デジタリスト、リベラリストとテクノクラートが支配する米国を壊してくれる大統領を選んだ。
富裕層の中にも、構造的な格差に罪悪感を抱いている人が少なからずいて、貧困層に対して共感的な投票行動をした。

10年以上前に、資本主義は1ドル1票、民主主義は1人1票(だから、貧困層が過半数を超えれば、貧困層を代弁するものが、その国を支配するようになる)とポストしたのが現実になってしまった。
もともと米国は、他国に対する不干渉(≒モンロー主義)、排外主義、米国第一主義の素地がある。
トランプ大統領は、92年の大統領選挙で、ブキャナンが主張したこれらをトレースしている。
大統領が、日米安保は不要であり、日本に米軍を駐留させるのをやめて、日本は核武装をすれば良いと言うのもブキャナンと同じである。

日本にはもともとアメリカンドリーム的な文化はないし、このところ経済もあまりパッとしないが、外国資本や移民が多くなって、大半の平均的な日本人の総資産が全体の数%しかなく、低賃金で働くか仕事がなく、一家の大黒柱の日本人お父さんが、毎年10万人くらい薬物やアルコール中毒、或いは自殺によって死亡する(他の在日外国人の人はそうならない。)状況をイメージしてみると彼らの気持ちもわかる気がする。
そのような死に方は、本人が気の毒なだけでなく、その人の家族に深刻な心の傷を残す。
結局、米国が現在のようになったのは、何かの間違いではなく、なるべくしてなったように思う。
そしてなるべくしてなった以上は、しばらくこの状態が続くと考えるべきではないか。

ただ、冒頭のテーマに関しては、日本は人権の保護状況に関してはかなり遅れているので、まだまだSDGsやD&Iを進める必要がある。
米国が止めるなら、うちらも頑張る必要ないよね とはならない。

現在の状況を見て、考えなければいけない事はなんだろうか。
経済エリートを優先して、景気が良くなれば、全体的にボトムアップされるというストーリーは失敗することを米国が証明した。
日本が昭和時代のような分厚い中間層を作り直すことができなければ、経済的な格差がさらに開き、低所得の人たちとその人たちに共感を示す人たちが、現在の米国と同じようなリーダーを求めるようになるかもしれない。
その人は、ナショナリストで権威的なポピュリストだろう。
日本という国が、共同体であるとの人々の主観に基づいて成立しているのであれば、皆が共同体の構成員であるという一体感を持てる程度に富を再分配したり、弱者を保護する政策を取らなければならない。
人々は本質的に平等に尊重されるべきであると言う理念があるならば、本人が望まない低賃金の非正規雇用も無くした方がいい。自分の仕事がほとんど負荷も付加価値もないと自覚しつつ、高給もらっているホワイトカラーの人たち(いわゆるブルシットジョブワーカー)が沢山いるのだ。
そして、経済的に貧困層を減らし、中間層を増やすだけでなく、人々の心の持ち様の健全さ、寛容さとか思いやりが大切だと思う。
AグループがBグループを差別し、対立し始めたとする。
Aグループに入った人は、Bグループに対抗しようとして、デマを流してもAグループへの参加を呼び掛けたり、Bグループの問題をアピールする。デマは更に拡散し、反対勢力も負けじとプロパガンダを行う。両社の対立は深まり、最終的には理解も話合いもできない分断へと発展する。
敵対グループに対して不当な扱いをすると、そのグループの人々の心には罪悪感と復讐に対する恐怖が芽生える。その芽を放っておくと、何かの切っ掛けで重大な衝突が起こり、人として決してすべきではないような行いをするようになる。そうなっては遅い。
仏陀やその他の賢人が言っているように、怒りは最も愚かなことであり、他者を非難することも辞めておく方がよい。それは自分に返ってくるのだ。
「うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる」と相田みつをさんも言っている。

BTW 対米関係について、米国から何%の関税が提示されたと言うニュースがあるが、一喜一憂しても仕方がない。
米国が求めているのは、米国の製造業がナンバーワンに返り咲くことであり、日本の産業が米国にとって脅威でなくなる程度に縮小することだ。そうなるまでは一旦合意しても何度でもゴールを変えてくる。
半導体で圧倒的な世界シェアをとっていた日本の半導体産業を、日米半導体協議、etc、、によって弱体化させたのと同じように。

もちろん日本は米国に喧嘩しても勝つことはできない。
インドが、米国とロシアから兵器を輸入しているように、日本も現実的な対応をとるべきだと思う。

この記事の著者

古田 利雄

主にベンチャー企業支援を中心に活動しています。 上場ベンチャー企業、ネットイヤーグループ、Canbas、Modalis等の役員もしています。

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