- 当社は、飲食チェーンを運営する会社ですが、チェーン店の店長の処遇について注意すべき点はありますか。
店長が「管理監督者」にあたるかによって、残業代、休日手当を支払わなければならないかが変わる点に注意が必要です。なお、深夜割増賃金については原則的に支払義務がある点も注意してください。
解説
「管理監督者」(労働基準法41条2号)
店長が「管理監督者」にあたると、労働時間や休憩・休日について労働基準法の規制の対象外となり、会社は残業代・休日手当の支払義務を負いません。
他方、店長が「管理監督者」にあたらないのに、あたるかのような処遇をされると(「名ばかり管理職」といいます)、会社は未払残業代や休日手当を過去2年に遡って支払うことになります。また、紛争になって、裁判所の判断が確定すると「付加金」(制裁金のようなもの。労働基準法114条)の支払義務を負うことともなります。チェーン店の店長の「管理監督者」性が否定される重要な要素(補強要素)について定める、厚生労働省の通達(参考1)のポイントは以下のとおりです。これに一つでも該当する場合には、「管理監督者」性が否定される可能性が大きいとされていますので、注意してください。
- 「職務内容、責任と権限」について
- 採用
アルバイト・パート等の採用に関する責任と権限が実質的にない場合。 - 解雇
アルバイト・パート等の解雇につき実質的に関与しない場合。 - 人事考課
部下の人事考課に実質的に関与しない場合。 - 労働時間の管理
店舗における勤務割表の作成や所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合。
- 採用
- 「勤務態様」について
- 遅刻早退等に関する取扱い
遅刻早退等により、減給の制裁・人事考課での負の評価等、不利益取扱がされる場合。 - 労働時間に関する裁量(補強要素)
営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならない等により長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどない場合。 - 部下の勤務態様との相違(補強要素)
会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事している等、部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合。
- 遅刻早退等に関する取扱い
- 「賃金等の待遇」について
- 基本給、役職手当等の優遇措置(補強要素)
実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるとき。 - 支払われた賃金の総額(補強要素)
一年間に支払われた賃金の総額が、特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合。 - 時間単価
実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合。
特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、極めて重要な要素となります。
- 基本給、役職手当等の優遇措置(補強要素)
深夜割増賃金
店長が「管理監督者」にあたるとしても、判例(参考2)上、深夜割増賃金(労働基準法37条4項)については、原則として支払義務を負います。
もっとも、労働協約、就業規則等において、管理監督者の所定賃金に一定額の深夜割増賃金を含める趣旨であることが明らかな場合には、その額の限度では深夜割増賃金の支払義務を負いません。
管理監督者については労働時間の算定が難しいことから、賃金規定等において、管理監督者への役職手当には深夜割増賃金も含む旨を明示しておくことが望ましいといえます。 もちろん、その前提として、深夜割増賃金相当分を反映した賃金になっている必要があります。参考
- 「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(厚生労働省HP)
- 最高裁平成21年12月18日判決(裁判所HP)
- 「職務内容、責任と権限」について
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