少しずつ秋の気配を感じるようになってきましたね。今回は、会社法に関する2つの裁判例と、日経トップリーダーの記事をご紹介します。
1 判例紹介−最高裁平成21年4月17日判決
代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な財産の処分を行なった場合に、会社以外の者はその無効を主張できないと判断した判例をご紹介します。
2 裁判例紹介−東京高裁平成20年5月12日決定(ピコイ新株発行差止事件)
取締役会決議に基づいて一部の株主に取得条項付新株予約権を割り当てたことが著しく不公正な発行に当たると判断した裁判例をご紹介します。
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1 裁判例紹介−最高裁平成21年4月17日判決
Xは株式会社Aから、AのYに対する約2億円の債権譲渡を受けました。ところが、Aはこの債権譲渡の3ヶ月前には事実上倒産状態で、この債権譲渡について取締役会の決議を経ていませんでした。
XはYに対して、譲り受けた債権の支払いを求めましたが、Yは、この債権譲渡はAの取締役会決議を要する重要な財産の処分に当たるのに、会社法362条4項で求められている取締役会の決議がないのだから無効だと争いました。
原審(東京高裁平成19年4月25日判決)は、Aが事実上倒産したとき以降、AのYに対する債権がAの唯一の資産であったという状況からすれば、この債権譲渡が「重要な財産の処分」に該当し、取締役会の決議を経る必要があると認定した上で、Xがこの債権譲渡についてAの取締役会決議がないことを了知していた以上、債権譲渡は無効であると判断し、XのYに対する請求を棄却しました。
これに対して、最高裁は、「代表取締役が取締役会の決議を経ないでした重要な業務執行に該当する取引も、内部的な意思決定を欠くにすぎないから、原則として有効であり、取引の相手方が取締役会の決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときに限り無効になると解される(最高裁昭和40年9月22日判決)」としました。
そして、会社法362条4項の趣旨は、代表取締役への権限集中を抑制し、取締役相互の協議による結論に沿った業務の執行を確保することによって会社の利益を保護しようとする点にあり、「この趣旨からすれば、株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合、取締役会の決議を経ていないことを理由とする同取引の無効は、原則として会社のみが主張することができ、会社以外の者は、当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情のない限り、これを主張することはできないと解するのが相当である。」と判示し、本件ではYは当該債権譲渡の無効を主張することはできないとし、原審を破棄し、差し戻しました。
これまでこの点について判断をした判例はありませんでしたが、会社と取締役間の利益相反取引に関する判例と同様の枠組みで判断をしたもので、妥当な判断と考えられます(鈴木俊)。
参考:会社法362条4項1号
最高裁平成21年4月17日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090417163145.pdf
2 裁判例紹介−東京高裁平成20年5月12日決定(ピコイ新株発行差止事件)
ある会社は一部の株主に対して、取締役会決議に基づいて、買収防衛策の一環として、取得条項付新株予約権の無償割当を行いました。
原審(新潟地裁平成20年4月3日決定)は、本件新株予約権の無償割当ては現経営陣の経営支配権を維持するためのものであり、株主平等原則に違反する著しく不公正な方法によるものであると判断しました。
これに対して会社は、本件新株予約権の発行は敵対的買収に対する企業防衛という正当な目的があり、不公正発行には当たらないと主張して抗告しました。
東京高裁は、
「(会社法)278条2項は、株主に割り当てる新株予約権の内容及び数又はその算定方法についての定めは、株主の有する株式の数に応じて新株予約権を割り当てることを内容とするものでなければならないと規定するなど、株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としていると解されるのであって、同法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨は、新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべきである。」
「株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株主の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。」
「一方、株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが、会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく、専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には、その新株予約権無償割当ては原則として著しく不公正な方法によるものと解される。」
との判断を示した上で、本件新株予約権無償割当ては、現経営陣の経営支配権を維持するためのものであるとして抗告を棄却しました。
ブルドックソース事件(最高裁平成19年8月7日決定)では、株主総会の約83%の賛成を得て新株予約権の発行が承認されたという事実が裁判所の判断を後押ししたといわれています。一方、本事案では、取締役会決議でこれを行ったという点が不公正発行の一要因となっているといえます。現段階では、敵対的買収に対する企業防衛という目的で新株予約権を発行する場合、不公正発行と認定されないよう、株主総会決議を経ておくことが重要といえます(佐藤)。
参考:会社法109条1項、278条2項
最高裁平成19年8月7日決定(ブルドックソース事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070927142919.pdf
「Clair Law firm ニュースレター vol.3」
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古田弁護士は、隔月で「今月のチェックポイント」に出ていますが、今回は「裁判員休暇は有給か無給か」について話しています。
このCDは、車に乗りながらでも耳からビジネス情報を取得できるため好評を博しています。ご興味のある方はぜひ一度ご視聴ください。
参考:日経BP社「トップの情報CD」
http://ec.nikkeibp.co.jp/item/magazine/NVP.html
ClaBlog「日経ベンチャークラブ 9月号」
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