当事務所の古田弁護士はファウンダーインスティテュート東京のディレクターをしています。ファウンダーインスティテュートでは、スタートアップに役立つ様々なブログを掲載しています。
今回は、「製品やサービスを売り出す(ローンチ)するタイミングで気を付けるべきこと」について紹介します。
売り出し(ローンチ)!次にあなたは何をすべきでしょう?
売り出しは、スタートアップにとって重要な出来事に違いありません。
しかし、それは決してゴールではなく、次のステップの始まりなのです。
売り出しは、マーケティングのスタートなのです。
Intercom社のGreg Davis 氏が、間もなく商品を売り出そうとしている起業家に向けて、売り出した後に何を考えるかについて、アドバイスを提供しています。この記事をご紹介いたします。(元の記事: "Your Product is Launched. Now What?", Inside Intercom)
売り出すまでは、「顧客」は単に仮定された存在に過ぎなかったでしょう。
しかし、売り出された商品には現実の顧客がいます。
これからは、その顧客の声を聴き、意見を深く検討し、商品を改良し、また顧客の声を聴き、意見を深く検討し、商品を改良するというサイクルを繰り返すことになります。
売り出しとは、このようなマーケティングのスタートのときです。
商品に関するやり取りが増える
売り出しについての考え方は、インターコム社のマーケティングチームの役割分担の仕方からヒントを得られます。
マーケティングが踏むステップに応じて、マーケティングチームに課される役割が異なります。この役割は以下の4つに分類でき、商品の売り出しに関する役割は、はじめの3つです。
- Reach:商品について知らせること
- Attract:人々にウェブサイトを見てもらい、潜在的な顧客にすること
- Convert:加入を促して、顧客にすること
- Educate:顧客に価値を提供し、商品を愛してもらうこと
売り出しによって商品に関するやり取りが急増します。Reach, Attractの観点からは、このような急増があれば、商品の将来は非常に有望に見えるでしょう。しかし、より深く検討していくと、売り上げは伸びておらず、それほど有望ではないと思われることもよくあることです。売り出しの時点ではターゲット化がそれほど高度ではないため、商品に関するやり取りは急増しながらも売り上げは伸びない、ということが実際には起こるものです。商品に関するやり取りについての日々の記録を見ると、そのうちのほとんどが、購入しない人々とのやり取りです。
インターコム社では、潜在的顧客になる以前の段階、潜在的顧客である段階、顧客となる段階の全てにおいて、マーケティングの成果を測定しています。潜在的顧客とのやり取りが増加しながらコンバージョン(新規登録、商品購入等)の増加に反映していない場合、売り出しはうまくいっているとはいえません。そのような事態が生じているなら、その原因を十分に理解し、変更を加えていく必要があります。
売り出しに伴い、これまで手にすることができなかった膨大なデータを得ることになります。このようなデータを用い、顧客が欲しているものに対する理解を得ながら、ウェブサイトや商品に少しずつ変化を積み重ねていくことで、売り上げを伸ばしていくのです。
顧客のフィードバック獲得と改善を繰り返す
マーケティングに重要なことは、人々がなぜ商品を購入しないのかという点についての問題点を見つけ出すことです。次に見るような3つのステップによるのがよいでしょう。
1. 意見を聴くこと
商品を開発しているときから、商品が誰をターゲットにしているのか、なぜその人たちがターゲットになるのか、あれこれ想定してきたことでしょう。売り出しを始めると、ターゲットがより一層はっきりとしてきます。
まずは、商品に関するフィードバックをしっかりと受け止めることです。売り出しを始めると、商品に関する定量的・定性的なフィードバックを受けることができます。それらのフィードバックに応じて直ちに変更を加えるのではなく、まずは意見をしっかりと聴き、理解し、検討しなければなりません(応答はステップ2で説明します)。
顧客のフィードバックをよく聴いてみると、商品そのものの問題ではなく、それを取り囲む何か別のものに大きな問題があることも少なくありません。
定性的なフィードバックを得るために、以下のような方法があります。
- 販売チームとサポートチームだけでなく、マーケティングチームを取り込んで検討すること
- 訪問販売に参加して、試供させた後に出た質問を聴くこと
- ソーシャルメディアでの意見を聴くこと
定量的なフィードバックを得るために、以下のような方法があります。
- Google Analyticsを見ること
- クリックスルー率やスクロールデータを集めること
- リサーチチームとウェブページでのユーザーテストを行うこと
これらの方法により、数多くの意見を集めなければなりません。
このステップでは、どんな意見であっても集めることは無駄ではありません。できる限り数多くの意見を集めてください。意見の分類や優先度の判断は、次のステップで行うものです。
2. フィードバックの意味づけ
このようにして集めたフィードバックを意味づけていきます。
価格設定上の問題と、その他の意見という2つに大きく分類するとよいでしょう。
そのように分類していくとサブテーマが現れてきます。そのときにより具体的に分類していくのです。
- カスタマーサポートの問題
これはバグやセットアップの問題などです。 - ランディングページのエンゲージメント統計情報
エンゲージメントには、ランディングページ上のCTAにクリックすることや、ページの最後までスクロールすること等、ランディングページでのあらゆるエンゲージメントを含みます。これらの統計情報です。 - 価格設定上の意見
価格設定が高すぎたり、複雑であったりする場合です。無料使用を求められることもあります。 - コンバーション上の問題
加入はするもののインストールしない場合や、無料期間が終了してすぐ解約する場合です。このような例はすべてデータとして保存してグループ化するべきです。 - 解約情報
解約されたアカウントについては、その特徴を記録してみてください。おそらくパターンが見つかりヒントとなります。例えば、解約したのがすべて個人である一方で、商品のターゲットが企業である場合には、おそらくターゲットを誤っているといえます。
もう気づかれたかもしれませんが、以上の手法はメッセージを送ることに終始する伝統的な製品マーケティングとは一線を画すものです。マーケティングは単にメッセージを送るものでは決してないのです。
3. 絶え間ない改善
マーケティングでは、改善を絶え間なく繰り返します。これを怠ると改めて商品を売り出さなければならなくなる危険があります。
顧客に正しいソリューションを繰り返し示しておくことで、そのような危険を未然に防ぎ、資源や時間を浪費することを防ぐのです。
例えば、インターコム社の商品であるAquireの売り出しの際、インターコム社では新規顧客向けに無料試供版を提供しました。しかし、これまで無料試供という試みをしたことがなく、既存顧客に対して提供することを見落としてしまいました。このときは、すぐに多くのフィードバックを受けました。インターコム社は、フィードバックに応じて、既存客に対しても無料試供版を提供し始めました。
他には、顧客の混乱に応じて小さな変更を加え、改善が奏功したということがありました。
Aquireのランディングページを訪れると、ユーザーはAquireが誰のための商品であるのか、Aquireが何をする商品なのかをすぐにわかるようになっていませんでした。
名前を変更するといった根本的な変更をするのではなく、Aquireがどのようなものなのかを明らかにするための記述をつけることにしました。
変化は些細なものですが、それによって顧客が混乱する機会が少なくなりました。
顧客の意見に応じて改善を繰り返し提供していくのは、売り出しのような華やかさはなく、とても地味な活動です。ただし、このような活動によって商品に対する満足度を高めることができるのです。
さらに、問題を発見し、それに対して変更を加えたからといって、それがすぐに顧客に伝わり、評価されるとは限りません。顧客が改善をきちんと認識し、評価しなければどんな改善も無意味です。そのため、変更を加えたら、それを公表し、ステップ1のように再び顧客の意見を聴き、思い通りの評価が得られているのかどうかを検証しなければならないのです。
些細で注意深いステップを踏む
売り出しの日が気になるのはごく自然なことです。その日のために大変な努力が必要だからです。
しかし、商品を売ることを見据えると、顧客の手に渡れば終わり、では決してありません。売り出しのときは、マーケティングの始まりなのです。商品に関する意見を聴き、価格設定をし、ユーザーエクスペリエンスに気を配るなど、些細ではあるものの注意深いステップを絶え間なく継続していかなければなりません。
ときに、新製品の売り出しという華やかさを追いかけたいという誘惑にかられることもあるでしょう。しかし、すでに売り出しているものについて、着実にステップを繰り返していくことが非常に重要です。
このような些細で注意深いステップを踏むという作業は皆さんなかなかできることではないのです。