1 他社に対する融資判断について取締役に善管注意義務違反があると判断された裁判例の紹介
ある会社の経常収支が大幅な赤字であると認識しながら、同社が新製品の販売を開始することを根拠として、同社に2000万円を融資した判断について取締役に善管注意義務違反があると判断された裁判例を紹介します。
2 企業の営業秘密保護の見直しをめぐる議論について
平成26年9月30日から経済産業省「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」で議論されている、秘密管理性要件、および営業秘密侵害対策の整備について紹介します。
3 商標権の管理は大丈夫ですか?
商標は、企業のブランドを構成する重要な要素です。年末年始に、自社が登録していないビジネスマークがあるか、類似商標を他社が使用していないか、更新時期はいつかなど、商標権管理について再確認されたらいかがでしょうか。
1 他社に対する融資判断について取締役に善管注意義務違反があると判断された裁判例の紹介
本件は、ある会社が取引先であるA社に対して2000万円を貸し付けたところ、その後A社が破産し、貸付金全額が回収不能になったため、この会社が当時の取締役に対して、取締役としての善管注意義務違反を理由として、回収不能により会社が蒙った損害を賠償するように求めたケースです。
取締役らは、この貸付を行うに際し、A社の財務状況等について、同社の取締役から説明を聞き、決算報告書や事業計画等の資料を徴求していましたが、他方で、A社の経常収支が大幅な赤字となっていること、A社が開発したソフトウエアの販売が開始されたというだけで販売実績は十分ではないこと、本件貸付後に同ソフトウエアの売り上げが確実に期待できるだけの客観的な根拠(ex.相当額の売買契約が締結されていて、売上の見込みがあるなど)もないことを認識していました。
このような事実関係の下におけるA社への貸付は取締役の判断として妥当でないと考えるべきでしょうか?
取締役の善管注意義務違反を判断するルールに、「経営判断原則」があります。企業経営はリスクを取らなければならない場合もあるため、取締役の経営判断を萎縮させないために、取締役の判断過程(手続)と内容が著しく不合理でない限り、裁判所はそれを尊重するというものです。
原審(東京地裁)は、取締役の任務懈怠はないと判断しました。
しかし、東京高裁は、会社の経営者としてあまりに軽率な判断をしたとのそしりを免れることができないとして、任務懈怠を認め、回収不能となった貸付金2000万円を会社に賠償するように命じました。
本件は、原審と控訴審で判断が分かれていることからも分かるとおり、判断の難しいケースというべきですが、A社に対して積極的に経営支援しなければならないという事情が伺われない本件では、回収不能となるリスクをもっと慎重に検討すべきだったともいえます。
会社が同様のケースに直面したときの参考として紹介します(古田)。
補足:
会社と取締役との間にコンフリクトのある取引については、経営判断原則の適用はなく、その合理性が厳しく判断されます。
参考:
東京高裁平成25年3月14日判決 商事法務2046号74頁
会社法423条(取締役の会社に対する損害賠償責任)
2 企業の営業秘密保護の見直しをめぐる議論について
経済産業省は、今年の9月30日から「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」を開催しており、11月27日、第3回会議が行われました。議題は、主に営業秘密にかかる不正競争防止法の改正が中心となっており、来年の通常国会に改正法案を提出し、平成28(2016)年度の実施を目指しています。
今回は、「営業秘密」該当性判断の重要な要件である秘密管理性と、営業秘密侵害対策の整備の概要について説明します。
(1)秘密管理性要件について
不正競争防止法は、「営業秘密」を"秘密として管理されている"生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものと定義しており、秘密管理性がなければ法律上保護されないこととしています。
この秘密管理性要件については、経済産業省から「営業秘密管理指針」が公表されています。しかし、どの程度の管理をすれば営業秘密として取り扱われるかについては、企業としても判断し難いという意見が多く、そのため、指針の改訂・秘密管理性要件の明確化について、委員会において議論が行われています。
これまでの裁判例によれば、秘密管理性要件は大きく2つの要素に分析できると考えられていますが、この2つの関係性が不明確である点が問題であると指摘されています。
A アクセス制限
当該情報にアクセスできる者が制限されていること
B 客観的認識可能性
当該情報にアクセスした者が、当該情報が秘密であると認識できるようにされていること(秘密情報をその他の情報と区分する等)
そこで、秘密管理性要件におけるAとBの関係性につき複数の案が検討されています。そのうち、もっとも有力な考え方としては、Bを主要な要素として、そのための措置の1つとしてAがあるという考え方が示されています。ただし、"客観的"=判断基準となる「通常情報に接する可能性のある者」の範囲や、具体的にどのような措置をとればBがある(→秘密管理性要件をみたす)といえるかは、今後議論の余地のあるところです。
(2)営業秘密侵害対策の整備について
近年の情報通信技術の高度化等、クラウドの普及、また新日鐵住金や東芝の営業秘密(技術情報)が韓国企業へ流出した等の事件を受け、営業秘密侵害の対策を強化する方向で議論が行われています。
具体的には、以下のような制度の整備が行われることが議論されています。
A 処罰範囲の拡大
a 未遂行為も処罰対象とする
b 国外犯処罰範囲の拡大(海外サーバーでの営業秘密の不正取得・領得も対象とする)
c 営業秘密の転得者(3次取得者)以降も処罰対象とする
d 営業秘密を不正使用して生産された物品の譲渡・輸出入等も処罰対象とする
e 被害者の告訴がなくとも起訴できるようにする(非親告罪化)
B 罰則の強化
a 海外の営業秘密不正取得・使用等を現行より重く処罰する(海外重課)
b 営業秘密侵害により得た収益の没収規定を置く
C 民事差止請求権の時効(3年)・除斥期間(10年)の撤廃
不正競争防止法の改正についてはまだまだ先の話ですが、企業において営業秘密保護法制の動向は、自社の企業価値保護のため重要なトピックであるといえることから紹介しました(柳田)。
参考:
不正競争防止法2条6項(営業秘密に係る不正競争行為)
同法21条1項(罰則)
「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」(経産省HP)※最下部
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_1/33.html
「不正競争防止法上の営業秘密に係る『秘密管理性』要件について」(経産省HP)
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/chitekizaisan/eigyohimitsu/pdf/001_07_00.pdf
「営業秘密の流出防止のための制度整備について」(経産省HP)
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/chitekizaisan/eigyohimitsu/pdf/003_05_00.pdf
3 商標権の管理は大丈夫ですか?
以前このニュースレターで、日本郵便が札幌の企業から「ゆうメール」という商標の使用の差止とこの商標を使ったカタログなどを廃棄するよう請求を受け、東京地裁がこれを認める決定をしたケースを紹介しました。
https://www.clairlaw.jp/newsletter/2013/05/newsletter1255.html
最近もこの種のトラブルは繰り返し起きています。
商標は、企業のブランドを構成する重要な要素です。年末年始に、自社が登録していないビジネスマークがあるか、類似商標を他社が使用していないか、更新時期はいつかなど、商標権管理について再確認されたらいかがでしょうか。
当事務所では、日常的に商標権取得の要否、取得すべき分類、侵害非侵害のコンサルティング、商標登録の出願手続を行っており、総合的なアドバイスをさせて頂いています。
※商標登録について
https://www.clairlaw.jp/company/trademark.html
記事に関するご意見やご質問がありましたら、Blogの「Comments」欄 https://www.clairlaw.jp/newsletter/ にご記入下さい。当事務所の弁護士がコメントさせて頂きます。みなさんのご意見・ご質問をお待ちしています。