1 利用規約が著作物にあたるとされた裁判例の紹介
ウェブサイトに記載された利用規約が、著作物として保護されると判断された裁判例(東京地裁平成26年7月30日判決)を紹介します。
2 プログラムの著作権侵害にあたらないとされた裁判例の紹介
ディスクパブリッシャー制御用のプログラムについて、ソースコードを貸与された企業が貸与側企業に対してした、プログラムの著作権侵害等による差止請求権の不存在確認請求が認められた裁判例(知財高裁平成26年3月12日判決)を紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 利用規約が著作物にあたるとされた裁判例の紹介
本件は、時計修理サービスを営む原告が自社ウェブサイト上に修理サービスに関する利用規約を掲載していたところ、被告(同じく時計修理サービス業者)が原告の利用規約と類似する利用規約を被告ウェブサイト上に掲載したことから、原告が被告に対し著作権侵害を主張して損害賠償及び利用規約の掲載差し止めを求めた事件です。
被告は、利用規約は著作物にあたらないから、著作権侵害は成立しないと争いました。しかし東京地裁は、以下のように述べて利用規約につき著作権侵害を認めました。
利用規約は、「規約としての性質上...その表現方法はおのずと限られたものになるというべきであって、通常の規約であれば、ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる。しかしながら、規約であることから、当然に著作物性がないと断ずることは相当ではなく、その規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には、当該規約全体について、これを創作的な表現と認め、著作物として保護すべき場合もあり得る」。「これを本件についてみるに、原告規約文言は、疑義が生じないように同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述するなどしている点において、原告の個性が表れていると認められ、その限りで特徴的な表現がされている」から、「著作物と認めるのが相当というべきである」。
「疑義が生じないように同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述」した部分の具体例として判決は、「腐食や損壊の場合に保証できないことがあることを重ねて規定した箇所」、「浸水の場合には有償修理となることを重ねて規定した箇所」、「修理に当たっては時計の誤差を日差±15秒以内を基準とするが、±15秒以内にならない場合もあり、その場合も責任を負わないことについて重ねて規定した箇所」を挙げています。
原告の損害額は5万円(請求額は1000万円)と判断され、また被告ウェブサイト上の利用規約表示の差止請求も認容されました。
一般に利用規約や契約書の類は、誰が作成しても同じようなものになるため、著作物にあたらないと考えられていました。本件判決は、そのような一般論を認めつつも、本件原告の利用規約全体に作成者(原告)の個性が表れている特別な場合にあたるとして著作権侵害を認めた点で、極めて珍しいケースであるといえます。
もっとも具体的判断に関しては、本件原告の利用規約について、本当に「作成者の個性が表れているような特別な場合」といえるかは微妙なところでしょう。判決文が、特徴的な表現として挙げている「腐食・損壊の場合に保証できない」等の箇所も、無償修理・保証の対象とならない場合を想定して規約に盛り込んだにすぎず、利用規約には通常含まれてしかるべき内容です。実際の価値判断においては、原告と被告の利用規約が些細な言葉遣いや順序の差異を除いてほぼ同一(いわゆるデッドコピーに近いもの)であったことから、裁判所が被告の丸写し行為を重く見て、著作権侵害を認めたという印象を受けます。
とはいえ、悪質な利用規約の模倣に損害賠償責任が生じうることは本件判決により明らかとなりましたので、利用規約の作成を検討される際にはご注意ください(木村)。
参考:東京地裁平成26年7月30日判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/445/084445_hanrei.pdf
2 プログラムの著作権侵害にあたらないとされた裁判例の紹介
本件は、ディスクパブリッシャー(光ディスク(CD/DVD/ブルーレイディスク)へのデータの書き込みおよび盤面のレーベル印刷を同時に行う装置)に関するプログラムの著作権侵害が問題となった裁判例です。
(1)プログラムの著作権侵害の判断基準について
知財高裁は、近年の裁判例で用いられる判断基準と同様の基準を用いました。要約すると、プログラムの著作権侵害は、両プログラムのソースコードの(ア)指令の表現自体(イ)組合せ(ウ)表現順序などのうち「同一性を有する部分」に着目して、(A)表現の選択の幅および(B)表現上の創作性の観点から「作成者の個性の表現」と認められるかを判断するものといえます。
(2)本件におけるプログラムの著作権侵害の判断
知財高裁は、被告(控訴人)Y社が著作権侵害であると主張する各プログラムの対比部分について、概括的に判断した1審判決の手法をとらず、各記載につき個別的に検討しました。
そして、各記載の共通部分につき、以下のような理由で創作的な表現ではないと判断しています。
・マイクロソフト社があらかじめ用意している関数・命令である(「SetTimer」関数など)
・具体的表現が異なる(「LoadResString」と「GetString」など)
・ありふれた表現またはその組み合わせにすぎない(「theApp」=アプリケーションのオブジェクトの意味であるなど)
・公知となっていたオープンソースソフトウェアを用いた
また、Y社は、複数の記載について、当該プログラムの特徴から創作性があると主張しましたが、知財高裁は、主張がプログラムの機能(アイデア)を説明するものに過ぎず、表現上の創作性を認める根拠となるものではないと判断しています。
著作権法上保護されるべきは創作的表現であり、アイデアを保護するものではないという一般論からは妥当な判断ですが、プログラムについては通常、作成者が表現より機能を重要視していることに鑑みると、当該判断は、プログラムを著作権法で保護することの難しさを端的にあらわしているといえます。
(3)本件の背景
本件は、著作権を侵害された会社が侵害した会社に対し差止請求を行うというものではなく、著作権侵害をしたと主張された会社が差止請求権の不存在確認をしたというやや特殊な事案でした。
その背景は、Y社の主張する以下の経緯にあります。原告(被控訴人)であるX社の代表者がY社に対し、プログラム開発の仕事の委託を懇願したことから、平成22年8月ころ、Y社がX社に対し、本件で問題となった旧バージョンのプログラムのバージョンアップ作業を委託し、その際当該プログラムのソースコードを貸与しました。X社は、平成23年9月ころから、本件で問題となったディスクパブリッシャー制御ソフトの製造販売を開始しました。
このように、X社が、Y社のプログラムの制作後間を空けずに、同様の目的および機能を有するプログラムを製作していることから、Y社がX社のプログラムの著作権侵害を問題視したという経緯があります。
しかし、結論としては、X社のプログラムとY社のプログラムの記述は相当程度異なっており、共通部分において表現上の創作性を認めることができない以上、著作権侵害を認めることができないと判断されました。
なお、本件でX社はY社に対し、営業秘密の侵害に基づく不正競争防止法上の差止請求権の不存在確認請求をしていますが、この点についても営業秘密侵害が認められないとして、X社の請求が認められました。
本件は、プログラムの著作権侵害の個別具体的判断の一事例として実務上参考になるものであるため、紹介しました(柳田)。
参考: 著作権法112条1項、2条1項10号の2、21条、27条
不正競争防止法3条1項、2条1項7号
知財高裁平成26年3月12日判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/176/084176_hanrei.pdf
東京地裁平成24年12月18日判決(第一審)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/869/082869_hanrei.pdf
3 弁護士Blog情報
資本主義は1ドル1票、民主主義は1人1票(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2014/11/post-58.html
第2回クレアカップヨットレース開催しました。(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2014/11/post-59.html
ファウンダー・インスティテユート東京 2014年夏学期卒業式(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2014/11/post-60.html
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