1 社外役員等に関するガイドラインについて
経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会が平成26年6月30日に公表した「社外役員を含む非業務執行役員の役割・サポート体制等に関する中間取りまとめ」と「社外役員等に関するガイドライン」の概要を紹介します。
2 漫画実写映画化権の帰属が争われた裁判例の紹介
漫画「子連れ狼」の原作実写映画化権の帰属が争われた東京地方裁判所平成25年10月10日判決を紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 社外役員等に関するガイドライン等について
経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会(研究会)は、平成26年6月30日、「社外役員を含む非業務執行役員の役割・サポート体制等に関する中間取りまとめ」(中間取りまとめ)および「社外役員等に関するガイドライン」(ガイドライン)を公表しました。中間取りまとめおよびガイドラインの概要は以下のとおりです。
(1)中間取りまとめ
中間取りまとめは、委員会設置会社および監査役会設置会社におけるガバナンスの実態のヒアリング等を取りまとめたもので、社外役員を含む非業務執行役員(社外役員等)に期待される役割および社外役員等のサポート体制について、ヒアリングから得られたベスト・プラクティスおよびベスト・プラクティスから得られる示唆が記載されています。
例えば、社外役員等のサポート体制の項目のひとつである「取締役会議案に関する事前の情報の提供」の場合は以下のとおりです。
【例】
ア ベスト・プラクティス
・取締役会が開催される前の週に社内イントラネット上に資料がアップされ、資料を読み込んだ上で取締役会に臨む。アップされた資料に関する意見や質問をイントラに書き込むこともでき、事務局が事前に回答をすることで、取締役会では実質的な議論が行われている。
・取締役会の4、5日くらい前に事務局が社外取締役および社外監査役に対して資料を送付し、読み込んだ上で取締役会に参加してもらう。
・取締役会の開催前に1時間ほど社外役員向けの説明会が行われる。特に、複雑な案件においては事前説明会の必要性は高い。事前説明会に用いられる資料は、その前日か当日に配布・送付される。
イ ベスト・プラクティスから得られる示唆
企業は、社外取締役が取締役会において意義のある意見・指摘・質問をすることが可能となるように、取締役会の付議議案について、社外取締役が事前準備に要する期間に配慮して、資料の送付または説明をすることが望ましい。研究会においても、社外役員、特に社外取締役の役割を支えるためには「情報」が重要であり、社外取締役を補佐するスタッフや、内部統制部門から定期的に情報が入ってくるような仕組みが必要であるとの指摘があった。
(2)ガイドライン
ガイドラインは、中間取りまとめよりベスト・プラクティスから得られる示唆を抜粋し、サマリーとして実務において参照しやすい形に取りまとめたものです。上場会社およびその役員が主な対象ですが、自社のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方を積極的に検討する非上場会社およびその役員も参照することが推奨されています。
上記(1)で取り上げた「取締役会議案に関する事前の情報の提供」については、以下のようなサマリーが記載されています。
【例】
・企業は、取締役会において意義のある意見・指摘・質問が行われるよう、取締役会の付議議案について、取締役会出席者の事前準備に要する期間に配慮して、資料の送付または説明をすることが望ましい(3.3 取締役会の運営)。
・企業は、非業務執行役員に社内の情報を十分に共有するシステムを構築することが望ましい。企業は、非業務執行役員が意義のある意見・指摘・質問をすることが可能となるように、取締役会の付議議案について、非業務執行役員の事前準備に要する期間に配慮して、資料の送付または説明をすることが望ましい(6.1 情報の共有)。
御社のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方を検討される際には、中間取りまとめおよびガイドラインを積極的にご活用ください(佐藤)。
参考:
社外役員を含む非業務執行役員の役割・サポート体制等に関する中間取りまとめ
(コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会 平成26年6月30日)
http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140630002/20140630002A.pdf
社外役員等に関するガイドライン
(コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会 平成26年6月30日)
http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140630002/20140630002B.pdf
2 漫画実写映画化権の帰属が争われた裁判例の紹介
本件は、「子連れ狼」の実写映画化権の譲渡を受けた原告が、同作品の独占的利用許諾を受けた被告に対し、実写映画化権が自社にあることの確認等を求めた事件です。事案の概要は以下のとおりです。
「子連れ狼」は、原作者Aが書き下ろし、これを漫画家Bが劇画シリーズ作品として発表したものです。原作と劇画シリーズとは、原著作物・二次的著作物の関係にあります。
被告は、Aから、「子連れ狼」を含む著作物の原作等を利用する事業を独占的に実施することの許諾を受けていました。
その後原告が、Aから、「子連れ狼」の実写映画化権を譲り受け、実写映画化権の譲渡登録も済ませました。
しかし被告が原告の実写映画化権帰属を争ったため、原告が本件訴訟を提起しました。
問題となったのは原告とAとの間の契約書の文言です。契約書は、「Aが最初に日本で発表した作品である劇画『子連れ狼』シリーズに基づく実写版の映画...の製作に関する独占的権利」を譲渡の対象とすると記載されていました。つまり原告とAとの間の契約書の文言は、"原作"ではなく、"漫画"の実写映画化権を譲り受けたような記載となっていました。そこで被告は、原告が漫画の著作者であるBの承諾を得ておらず実写映画化権を譲り受けていないと主張しました。
東京地裁は、契約書の文言にかかわらず、契約締結前後の事情を総合すると、原告とAとの間の契約は「子連れ狼」の原作の実写映画化権を対象としているから、原告は実写映画化権を譲り受けていると判断しました。具体的には、(1)原告とAとの間の契約は、原告が「子連れ狼」の物語に基づく実写映画を製作する目的で締結されたこと、(2)原告は漫画の作画部分を利用する意図がなかったこと、(3)原告は漫画家Bとの間で一切交渉を行っていなかったこと、(4)「子連れ狼」の原作は公表されておらず、漫画と原作とを区別して契約書に記載することが困難であったと考えられること等の事情から、そのような判断となりました。
結論として、原告は「子連れ狼」原作の実写映画化権につき譲渡登録を行っているから、被告に対して実写映画化権を主張できると判断され、原告の請求は認められました。
被告は、原告が、先に被告が独占的利用許諾を受けていることを知りながら、後から原作の映画実写化権を譲り受けて自己の権利を主張しているのであり、権利の濫用にあたるとも主張していました。東京地裁は、「著作権の譲受人がその取得に先行する独占的利用権の存在を知っていたことのみから、譲受人の被許諾者に対する著作権の主張が権利の濫用になると解するのは相当でなく、その権利主張が権利の濫用に当たるか否かは、著作権の取得経過等に関する事情を総合的に考慮して決すべきものである」と述べ、一定の場合には権利の濫用となり得る場合があることを認めつつ、本件事情の下では、権利の濫用には該当しない旨判断しました。
本件の控訴審判決では、契約の解釈にあたってカリフォルニア州民法が適用されていますが、結論は一審と同様でした。
本件は原告が、契約書以外の外部証拠によって契約書の記載と異なる当事者の真意を証明したことから、その当事者の真意が契約内容と認定されました。契約の解釈をめぐる訴訟等において実務上参考になると考えます(木村)。
参考:
東京地方裁判所平成25年10月10日判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/661/083661_hanrei.pdf
知的財産高等裁判所平成26年3月27日判決
http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/093/084093_hanrei.pdf
3 弁護士Blog情報
社長交代(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2014/09/post-55.html
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