1 経営者保証に関するガイドラインのポイント解説
中小企業金融における経営者保証の準則として平成26年2月1日から適用が開始された「経営者保証に関するガイドライン」のポイントを解説します。
2 規約に基づいて訴訟相手に弁護士費用を請求できるかが争われた裁判例
マンション管理規約の「違約金としての弁護士費用」を請求できる旨の規定に基づき、マンション管理組合が費用滞納者に対してした弁護士費用全額の損害賠償請求を認めた裁判例(東京高裁平成26年4月16日判決)を紹介します。
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1 経営者保証に関するガイドラインのポイント解説
「経営者保証に関するガイドライン」(ガイドライン)は、「経営者保証に関するガイドライン研究会」(事務局:日本商工会議所・一般社団法人全国銀行協会)より平成25年12月5日に公表され、平成26年2月1日から適用が開始されています。ガイドラインには法的拘束力はないものの、自発的に尊重され遵守されることが期待されています。
(1)ガイドラインの適用対象
ガイドラインの適用を受ける「主たる債務者」、「保証人」及び「対象債権者」は以下のとおりです。
「主たる債務者」:中小企業であること。
「保証人」:中小企業の経営者たる個人であること(「経営者」には、代表者だけではなく、実質的な経営権を有している者、営業許可名義人、経営者と共に事業に従事する配偶者、経営者に健康上の理由がある場合の事業承継予定者も含む。)。
「対象債権者」:中小企業に対する金融債権を有する金融機関等で、現に経営者に対して保証債権を有するものまたは将来これを有する可能性のあるものであること。
また、次の4つの要件を満たす保証契約がガイドラインの適用対象となります。
ア 主たる債務者が中小企業であること。
イ 保証人が中小企業の経営者たる個人であること。
ウ 主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等について適時適切に開示していること。
エ 主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと。
(2)経営者保証に依存しない融資の一層の促進
経営者保証に依存しない融資の促進のため、関係者は、次の対応に努めるものとされています。
ア 主たる債務者(経営状況の整備)
(ア)法人と経営者の関係を明確に区分・分離する等により法人個人の一体性の解消に努める。
(イ)財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。
(ウ)対象債権者からの情報開示の要請に対し、正確・丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明し、経営の透明性を確保する。
イ 対象債権者
(ア)経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実を図る。
(イ)上記アの経営状況が確保され、経営者等から十分な物的担保の提供がある等の要件が将来にわたって充足すると見込まれるときは、経営者保証を求めない可能性、代替的な融資手法(上記(ア))を活用する可能性について、主たる債務者の意向も踏まえ検討する。
(3)経営者保証の契約時の対象債権者の対応
経営者と保証契約を締結する場合、対象債権者は、以下の対応に努めるものとされています。
ア 保証契約を締結する際、保証契約の必要性等について、主たる債務者と保証人に対して、丁寧かつ具体的に説明する。
イ 保証金額は、形式的に融資額と同額とせず、保証人の資産及び収入の状況、融資額、主たる債務者の信用状況、物的担保等の設定状況、主たる債務者及び保証人の適時適切な情報開示姿勢等を総合的に勘案して設定する。
(4)既存の保証契約の適切な見直し
保証契約の見直しの申入れ時及び事業承継時、関係者は、次の対応に努めるものとされています。
ア 保証契約の見直しの申入れ時の対応
(ア)主たる債務者及び保証人
申入れに先立ち、上記(1)アに掲げる経営状況を維持するよう努める。
(イ)対象債権者
経営者保証の必要性や適切な保証金額等について、真摯かつ柔軟に検討を行うとともに、その検討結果について主たる債務者及び保証人に対して丁寧かつ具体的に説明する。
イ 事業承継時の対応
(ア)主たる債務者及び後継者
対象債権者からの情報開示の要請に対し適時適切に対応する。特に、経営者の交代により経営方針や事業計画等に変更が生じる場合には、その点についてより誠実かつ丁寧に、対象債権者に対して説明を行う。
後継者による個人保証を提供することなく対象債権者からの新たな資金調達を希望する場合は、上記(1)アに掲げる経営状況であることが求められる。
(イ)対象債権者
前経営者が負担する保証債務について、後継者に当然に引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得た上で、保証契約の必要性等について改めて検討し、保証契約を締結する場合は上記(2)に即して、適切な保証金額の設定に努め、主たる債務者及び後継者に対して丁寧かつ具体的に説明する。
前経営者から保証契約の解除を求められた場合、前経営者が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか否か、当該保証契約以外の手段による既存債権の保全の状況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案しつつ、保証契約の解除について適切に判断する。
ガイドラインでは、「保証債務の整理」についても定められています。また、金融庁より「『経営者保証に関するガイドライン』の活用に係る参考事例集」が公表されていますので、あわせてご参照ください(佐藤)。
参考:
「経営者保証に関するガイドライン」(経営者保証に関するガイドライン研究会 平成25年12月)(日本商工会議所HP)
http://www.jcci.or.jp/chusho/kinyu/131205guideline.pdf
「経営者保証に関するガイドライン」Q&A(平成25年12月5日)(日本商工会議所HP)
http://www.jcci.or.jp/chusho/kinyu/131205guideline-qa.pdf
「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集(金融庁 平成26年6月)(金融庁HP)
http://www.fsa.go.jp/news/25/ginkou/20140604-2/02.pdf
2 規約に基づいて訴訟相手に弁護士費用を請求できるかが争われた裁判例
規約等に「当事者の一方が相手方の責に帰すべき事由により損害を受けたときは、弁護士費用を含む損害の賠償を請求できる」旨規定されることがあります。今回はこの点が問題となった裁判例を紹介します。
あるマンション管理組合は、管理費等を支払わない区分所有者Yに対し、未払管理費等約460万円及び遅延損害金の損害賠償請求をしました。
また、マンション管理規約には、区分所有者が管理費等を期日までに支払わないときは、管理組合は当該区分所有者に対し「違約金としての弁護士費用」を加算して請求できる旨の規定がありました。そこで、この規定に基づき、管理組合はYに対し、本件訴訟追行に要した弁護士費用約100万円も加算して請求しました。
本件の主な争点は、「違約金としての弁護士費用」の解釈でした。
一審は、上記規定を弁護士費用実額ではなく、裁判所が認定する「相当額」と解釈して、本件は50万円が相当額であると判断しました。
しかし二審は、上記規定を管理組合が弁護士に支払義務を負う「一切の費用」と解釈し、規約の文言は「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいと指摘した上で、弁護士費用約100万円は額として不合理とは解されないとして、全額を認めました。
東京高裁はその判断の際、(1)本件規約が国土交通省作成のマンション標準管理規約(参考)に依拠するものであること、(2)弁護士費用等が管理組合の持ち出しになってしまう事態は、区分所有者が管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合がその当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点から問題であることを指摘しています。
訴訟の際の弁護士費用については、原則として原告被告各自が負担するものとされています。判例上、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の場合、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟の場合には、弁護士費用相当額(損害賠償請求額の10パーセントとされることが多いです。)の請求が認められていますが、金銭債務の不履行に基づく損害賠償請求訴訟の場合は認められないとされています。
そこで、弁護士費用を請求するためには、契約書や約款において弁護士費用を請求できる旨の条項を定めなければならない場合があります。ただ、支払義務を一方的なものとすると、無効と判断されるおそれがあるため注意が必要です。
本判決の射程は、二審の判断の際、公的機関作成のサンプルに基づくものであることを指摘していることから、多くのマンション管理規約に及ぶものと考えられます。
本件は、マンション管理につき実務上影響を与えうることに加え、弁護士費用の支払条項に関し参考となる事例であるため、紹介しました(柳田)。
参考:
東京高裁平成26年3月24日判決(二審)
東京地裁平成25年10月25日判決(一審)
マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省HP)
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansei/kiyakutantou.pdf
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ファウンダー・インスティテユート(FII)本部に行ってきました。(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2014/09/post-54.html
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