1 エクイティ・ファイナンスのプリンシプルについて
平成26年8月26日、日本取引所自主規制法人がエクイティ・ファイナンスの品質向上のためのプリンシプル(案)を公表しました。その内容を、関連するライツ・オファリングの取扱いの変更とあわせて紹介します。
2 投資型クラウドファンディングの利用促進について
現在、世界的に急速に拡大する資金調達方法であるクラウドファンディングの利用促進を図るため、金融商品取引法等の一部を改正する法律が本年5月に成立・公布されたので、その内容について紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 エクイティ・ファイナンスのプリンシプルについて
金融商品取引法に基づき取引所の自主規制業務(上場審査、上場管理、売買審査、考査等)を専門に行う日本取引所自主規制法人は、平成26年8月26日、エクイティ・ファイナンスのプリンシプル(案)を公表し、パブリック・コメントを募集しています(9月25日締切)。
概要は、
(1)当該ファイナンスが合理的かつ有効に活用され企業価値の向上に資すること
(2)既存株主の利益を不当に損なわないこと
(3)市場の公正性・信頼性への疑いを生じさせないこと
(4)適時・適切な情報開示により透明性を確保すること
を内容としています(詳細は、後掲資料1)。
エクイティ・ファイナンスのプリンシプルを策定する背景には、既存のルールに抵触しないやり方による取引事例が用いられ、それによって一般投資家に株式の希薄化などの被害が生じる事例が後を絶たないという事情があります(後掲資料1、4)。
そこで、実際に被害が生じてから規制を設けるという"いたちごっこ"を抑制するために、市場関係者が尊重すべき原理・原則を共有して、エクイティ・ファイナンスの品質を向上させようとするものです。
関連して、ライツ・オファリングについての扱いも変更されました(後掲資料3)。
ライツ・オファリングは、株主割当の方法によって新株予約権を発行し、割当を受けた既存株主は、新株予約権を行使して株式を取得することも、新株予約権のままで処分することもできます。
ライツ・オファリングのうち、ノンコミットメント型(行使されなかった新株予約権が失効するもの/コミットメント型は、失効せず証券会社がその権利を買い受けて行使するタイプ)については、証券会社の引受審査がなかったことから、通例資金調達ができないような財務内容の悪い会社がこれを利用し、既存株主の権利を棄損されるケースが生じています(後掲資料2)。
そこで、ノンコミットメント型については、(1)証券会社による増資の合理性の審査、または株主総会決議などによる株主意思の確認を経ること、(2)直近2年間において計上利益が赤字でないこと、および直前事業年度若しくは直前四半期末において債務超過でないことが要件として追加されました。
(1)の要件については、来る10月から、(2)の要件は改正会社法の施行日から実施されます。
開発先行型ベンチャー企業では、ノンコミットメント型は利用できなくなる、"いたちごっこ"の抑制効果は本当にあるか、など議論がありそうです。
事業内容は期待できるが財務内容の悪い企業=リスクはあるがアップサイドも見込める企業の資金調達手段としては、銀行融資などの間接金融に適さないので、直接金融とはどうあるべきかという本質に関連した論点だと思います(古田)。
資料:
1)「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」(平成26年8月26日・日本取引所自主規制法人)
2)「我が国におけるライツ・オファリングの定着に向けて」(平成26年7月25日・東証上場制度整備懇談会)
3)「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」(平成26年9月3日・東証)
4)「上場管理業務について―不適切な第三者割当の未然防止に向けて―」(平成22年9月・東京証券取引所自主規制法人)
2 投資型クラウドファンディングの利用促進について
現在、ベンチャー企業等による、クラウドファンディングを利用した資金調達が急拡大しています。
クラウドファンディングとは、「Crowd(大衆)」からの「Funding(資金調達)」との意味で、事業資金を必要とするベンチャー企業等と資金拠出に興味のある人(投資家)を、インターネット上でマッチングさせて資金調達を行う手法です。一般的には、両者を仲介するクラウドファンディング運営者(仲介業者)のサービスを利用して、ベンチャー企業等が自らのプロジェクトや事業内容を仲介業者の運営するウェブ上で公開し、それを閲覧した投資家が、仲介業者を通じて資金を拠出することによって行われます。
インターネット上であれ、仲介業者がこのような投資勧誘行為を行うためには、金融商品取引法上の「金融商品取引業者」としての登録が必要となります。今回の金融商品取引法等の一部を改正する法律は、この金融商品取引業者の登録要件を緩和等することにより、国内での投資型クラウドファンディングの利用促進を図ろうとするものです。
投資型クラウドファンディングには大きく分けて、(1)「株式」への投資を行う場合、と(2)「ファンド」(※)への投資を行う場合、の2種類があり、(1)の投資勧誘を行う仲介業者は「第一種金融商品取引業者」、(2)の投資勧誘を行う仲介業者は「第二種金融商品取引業者」の登録が必要です。
※ ここでの「ファンド」とは、匿名組合契約等の出資契約に基づく事業の収益配分を受けることができる権利(集団投資スキーム持分)をいいます。
現行では、「第一種金融商品取引業者」には5000万円の最低資本金や各種の規制が課せられていますが、改正後は、インターネット上で行われる少額(発行総額1億円未満、一人当たり投資額50万円以下)の株式募集等のみを行うことを条件に、最低資本金が1000万円に引き下げられるとともに、兼業規制、自己資本比率規制および金融商品取引責任準備金積立義務等の規制がなくなります。
一方、現行では「第二種金融商品取引業者」には1000万円の最低資本金等の規制が課せられていますが、同じく少額の募集のみを行うことを条件に、最低資本金が500万円に引き下げられます。またこれに合わせ、現在日本証券業協会の自主規制で原則禁止とされている非上場株式の勧誘が、少額のクラウドファンディングについて解禁される予定となっています。もっとも、クラウドファンディングが詐欺的な行為に悪用されることがないよう、仲介業者に対して、「ネットを通じた適切な情報提供」や「ベンチャー企業の事業内容のチェック」が義務付けられることになりました。
同法は2014年5月30日の公布から1年以内に施行予定となっています。今後の動向が注目されるとともに、仲介業者への参入を検討される企業は早期に準備作業に着手されるべきでしょう(藤武)。
参考:
「金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成26年法律第44号)に係る説明資料」(金融庁HP)
http://www.fsa.go.jp/common/diet/186/01/setsumei.pdf
3 弁護士Blog情報
「会社の個人情報対策」出来ました(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2014/09/post-53.html
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