1 改正景品表示法のポイント解説
平成26年6月に公布された改正景品表示法のポイントを解説します。
2 全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトと基準日制度に関する裁判例の紹介
上場企業の非公開化の目的で行われた、全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトに関する株主総会決議が取り消された裁判例(アムスク株主総会決議取消請求事件)を紹介します。
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1 改正景品表示法のポイント解説
昨年秋、全国のホテルや百貨店などで次々と食品の不正表示が発覚しました。これをきっかけに講じられた規制強化の1つとして、平成26年6月13日、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)等の一部を改正する等の法律(改正法)が公布されました。そのポイントを解説します。
(1)コンプライアンス体制の確立
事業者は、自己の商品等を供給するにあたって消費者に誤解を与えないよう、景品類の提供や表示に関する事項を適正に管理するために必要なコンプライアンス体制の確立その他必要な措置を講じる義務を負う旨の規定が新設されました。その具体的内容は、内閣総理大臣がガイドラインを定めて示すこととされています(第7条)。
また、内閣総理大臣は、事業者に対して、必要な措置に関する指導・助言を行うことができます(第8条)。そして、正当な理由なく措置を講じていない事業者に対しては、必要な措置を講じるよう勧告でき、事業者がこれに従わないときは、その旨を公表できることとされています(第8条の2)。
(2)情報提供・連携の確保
従来から、消費者団体のうち内閣総理大臣によって認定を受けた団体(適格消費者団体)は、事業者が不当表示を行っている場合にその差止めを請求することができました。改正法では、適格消費者団体がこの請求権を適切に行使できるよう、地域の消費者問題に取り組む民間団体や個人(消費生活協力団体、消費生活協力員)が適格消費者団体に対して情報提供を行うものとしました(第10条)。
さらに改正法では、内閣総理大臣、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長などは、情報交換等を通して密接な連携の確保に努めるよう定められています(第15条)。
(3)監視指導態勢の強化
消費者庁長官は、不当な景品類提供・不当表示に対処するために、立ち入り検査等の調査権限を有しているところ、改正法では、消費者庁長官がこの権限を必要に応じて各所管大臣に委任することができる旨の規定が新設されました。これによって、個々の事案に応じた迅速かつ的確な処理を可能とする趣旨です。さらに、消費者庁長官の権限に属する事務の一部を、都道府県知事が行うことができるようにもなりました(第12条)。
(4)課徴金制度の検討等
課徴金制度の導入について、改正法施行後1年以内に検討することが決定しています。消費者委員会が設置した専門調査会は、平成26年6月10日、課徴金制度導入に関する答申をまとめましたが、その内容は「違反行為者に経済的不利益を賦課し、違反行為に対するインセンティブを削ぐ課徴金制度を導入する必要性は高い」と結論付けられています。
また専門調査会の答申の中では、課徴金制度を消費者の被害回復にも資するものとすることが重要であると位置付けています。かつて公正取引委員会の所管であった景表法が、消費者庁のもとで消費者保護のための法律としてどのように制度設計されていくのか、注目されます。
改正法は、公布日(平成26年6月13日)から起算して6か月以内に施行されます。消費者向けに商品・サービスを供給する多くの事業者に影響のある改正となりますので、改正法の内容や、今後定められるガイドライン等を理解した上で、準備を進めておく必要があります(木村)。
参考:不当景品類及び不当表示防止法(改正法)
第7条、第8条、第8条の2、第10条、第12条、第15条
2 全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトと基準日制度に関する裁判例の紹介
会社が少数株主の追い出し(スクイーズアウト)を行う場合、税務上の便宜等から、全部取得条項付種類株式を利用した手続きを行うことが現在では一般的ですが、その場合には全部取得条項付種類株式を有する種類株主による種類株主総会決議を経る必要があります。紹介する裁判例では、少数株主である原告らが被告会社に対して種類株主総会決議等を取り消すことを請求しました。
訴訟では原告らから様々な決議取消事由が主張されましたが、特に問題となったのは、基準日の設定に関する手続です。
公開会社の株主は日々変動していますので、株主総会に出席して議決権を行使する株主を、いつの時点での株主とするかを決めなければなりません。そこで会社法は、会社が株主権行使の基準日を定めることができることとしており、その定め方は、(a)基準日の2週間前までに公告をする、または(b)定款に定める、という2つの方法があります。多くの会社では、定款で、定時株主総会の議決権行使については基準日を定め、その他の株主権行使については取締役会決議であらかじめ公告の上基準日を設定する旨の定めが設けられています。
本件で被告会社は、平成25年6月28日の株主総会において、全部取得条項付種類株式を定める定款変更をすると同時に、種類株主総会の議決権行使の基準日について普通株式の定款規定を準用する(基準日は平成25年3月31日とする)旨の定款変更を行いました。これが、会社法上規定する(b)の方法として適法かどうかが争われました。
東京地裁は、基準日を設定して公告するよう定めている会社法の趣旨は名義書換未了の株主に株主名簿の名義書換(株主権行使)をする機会を確保することにあること、公告は基準日の2週間前までに行うことを要求していることを根拠として、定款の定めも基準日の2週間前までに存在することが必要であると判示しました。
本件では、被告会社が、種類株主総会の当日に種類株主総会の基準日を定める定款変更を行ったのであるから、定款の定めは基準日の2週間前までに存在しなかったとして、種類株主総会決議の手続きに違法があったと判断されました。
また、訴訟では被告会社から多くの有力な反論がなされましたが、東京地裁はそのすべての反論について採用せず、結論として、種類株主総会決議を取り消す判決をしました。
東京地裁の判断に従うと、全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトを行う場合、基準日の2週間前までに、種類株主となる予定の普通株主(潜在的種類株主)を対象として、公告または定款変更を行う必要があることとなり、株主総会運営の実務への影響が予想されます。
なお、被告会社は控訴をしており、東京高裁においてもこの判断が維持されるか注目されるところです(柳田)。
参考:会社法第124条、第831条
東京地裁平成26年4月17日判決(アムスク株主総会決議取消請求事件)
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プライバシー重視という差別化(古田利雄)
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