1 改正パートタイム労働法のポイント解説
平成26年4月に公布された改正パートタイム労働法のポイントを解説します。
2 会社役員の注意義務違反につき重過失が認められなかった裁判例
会社役員には善管注意義務違反があるものの、同違反につき悪意重過失があったとは認められないとして、役員・会社の間の責任限定契約に基づいて、役員の責任を制限した事例を紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 改正パートタイム労働法のポイント解説
平成26年4月23日、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)の一部を改正する法律(改正法)が公布されました。そのポイントを解説します。
(1)「待遇の原則」に関する規定の新設(第8条)
パートタイム労働者(※1)の待遇と正社員の待遇を相違させる場合、その待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとする待遇の原則に関する規定が新設されます。
これは、全てのパートタイム労働者を対象とするものです。
(2)正社員との差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象の拡大(第9条)
これまでは、以下の3つの要件を満たすパートタイム労働者を正社員と差別的に取り扱うことが禁止されていました。
・職務内容が正社員と同一であること
・人材活用の仕組み(人事異動等の有無や範囲)が正社員と同一であること
・無期労働契約を締結していること
改正法では、「無期労働契約を締結していること」という要件が削除され、有期労働契約を締結しているパートタイム労働者も、他の2つの要件を満たせば、正社員との差別的取扱いが禁止されることになります。
(3)パートタイム労働者を雇用したときの説明義務の拡大(第14条)
これまでは、事業主は、パートタイム労働者に求められた時は、その待遇の決定にあたって考慮した事項を説明しなければならないとされていました。
改正法では「雇用する短時間労働者から求めがあったとき」という要件が削除され、事業主は、パートタイム労働者を雇い入れた時は、その待遇の決定にあたって考慮した事項を説明しなければならないことになりました。
(4)「相談のための体制の整備」に関する規定の新設(第16条)
事業主は、パートタイム労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないとの規定が新設されます。
(5)その他
改正法の実効性を高めるため、厚生労働大臣の勧告に従わなかった場合にはその事業主名とその事例を公表できることとなり(第18条第2項)、厚生労働大臣に求められた報告を行わない、または虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処せられることとなりました(第30条)。
改正法の施行日は、公布日(平成26年4月23日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。施行に向け、改正法の内容を理解するとともに、準備を進めておく必要があります(佐藤未央)。
※1「パートタイム労働者」:1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者(第2条)
参考:
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(改正法)
第8条、第9条、第14条、第16条、第18条第2項、第30条
2 会社役員の注意義務違反につき重過失が認められなかった裁判例
会社役員の会社に対する損害賠償責任について、善管注意義務違反があるものの、同違反につき悪意重過失があったとは認められないとして、役員・会社の間の責任限定契約に基づいて、役員の責任を制限した事例を紹介します。
ジャスダックに上場していた某会社が破産し、その破産管財人は会社役員(監査役・公認会計士)に対して責任を追及しました。
破産裁判所、及び同裁判所に対する異議訴訟を行った裁判所は、いずれも、会社役員には善管注意義務違反があるものの、同違反につき悪意重過失があったとは認められないとして、役員と破産会社の間の責任限定契約に基づき、管財人の8000万円の請求に対して、役員に対する損害賠償請求権の額を648万円に制限しました。
会社法は、役員の会社に対する責任について、当該役員等が職務を行うにつき「善意でかつ重大な過失がないとき」は、契約によって、賠償の責任を負う額を一定範囲に制限することができるとしていますが(法427条)、「善意・無重過失」とはどのような場合でしょうか。
本件では、会社の代表者は、会社の財務状況が極めて悪化していたにもかかわらず、取締役会の決議も経ず、監査役らの反対も無視して、資金調達を依頼していたKに対して、募集株式で集めた4億2000万円のうち8000万円を交付したり、取締役会決議を経ないで1億円を超える額面の約束手形を振り出したりして、会社に損害を与えました。
裁判所は、代表者の任務懈怠を認定したうえで、次のように述べて、監査役の過失を認めました。
「監査役は、取締役に対する業務監査権限に基づく善管注意義務の一環として、取締役がリスク管理体制を構築する義務を果たしているか、構築したリスク管理体制が妥当なものであるかについて監視することが義務付けられている。そして、監査役は、会社において、リスク管理体制が構築されていない場合や、これが構築されているとしても不十分なものである場合には、取締役に対して、適切なリスク管理体制の構築を勧告すべき義務を負うと解される。
監査役としては、代表者の指示で金庫からの出金をしないよう経営管理本部長及び出納責任者に指示する等の体制を直ちに構築することや、代表者の解任・解職を勧告するのが当然であったのに、それをしなかった。」
(なお、差止の仮処分をすべき法的義務まではない、としています。)
そして、「善意・無重過失」か否かという点については、「監査役は、丙川のAに対する貸付や出金、本件現物出資に関し、取締役会に意見書を提出して反対の意見を表明し、注意喚起を行うなど、丙川ら取締役による違法、不当な行為が行われないようにそれなりの活動をしていたと評価できる。また、本件手形振出に対しても、原告ら監査役は、前同様に反対意見を表明したほか、振り出した約束手形の行方等の報告を求めるなど、破産会社に損害が生じないように努力し、丙川による約束手形の濫発に対する防止措置も一応構築されていたと認められる。さらに、原告は、本件金員交付について、具体的に予見することはできなかったと認められること等も併せ考えると、原告の善管注意義務の違反につき、その程度が著しいと評価することは酷であり、重過失があるとは認められない。」としました。
「善意・無重過失」は、事案ごとに判断されますが、本件は、それを検討するにあたって一応の判断素材になると思います。
最近の法律雑誌などでは、責任限定契約がある場合、却ってその範囲では内部統制構築違反(取締役)や同監督義務違反(監査役)が認められ易くなっているのではないか?というコメントもあります。
会社役員は、業務執行者の暴走等に対して、しっかりした対応を取らなければなりません。また、役員に対する責任追及の7割は未上場会社役員に対して申し立てられているとも言われていますので、役員はD&O保険(会社役員賠償責任保険)に加入して備えておく必要があります(古田利雄)。
参考:
大阪地裁平成25年12月26日判決
3 弁護士Blog情報
『挫折のすすめ(副題:成功と誤算のネット起業家半生記)』を読んで(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2014/05/post-49.html
5月21日(水)ファウンダー・インスティテュート(FI)東京 イベント「東京での起業方法」(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2014/05/fi.html
記事に関するご意見やご質問がありましたら、Blogの「Comments」欄 https://www.clairlaw.jp/newsletter/ にご記入下さい。当事務所の弁護士がコメントさせて頂きます。みなさんのご意見・ご質問をお待ちしています。