1 職務外の発明について従業員の対価支払請求を認めた裁判例
従業員が、その職務外で行った発明について、会社に対して相応の対価の請求が認められた裁判例を紹介します。
2 会社関係者による各種議事録の閲覧・謄写について
ある会社の株主や債権者といった会社関係者が、その会社の議事録を閲覧・謄写できる場合について紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 職務外の発明について従業員の対価支払請求を認めた裁判例
会社が従業員の行った発明を利用する場合、従業員にはどのような報酬があるのでしょうか。
従業員がその職務として発明を完成させた場合(職務発明)は、特許法に基づき会社に対して相当の対価を支払うよう請求できます。しかし、従業員がその職務外で完成させた発明で、それが会社の業務に利用される場合(業務発明)に、従業員が会社に対してなんらかの請求をすることができるのかについては、法律上の定めはありません。本件はこの業務発明に関する対価の支払いが問題となった事件です。
Xは、Y社に勤務する傍ら、大学院にて研究を行い独自の物流システム理論を完成させました。しばらくしてY社では、Xの完成させた理論を利用して、物流効率化のためのシステムの開発を行うプロジェクトが発足しました。この時、Y社担当部長は、Xに対して、Y社がシステムを開発・実施することの承認を求めるとともに、これに対し相応の対価を支払うと発言し、Xはこれを了承しました。その後、Y社のシステムは完成しましたが、XY社間での対価の金額について調整が難航し、10年以上に及ぶ交渉の末、XはY社を退社し、Y社に対して相応の対価を支払うよう請求する訴訟を提起しました。
東京地裁は、Y社担当部長の上記発言その他のXとのやりとりから、XとY社との間には、XがY社に対し完成させた理論に関する知的財産の使用を包括的に許諾し、Y社がこれに対し相応の対価を支払う旨の合意が成立したものと認定しました。続けて東京地裁は、この合意にいう「相応の対価」の金額とは、Xの理論の知的財産使用許諾料として社会通念上相当と認められる金額をいうとして、完成したシステムの内容、その利用状況、導入効果、取得特許の内容、事後のXに対する処遇等を考慮し、その金額は、システム導入後5年間のコスト削減見込額の1%である2702万5000円と認定しました。
本件で裁判所は、業務発明にあたるXの発明の利用について、具体的な対価金額を定めていなかったXY間の合意も有効に成立していると判断し、積極的に対価額の算定を行っています。特許法に定めのある職務発明にはあたらない従業員の発明についても、会社と従業員の間で一定の合意があれば、会社に対して対価を請求することができると判断した珍しい事例であり、今後の実務の参考になるものと考え紹介しました(木村)。
参考:特許法35条1項、3項
東京地裁平成26年2月14日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140221154706.pdf
2 会社関係者による各種議事録の閲覧・謄写について
最近、大飯原発の運転差止めの判決がありましたが、少し前には、大阪市(株主)が関西電力に対してした、大飯原発の再稼働等に関する取締役会議事録の閲覧・謄写請求を許可した裁判例がありました。
ある会社の株主や債権者等は、その会社に利害関係を有しているため、会社の意思決定が記載されている議事録を見たいと考えることがあります。他方、会社は議事録の内容を不必要に見られたり、悪用されたくないと考えるでしょう。そこで会社法は、両者のバランスに配慮して、議事録の閲覧・謄写に関して以下のように定めています。
A 株主
株主は会社に対して多くの権利を有し、会社に対して強い利害関係を有しているため、議事録の閲覧・謄写は広く認められる傾向にあります。
(1)株主総会議事録
株主総会が会社の基本的事項に関する重大な意思決定を行う場であること、その内容はオープンにされることが想定されることから、議事録の閲覧・謄写は広く認められています。
そして株主は、会社の営業時間内であれば、いつでも閲覧・謄写を請求できます。
(2)取締役会議事録
取締役会は経営判断として比較的機密性を有する事項を取り扱うことから、議事録の閲覧・謄写ができる場合は株主総会の場合と比べ限定されています。
株主は、「権利を行使するため必要があるとき」に限り、閲覧・謄写が可能です。「権利」とは、広く株主としてのすべての権利を意味するとされています。「必要」性は、株主と会社の利益較量によって判断されます。
加えて、委員会設置会社や監査役設置会社では、その会社や親子会社に「著しい損害を及ぼすおそれ」があるといえないこと、「裁判所の許可」を得ることが必要です。
(3)監査役会議事録
これも取締役会議事録と同様、閲覧・謄写できる場合が限定されています。
株主は、「権利を行使するため必要があるとき」で、その会社や親子会社に「著しい損害を及ぼすおそれ」があるといえない場合に、「裁判所の許可」を得て監査役会議事録の閲覧・謄写ができます。
B 会社債権者
会社債権者は、債務者である会社に利害関係を有しているといえますが、一般に株主と比べその関係は希薄であることから、議事録の閲覧・謄写権限が一部限定されています。
(1)株主総会議事録
株主と同様、会社の営業時間内であればいつでも閲覧・謄写を請求できます。
(2)取締役会議事録
役員などの「責任を追及するため必要があるとき」で、その会社や親子会社に「著しい損害を及ぼすおそれ」があるといえない場合に限り、「裁判所の許可」を得て、閲覧・謄写をすることができます。
(3)監査役会議事録
(2)と同様の場合に限り、閲覧・謄写ができます。
C 親会社社員(株主など)
親会社社員は、子会社の事業状況が親会社にも影響することから、子会社の意思決定を知る必要があるものの、子会社と直接の利害関係を有しているとはいえないことから、議事録の閲覧・謄写ができる場合は限定されています。
(1)株主総会議事録
「権利を行使するため必要があるとき」に限り、「裁判所の許可」を得て、閲覧・謄写をすることができます。
(2)取締役会議事録
「権利を行使するため必要があるとき」で、その会社や親子会社に「著しい損害を及ぼすおそれ」があるといえない場合に限り、「裁判所の許可」を得て、閲覧・謄写をすることができます。
(3)監査役会議事録
(2)と同様の場合に限り、閲覧・謄写ができます。
会社としては、関係者からの閲覧・謄写の請求に対し適切に対応する必要があり、また閲覧・謄写されることを意識して議事録を作成する必要があるため、その要件につき紹介しました(柳田)。
参考:会社法318条、371条、394条
大阪高裁平成25年11月8日決定
3 弁護士Blog情報
起業するタイミング(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2014/05/post-48.html
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