- 会社の不正行為による株価下落の損害額算定に関する裁判例
会社の不正行為による株価下落について、これにより株主が被った損害額の算定基準を示した判例(最高裁平成23年9月13日判決)と、その具体的算定を行った差戻審判決(東京高裁平成26年1月30日判決)を紹介します。 - 事業再建コンサルタントのアドバイスが破産会社に対する債務不履行になるとして損害賠償責任が認められた裁判例
事業再建コンサルタントの事業譲渡等のアドバイスが後に無効となるような内容であったとして、破産管財人が債務不履行責任を請求し、一部認められた裁判例(東京地裁平成25年7月24日判決)を紹介します。 - 弁護士Blog情報
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1.会社の不正行為による株価下落の損害額算定に関する裁判例
上場会社において不正行為が発覚すると、その会社の株価は大きく下落します。その株価下落には、会社が本来有する企業価値を反映するもの、いわゆる「ろうばい売り」によるもの、その他の経済情勢や、市場全体の動向によるものなど、様々な要因が混ざり合っています。株主にも、すぐに株式を売却する者のほか、底値で売却する者、株価が戻るのを待って保有し続ける者などいろいろな株主が存在します。では、それぞれの株主が、不正行為により株価下落の損害を被った場合、会社に対して賠償を請求できる損害額は、どのように算定されるのでしょうか。
紹介する事件は、西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載をめぐる損害賠償請求事件です。 最高裁が示した算定基準は、次のとおりです。
まず(1)すでに株式を売却した株主については、〔株式を取得した際の価格〕と〔売却した際の価格〕との差額を、(2)なお株式を保有している株主については、〔取得した際の価格〕と〔現在の価格〕との差額を求めます。
そして、それぞれの差額から、経済情勢、市場動向、当該会社の業績など、不正行為とは無関係の下落分を差し引きます。なお「ろうばい売り」による株価下落は、通常予想される事態であるので、控除の対象とはなりません。
このようにして算定されたものが、損害額となります。
上記最高裁判決をふまえて東京高裁の差戻審は、具体的損害額の算定を行いました。その中で東京高裁は、虚偽記載を公表した日以降の株価下落はすべて不正行為による株価下落であると判断しましたが、公表日以前の株価下落について不正行為と関係がある割合は最大限見積もっても1割を超えることはないと判断しました。つまり、株主が被った損害は、株式取得日から不正行為公表日までの下落分のうち1割と、不正行為公表日以降の下落分ということです。
もっとも現在では、西武鉄道の株価は不正行為を公表する前の水準まで回復しているので、株式を保有し続けていた株主に損害はないということになりました。東京高裁は、既に株式を売却している株主(23名)についてのみ、総額3023万円余りの賠償請求を認めました。
このように損害額算定のためには、株価下落のうち不正行為と無関係の下落分を評価することが必要となりますが、その評価は難しく、そのため本件のような訴訟では損害額の立証が極めて困難となります。この場合は、裁判所が訴訟に出された証拠全体を総合評価して相当な損害額を認定することになると思われます。
本件は、会社の不正行為による株価下落の損害額の算定について最高裁が示した基準に従い、具体的な算定がされた事例として、今後の実務の参考になるものと考え紹介しました(木村)。
東京高裁平成26年1月30日判決
2.事業再建コンサルタントのアドバイスが破産会社に対する債務不履行になるとして損害賠償責任が認められた裁判例
会社が窮状となった場合、倒産を避けるため事業再建コンサルタント(ターンアラウンダー)にカウンセリングを求めることがあります。しかしそのアドバイスが不適切であったとしたら、そのコンサルタントに損害賠償責任を問えるでしょうか。今回はこの点が問題となった裁判例を紹介します。
支払不能状態にあったA社は、Y社(事業再建コンサルタント)との間でアドバイザリー契約を締結しました。そして、Y社は、A社に対し、以下を内容とするアドバイスを行い、A社はそれに従い事業譲渡等を行いました。
- A社が、B社(A社の完全子会社)に対し本業に係る28億円超の資産を譲渡する
- B社が、A社の本業に係る29億円超の債務をA社とともに負う
- A社が、B社に対し対価として100万円を支払う
しかし、A社はその後破産し、破産管財人となったX弁護士は、上記事業譲渡等が債権者を害する行為であるとして原状回復を求め、裁判所はこれを認めました(否認権、破産法160条1項1号)。そして、Xは、否認権の対象になるようなアドバイスを行ったY社に対して損害賠償を請求しました(民法415条)。
東京地裁は、結論として、Y社の債務不履行を認めました。判断の概要は、アドバイザリー契約によりY社は法令遵守義務、具体的には否認権の行使を受けることがないようにアドバイスする義務があり、本件ではその義務の違反が認められるというものでした。
もっとも、損害賠償は、事業譲渡対象財産から担保部分を引いた18億円弱の損害のうち、アドバイザリー契約の責任制限合意によるY社の報酬額約4400万円に限り認められました。
本件は、事業再建コンサルタントがアドバイスする際には否認権の行使を受けないようにする義務があると判断した事例として、また責任制限合意が有効であると認められた事例として先例的意義があるため、紹介しました(柳田)。
参考:民法415条、破産法160条1項1号
東京地裁平成25年7月24日判決