1 「ほっとレモン」という登録商標が取り消された事例(知財高裁平成25年8月28日判決)
「ほっとレモン」という商標が、商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるなどとして、商標登録が取り消された事例を紹介します。
2 相続によって取得した株式の売渡請求
相続によって取得した株式を会社に売り渡すよう請求することを決議した株主総会決議の取消しに関する裁判例を紹介します。
1 「ほっとレモン」という登録商標が取り消された事例(知財高裁平成25年8月28日判決)
カルピス株式会社は、指定商品を第32類「レモンを加味した清涼飲料、レモンを加味した果実飲料」として「ほっとレモン」の商標(赤色で彩色された、丸みを帯びた太字の書体で平仮名「ほっと」と片仮名「レモン」の文字を上下二段に横書きした文字部分、及び、赤色で彩色された上辺中央を弓形に膨らませ、四隅を丸く描いた四角形状の輪郭線からなる商標、以下「本件商標」とします。)を出願し、平成23年6月27日に登録査定を受けました。
これに対して、サントリーホールディングス株式会社やキリンホールディングス株式会社が、本件商標は自他商品識別標識としての機能を果たし得ないなどとして、特許庁に登録異議を申し立て、平成24年9月4日、特許庁は本件商標の商標登録を取り消す旨の決定をしました。
これを不服として、カルピス株式会社が、知財高裁に対し、特許庁の上記決定の取消を求めたのが、本件事案です。
知財高裁は、本件商標のうち、片仮名「レモン」部分は、指定商品との関係では、果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを意味し、また、平仮名「ほっと」部分は、指定商品との関係では、「熱い」「温かい」を意味すると理解するのが自然である、また、輪郭部分について、上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは、清涼飲料水等では、比較的多く用いられているといえるから、輪郭部分が需要者に対し、強い印象を与えるものではない、さらに、「ほっとレモン」の書体についても、通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない、などとして、本件商標は商標法3条1項3号所定の「商品の・・・品質、原材料・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというべきであり、特許庁の決定に誤りはないとして、カルピス株式会社の請求を棄却しました。
商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、商標登録を受けることができません(商標法3条1項1号)。多額の広告宣伝費を使ってせっかく周知性を高めた後に商標権が否定されては大きな損失です。自己の商品には、他人の商品と明確に識別できるような特徴のある商標をつけましょう(鈴木理晶)。
2 相続によって取得した株式の売渡請求
本件は、Y株式会社が、会社法第175条第1項に基づき、Xが相続によって取得したY社の株式について売渡請求する旨の株主総会決議をしたことから、Xが、当該株主総会決議の取消しを求めたという事案です。
Xは、Y社の株式17万8000株を有していましたが、平成23年4月4日、夫の死亡により、同人が有していたY社の株式88万株(本件株式)を遺言によって取得しました。その後、X夫婦の長女であるDが、同年10月27日、遺留分減殺請求をし、本件株式はXとDの共有状態となりました。
Y社は、平成24年3月22日、臨時株主総会を開催し、Xに対して同人が有する本件株式全部をY社に売り渡すことを請求する旨の決議を行いました(本件決議)。
なお、Y社の株式は、全て譲渡制限株式で、Y社定款には「相続や合併等の一般承継により株式を取得した者に対し、本会社は当該株式を本会社に売り渡すことを請求できるものとする。」との規定(本件規定)があります。
本件の争点は、本件決議の内容が本件規定に違反しているか否かです。
Xは、本件規定上、Y社の株式が共有されている場合には、その一部の者に対する売渡しの請求は認められないはずだと主張しました。
これに対し、裁判所は、本件規定の文言上、「相続や合併等の一般承継により株式を取得した者」に共有者の一部が含まれないと解すべき必然性はなく、少なくとも、Y社が、準共有者の一部の者に対する売渡しの請求を排除する趣旨で本件規定を設けたとの事実は認められない、会社法第174条から第177条までの規定によっても、株式の準共有者の一部の者に対して売渡しの請求をすることが法律上禁止されているとは解されないとしました。
更に、裁判所は、相続による株式の移転は、株式譲渡制限制度による株式会社の承認の対象にはならないことから、一般承継人は当然に当該株式会社の株主となるが、一般承継人が当該株式会社の他の株主にとって好ましくないことがあり得ることから、会社の買取請求を認めたという法律の趣旨に鑑みれば、相続人のうち一部の者のみが他の株主にとって好ましくないという事態が生ずることは、十分に想定し得るところであるとして、Xの請求を棄却しました。
会社法上、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求できる旨を定款で定めることができ、かかる規定があれば、相続等によって会社の他の株主にとって好ましくない者が株主となることを避けることができます(第174条)。譲渡制限株式発行会社では、定款にこのような定めがあるかを確認するとともに、譲渡制限株式の株主に相続が発生した場合は、直ちに売渡請求をするか否かを検討し、請求をする場合は、遺産分割が完了する前であっても速やかに手続を行っておくとよいでしょう(佐藤未央)。
参考:東京地方裁判所平成24年9月10日判決(第一審)
東京高等裁判所平成24年11月28日判決(控訴審)
会社法第174条~第177条
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