1 事業譲渡に伴って銀行の債務も承継されたと判断された裁判例
事業譲渡契約に(資産、負債並びに権利義務の一切を譲渡する)と規定されていたため、事業を譲り渡した会社の債権者である銀行が譲り受け会社に対して債権を主張できたケースです。
2 北海道銘菓「白い恋人」vs 吉本「面白い恋人」事件
北海道銘菓「白い恋人」の製造元である石屋製菓が、吉本興業の子会社が発売した「面白い恋人」の販売差し止めと損害賠償を求めた事件について、解説します。
1 事業譲渡に伴って銀行の債務も承継されたと判断された裁判例
事業譲渡では譲渡の対象となった財産のみが移転され、譲り渡し会社の商号を続用したり、債務引き受けの広告をしない限り、譲り受け会社は債務を承継しません(会社法23条) 。
この事件では、譲り渡し会社から譲り受け会社に対して、化粧品事業や健康食品事業が譲渡されました。
この事業譲渡に関する契約書には、(資産、負債並びに権利義務の一切を譲渡する)と規定されていました。
事業譲渡の契約をしたのは、譲り渡し会社と譲り受け会社なので、第三者である銀行が債権を主張できるかが問題になりました。
裁判所は、銀行の債務も負債にあたるので、「資産、負債並びに権利義務の一切を譲渡する」という条項は、第三者のためにする契約であると認定し、銀行が請求する意思を示した以上、譲り受け会社には銀行に対する債務を弁済する義務があると判断しました。
民法では、第三者に関する契約に関して次のように定めています。
第537条 (第三者のためにする契約)
契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
裁判所は前記契約条項をこの合意に当たると判断しました。
なお、このケースでは、銀行は譲り渡し会社にも債権を主張できます。誰が債務者かということは、債権者にとって重要なことなので、債権者の同意がなければ、債務を免責的に移転することはできません。
このため、本件のような合意をすると、譲り受け会社は譲り渡し会社を連帯保証したのと同じような法律関係になります。
事業譲渡の契約をするときは、契約前のデューデリジェンスはもちろんですが、譲渡契約書の記載内容も詳細に検討するべきです(古田利雄)。
参照:札幌地裁平成24年12月18日判決
2 北海道銘菓「白い恋人」vs 吉本「面白い恋人」事件
- 北海道銘菓「白い恋人」の製造元である石屋製菓は、2011年11月に、「面白い恋人」の販売差し止めと損害賠償を求めて民事訴訟を申し立てました。請求の理由は、商標権の侵害と、不正競争防止法です。そして、この裁判は、2013年2月、吉本側がパッケージの図柄を変更し、関西6府県でのみ販売する。金銭賠償は行わない。という内容で和解が成立しました。
石屋製菓としては、販売継続は許せないという立場でしたから(後掲石屋製菓のお知らせ参照)、このような和解が成立したということは、裁判所が、石屋製菓の請求は認められないという心証を示したためだと思われます。
さて、商標が類似しているかどうかは、このニュースレターで繰り返し説明しているとおり、(1)外観、(2)称呼(音)、(3)観念が類似しているかどうかによって判断します。
この事件が申し立てられる前に、吉本は「面白い恋人」の商標登録を申請しましたが、特許庁は、「白い恋人」と同一であるとして登録を認めませんでした。
両者のパッケージは、下部にリボンがあるところなど多少似ていますが、裁判所は、両者は「観念」つまり意味内容が明らかに異なるので、「白い恋人」を買おうとして、「面白い恋人」を買ってしまうことは、普通は生じないと判断したようです。
石屋製菓が主張するもう一つの理由は、不正競争防止法2条1項2号でした。この条文は、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡等する行為」は不正競争に該当するとしています。
平成5年までは、他社のブランドの冒用行為は、製品や販売主体の混同を惹き起こす行為でなければ不正競争とされていなかったため、著名ブランドの「ただ乗り」、「ブランドの希釈化」「ブランドの汚染」による損害をどうするかという問題がありました。この規定は、このような問題に対処する趣旨で、同年に、新設された規定です。そうすると、この条文の「他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用」という文言もこのような趣旨を踏まえて解釈することになります。
このケースでは、吉本は著名な企業であり、同社がパロディとしてこの商品を販売していることが周知されているとすれば、消費者がこの二つの菓子を混同する可能性は低く、とすれば、「面白い恋人」は「白い恋人」のただ乗りであり、「白い恋人」のブランドの識別性を低めたり、貶めたりしているとは言い切れない、と裁判官は考えたのだと思います。
製品やサービスや出所だけでなく同一性が混同される場合とともに、ブランドのただ乗りについても法的な制限があることを示す事例として紹介しました(古田利雄)。
参照:
石屋製菓のお知らせ
http://www.ishiya.co.jp/upd_file/news/262/news_file262.pdf
吉本興業のコメント
http://www.yoshimoto.co.jp/cmslight/resources/1/96/111129.pdf
日経ニュース
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK13022_T10C13A2000000/?dg=1
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