1 スルガ銀行vs日本IBM 事件
日本IBMが請け負ったスルガ銀行のシステム開発の中止に関する損害賠償請求訴訟についての東京高等裁判所判決(平成25年9月26日)を紹介します。
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1 スルガ銀行vs日本IBM 事件
日本IBMが請け負ったスルガ銀行のシステム開発の中止に関する損害賠償請求訴訟について、東京高等裁判所は、平成25年9月26日、スルガ銀行の主張のうち74億円の請求を認めた原審(東京地裁)の判決を一部減額し、日本IBMに41億円を支払うよう命じる判決をしました。
この事件には多くの論点がありますが、システム開発契約に関して注意するべき点についてQ&Aとして解説します。
Q この事件は、どういう経緯で訴訟になったのですか?
A 日本IBMは、過去30年にわたってスルガ銀行の基幹システムの運用保守をしていましたが、平成16年ころ、同銀行から次期システム構築の提案を依頼されました。
両社は、その後、(1)7億円の要件定義に関する基本合意、(2)35億円の要件定義基本合意、(3)総額を90億円とする最終合意を締結しました。
IBMは、当初カスタマイズベースで開発を進めていましたが、開発コストや期間が問題となったため、パッケージを使って開発ボリュームを減らすことを提案し、同銀行に対して、サービス・インの時期、追加費用(34億円)などの変更を提案します。しかし、パッケージの機能と銀行の要望とのギャップは大きく、システム開発の進行自体の調整が困難となり、同銀行が平成19年7月に開発契約を解除しました。そして、同銀行は支払済の開発費用と逸失利益の115億円を、IBMは未払代金や損害賠償として125億円を請求して、相互に訴えたという経緯です。
Q 原審はどのような判断をしたのですか?
A 原審は、IBMのプロジェクト・マネジメント義務違反を認め、概ね銀行からIBMへ支払われた請負代金相当額の返還を認めました。しかし、逸失利益の主張は認めませんでした。
Q 東京高裁は、なぜ原審が認めていたスルガ銀行の請求を一部減額したのですか?
A 東京高裁は、この事件では、(1)7億円の要件定義に関する基本合意、(2)35億円の要件定義基本合意、(3)総額を90億円とする最終合意が結ばれていますが、東京高裁は、このうち(1)と(2)の合意に基づく取引については、IBMにプロジェクト・マネジメント義務違反はなかったと判断したので、この部分についてスルガ銀行が支払った請負代金の返還は認めなかったのです。
Q ITベンダーのプロジェクト・マネジメント義務とは、どのような内容でしょうか?
A プロジェクト・マネジメント義務が争われたケースで参考にされていたものとして、東京地裁平成16年3月10日判決があります。同判決は、ベンダーは「常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これに適切に対処すべき義務を負うものと解すべきである。」としました。
本件では、これに加えて、「ベンダーとしては、企画・提案段階においても、自ら提案するシステムの機能、ユーザーのニーズに対する充足度、システムの開発手法、受注後の開発体制等を検討・検証し、そこから想定されるリスクについて、ユーザーに説明する義務がある。」としています。また、「契約に基づき、本件システム開発過程において、適宜得られた情報を集約・分析して、ベンダーとして通常求められる専門的知見を用いてシステム構築を進め、ユーザーである被控訴人に必要な説明を行い、その了解を得ながら、適宜必要とされる修正、調整等を行いつつ、本件システム完成に向けた作業を行うこと(プロジェクト・マネジメント)を適切に行うべき義務を負う。」と表現しています。
Q 本件では、何がプロジェクト・マネジメント義務違反だとされたのでしょうか。
A 高裁は、「IBMは、銀行と最終合意を締結し、本件システム開発を推進する方針を選択する以上、ベンダーとしての知識・経験、本件システムに関する状況の分析等に基づき、開発費用、開発スコープ及び開発期間のいずれか、あるいはその全部を抜本的に見直す必要があることについて説明し、適切な見直しを行わなければ、本件システム開発を進めることができないこと、その結果、従来の投入費用、更には今後の費用が無駄になることがあることを具体的に説明し、ユーザーである銀行の適切な判断を促す義務があった。」と認め、IBMがこれを怠った点に義務違反があると認定しました。
Q 他に何かこの裁判で参考になることはありますか?
A このケースは様々な論点を含んでいます。例えば、不法行為に基づく請求についても、開発委託契約の責任制限条項の効力が及ぶか?ということが議論されました。この点は肯定されています。
また、裁判では、当然のことながら、事実関係をどのように認定するかも重要です。
このケースで裁判所は、「本件システム開発の実施責任者が参加し、その総合評価、スケジュール・作業進捗の実績・課題の共有、重要課題の意思決定等を行うものであった。そして、そこで議論された要点については、会議の翌々営業日の午前中までに控訴人が議事録を作成し、議事録データベースに登録し、同議事録によって会議の最終的な決定事項を記録化することとされていた。」、「確定した議事録は、ステアリング・コミッティの作業実態を反映するものとして取り扱うのが相当であるといえ、特段の事情が認められない限り、前記作業の経過内容等については、そこに記載された内容が当該期日におけるステアリング・コミッティにおいて総括されたものと認定するのが相当である。」 としています。
このように当事者の打合せ議事録は、後に紛争になったときに証拠として重要な意味を持ってくることには留意すべきです(古田利雄)。
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3 弁護士Blog情報
東京FM「0から1を生む力」の収録に行ってきました。(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2013/11/fm01.html
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