1 銀行融資に関して保証を行った信用保証協会が錯誤無効を主張した裁判例の紹介
銀行が信用保証協会の保証付きで融資した先が反社会的勢力であることが判明したことから、信用保証協会が、錯誤により保証契約は無効であると主張したものの、認められなかった裁判例を紹介します。
2 無効な解雇により就労できなかった日と年次有給休暇
無効な解雇により就労できなかった日が、年次有給休暇の成立要件である、前年度の全労働日の8割以上の出勤の出勤日数、及び全労働日に含まれるかが争われた裁判例を紹介します。
1 銀行融資に関して保証を行った信用保証協会が錯誤無効を主張した裁判例の紹介
昨今、みずほ銀行が反社会的勢力に対して融資を行っていることが、社会的に問題になっていますが、今回ご紹介する裁判例も、みずほ銀行が暴力団関係者が代表であるA社に対して融資を行っていた事案です。この融資では、東京信用保証協会が保証していました。最初の融資から約2年半後の平成23年7月に、A社は手形の不渡りを出し、みずほ銀行は約6300万円の貸し付けが焦げ付きました。そこで、みずほ銀行は東京信用保証協会に対して代位弁済を求めたのですが、東京信用保証協会は、A社の代表者が暴力団構成員であり、国交省はA社に対して公共工事について指名を行わないの措置を行っていることを指摘し、仮にこのような事実を知っていれば保証契約をすることはなかったとして、錯誤無効を主張し、代位弁済を拒みました。
この事案について、東京地裁平成25年4月24日判決は、たしかに、東京信用保証協会の対応方針に照らせば、反社会的勢力について債務保証の対象から排除する方針で臨んでいたことは認められるものの、民法95条に定める法律行為の要素の錯誤に該当するかどうかについて検討するに、当時の保証委託契約書には暴力団排除条項はなく、A社が反社会的勢力関連企業でないことが、保証契約の重要な内容であったということはできないとしました。そして、反社会的勢力関連企業であることが判明した場合には、保証契約を締結しないという前提は、公益的要請から導かれるもので、保証契約の本質的要素から導かれるものではなく、このような場合に保証契約を無効とすることで協議が調った形跡もなく、共通の理解が形成されていたとは認められないと判示し、保証契約が錯誤により無効になることはないと結論付けました。
このように、一方当事者が契約の当然の前提と考えていたとしても、それが表示されていなければ、錯誤の主張が制限されることがあります。
本件については控訴されており、判断の難しいケースでもあることから、上級審での判断が注目されます(鈴木俊)。
2 無効な解雇により就労できなかった日と年次有給休暇権
Y(会社)を解雇されたX(労働者)が、Yに対し、解雇無効を主張して労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し、その勝訴判決が確定して復職しました。
Xは、復職後に、、年次有給休暇の請求をして5日間休んだところ、Yが、労働基準法39条2項所定の年次有給休暇の成立要件を満たさないとして、上記5日分の賃金を支払わなかったため、XはYに対して、年次有給休暇を有することの確認、並びに上記未払賃金及びその遅延損害金の支払を求めました。
最高裁は、法39条1項及び2項における、前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇の成立要件は、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者を、その対象から除外する趣旨で定められたもので、無効な解雇の場合のように、労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして、全労働日に含まれるとしました。
そして、Xは、Yから無効な解雇によって正当な理由なく就労を拒まれたために、本件係争期間中就労することができなかったことから、本件係争期間は、法39条2項における出勤率の算定に当たっては、年次有給休暇請求の前年度における出勤日数に算入すべきものとして、全労働日に含まれるものであるとし、Xの年次有給休暇の成立を認めた原審の判断を維持しました。
従前の行政通達(昭和33年2月13日基発90号、昭和63年3月12日基発150号)では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の日」は「全労働日」に含まれないとされており、ある年度全体が「使用者の責に帰すべき事由による休業の日」に当たると、「全労働日」が0日となり、年次有給休暇権の成立要件である「前年度の『全労働日』の8割以上の出勤」を満たさないという問題点がありましたが、本判決を受けて発出された行政通達(平成25年7月10日基発3号)では、労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日は、不可抗力等の場合を除き、出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれると変更されています。あわせてご確認ください(佐藤未央)。
参考:年次有給休暇請求権存在確認等請求事件(最高裁平成25年6月6日判決)
労働基準法39条1項及び2項
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