「ファウンダー・インスティテュート」 のご紹介
FIは、2009年にシリコンバレーで立ち上げられ、グローバルに展開するスタートアップ・アクセラレータです。この秋東京チャプターが活動を始めます。
9月18日(水)19時から、当法律事務所で、説明会を行います。
また10月2日(水)には、ビジネス・アイディアの作り方、効果的なプレゼンテーションの方法についてのブートキャンプを行います。 http://fi.co/e/3186
(古田)
≪今回の紹介テーマ≫
1 取締役の会計帳簿閲覧謄写請求権
取締役会設置会社の取締役が、会社に対して会計帳簿などの閲覧謄写請求権を有しないとした事例を紹介します。
2 株式移転完全子会社の反対株主による株式買取請求
株式移転完全子会社の反対株主による株式買取請求に係る「公正な価格」などについて判断した裁判例をご紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 取締役の会計帳簿閲覧謄写請求権
会社法は、保有株数など一定の要件を備えた株主に会社に対する会計帳簿の閲覧謄写請求権を認めています。
しかし、取締役が同様の請求をすることができるという明文の規定はありません。
平成7年の名古屋地方裁判所の決定では、会社の業務を執行し、経営に参画するという取締役の職責上、職務に必要な限り会社の会計帳簿などの閲覧謄写を求める権限を有するとしていました(同地裁・平成7年2月20日)。
しかし、東京地方裁判所は、会社法に規定がない以上、取締役はそのような請求をすることができないと判断しました。
取締役は、会社に対する善管注意義務を果たすために、会社の財務状態や金銭の流れを把握する必要に迫られて、会計帳簿を閲覧すべき立場になることも、当然あり得ます。
しかし東京地裁は、会計帳簿の閲覧を求められた会社が、正当な理由なくこれを拒んだ場合、この不当拒絶により取締役の義務が履行できなくなったときは、その履行をしなかったことに基づく取締役の責任が、会社又は第三者から追求された局面において、不当拒絶の事実を取締役のために斟酌すればよいとしました。
このように解釈すると、免責された取締役は良いかもしれませんが、株主その他のステークホルダーは損害を被る恐れがあります。
当事務所ではこのような裁判所の判断には賛成できかねるところではありますが、字睦的には参考になるため、事例として紹介しました(古田)。
2 株式移転完全子会社の反対株主による株式買取請求
本件は、Aを完全子会社とする株式移転に反対したAの株主Xによる株式買取請求における価格決定申立事件の抗告審で、「公正な価格」の額の算定の基準日、株式買取請求に係る「公正な価格」、株主総会で承認された株式移転における株式移転比率の公正性などについて判断した事件です。
東証一部上場会社であったAは、特別な資本関係のないYとの間で、平成20年11月18日、A及びYを子会社とし、Cを親会社として設立するとの株式移転計画を公表しました(本件株式移転)。本件株式移転計画では、Yの株主に対しその普通株式1株につきCの普通株式1株、Aの株主に対しその普通株式1株につきCの普通株式0.9株をそれぞれ割り当てることとされました(本件株式移転比率)。そして、平成21年1月26日開催のA株主総会(本件総会)において本件株式移転を承認する旨の決議がされ、同年4月1日、本件株式移転の効力が生じました。
Aの株主Xは、本件株式移転に反対し、Aに対してXの保有株式の買取りを請求しましたが、その価格について協議が調わなかったため、価格の決定の申立てをしました。
原審は、本件株式移転計画が公表された翌日にAの市場株価が制限値幅の下限まで下落したことなどから、本件株式移転比率は経営統合による企業価値の増加を適切に反映していないとした上で、公正な価格は、本件株式移転の「効力発生日」を基準として、本件株式移転比率に基づく本件株式移転がなかったら有していたであろうAの株式の客観的価値を基礎として算定すべきとして、1株747円であると判断しました。
これに対し最高裁は、反対株主に公正な価格での株式の買取請求権が付与された趣旨は、反対株主に会社からの退出の機会を与え、当該株主に、株式移転がされなかった場合と経済的に同等の状態を確保し、さらに株式移転により組織再編による相乗効果(シナジー効果)その他の企業価値の増加が生ずる場合、これを適切に分配し得るものとすることにより、反対株主の利益を一定の範囲で保障することにあり、公正な価格の額の算定は株式買取の「請求日」を基準日とするとしました。
また、公正な価格は、原則として、株式移転によりシナジー効果その他の企業価値の増加が生じない場合は、株式買取請求がされた日における株式移転を承認する旨の株主総会決議がされなければその株式が有したであろう価格、それ以外の場合は、株式移転計画において定められていた株式移転比率が公正なものであったならば株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格をいうとしました。
株式移転比率の公正性については、一般に、相互に特別の資本関係がない会社間で株式移転計画が作成された場合、各会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及び株主の利益にかなう計画を作成することが期待できるだけでなく、株主は、株式移転比率が公正であると判断した場合に株主総会において当該株式移転に賛成するといえ、株式移転比率が公正か否かは、原則として、株主及び取締役の判断を尊重すべきであり、相互に特別の資本関係がない会社間において、株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に株主総会で承認されるなど、一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合、特段の事情がない限り、当該株式移転における株式移転比率は公正なものとみるのが相当であるとしました。
そして、AとYは、相互に特別の資本関係がなく、株主総会決議を経るなどの一般に公正と認められる手続を経て本件株式移転の効力が発生しており、本件総会に先立つ情報の開示等に問題があったことはうかがわれず、本件総会における株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情がない限り、本件株式移転比率は公正なものというべきであるとしました。そして、市場株価の変動には様々な要因があることから、専らAの市場株価の下落やその推移から、直ちに上記の特段の事情があるということはできず、本件株式移転比率は公正なものというべきであり、本件株式移転比率を公正なものといえないとする原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、本件を原審に差し戻しました。
本件は、株式移転における反対株主の株式買取請求に係る「公正な価格」に関連して、最高裁が初めて判断したもので、実務でも十分な考慮が必要です(佐藤未央)。
参考:株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
(最高裁平成24年2月29日決定) 会社法773条、806条、807条
3 弁護士Blog情報
非嫡出子の相続分に関する9月4日最高裁決定(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2013/09/post-33.html
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