ファウンダー・インスティテュート 無料セッションの紹介
https://www.clairlaw.jp/blog/clairlaw/2013/08/post-64.html
古田弁護士は、この団体の東京チャプターのディレクターをしています。
≪今回の紹介テーマ≫
1 身元保証人の責任
どの程度の責任が認められているのか、実際の事例をいくつか紹介します。
2 登録商標の登録が取り消された事例(知財高裁平成25年3月21日判決)
登録商標を継続して3年間使用していたとは認められずに登録が取り消された事例を紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 身元保証人の責任
従業員の故意・過失によって会社が損害を被った場合、従業員の身元保証人に対して、どのような請求ができるでしょうか。
身元保証契約書には、「本人(保障される従業員)が何らかの損害を会社に与えた際、身元保証人が連帯して損害額を賠償します。」と記載されているため、会社は損害の全額を請求できると考えている経営者がいるかもしれません。
しかし、身元保証人の責任は、永続的で広い範囲に及ぶため、予想できなかったような大きな責任を負うことになることもあり、古くから判例は、保証期間やその責任を制限してきました。そして、昭和8年には、このような判例の流れを踏まえて、身元保証法が制定され、身元保証人の保証期間は最長5年に制限され、保証責任の範囲も、使用者の従業員に対する監督、身元保証をした経緯、従業員の業務内容等を始め一切の事情を斟酌して裁判所が決めることになっています。
それでは、具体的には、どのようなケースで、どの程度の責任が認められているのでしょうか。実際の事例をいくつか紹介します。
平成18年11月9日福岡高等裁判所判決
従業員Cが集金した工事代金等を着服、横領したため、Cの親族に、再びCが同様の行為をしたりした場合等には、Cと連帯して既発生の損害金3506万1830円の支払いをすることを約束させていたところ、その後再び工事代金を着服、横領したとして、その支払いを求めた事案について、裁判所は、身元保証人らの年収の状況や、本人が退職金を放棄したことなどを斟酌して、身元保証人に連帯して700万円を弁償すべき責任を認めました。
平成18年6月6日旭川地方裁判所判決
農業協同組合の元職員による水増し請求等に関するケースについて、従業員が負うべき損害賠償債務は、大部分が故意によるものではなく、過失によるものであることからすれば、身元保証人らが負担すべき損害は、身元保証法五条を適用して、1割程度をもって相当とするとして、身元保証人らに連帯して1560万円を弁償すべき責任を認めました。
平成5年11月19日東京地方裁判所判決
信用金庫のATM機の現金の管理をしている従業員が、現金を抜き取っていたというケースについて、会社が現金のチェックを毎日行っていなかったために発覚が遅れた点で、会社の現金等の管理体制にも落ち度があったとして、身元保証の責任は会社の損害の二分の一にとどめるのが相当であるとし、身元保証人らに連帯して55万円を弁償すべき責任を認めました。
身元保証人の責任が減額されるのは、全額請求を認めることが公平の観点から酷だからですから、身元保証人が共同不法行為者であるときは、次の裁判例の言うように、減額をうけることはできません。
昭和49年10月25日/秋田地方裁判所大館支部/判決
身元保証人が本人を教唆して横領行為を敢行させ横領金のほとんど全部を受取つている等共同不法行為者的地位に立つ場合には、身元保証ニ関スル法律五条の法意に照し同条を適用すべき限りでなく、また信義則上からも同条所定の諸事情を斟酌すべきでない。
身元保証ニ関スル法律
第一条 引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ三年間其ノ効力ヲ有ス但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス
第二条 身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ五年ニ短縮ス
2 身元保証契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但シ其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三条 使用者ハ左ノ場合ニ於テハ遅滞ナク身元保証人ニ通知スベシ
一 被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ
二 被用者ノ任務又ハ任地ヲ変更シ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ加重シ又ハ其ノ監督ヲ困難ナラシムルトキ
第四条 身元保証人前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ将来ニ向テ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得身元保証人自ラ前条第一号及第二号ノ事実アリタルコトヲ知リタルトキ亦同ジ
第五条 裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス
第六条 本法ノ規定ニ反スル特約ニシテ身元保証人ニ不利益ナルモノハ総テ之ヲ無効ト
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2 登録商標の登録が取り消された事例(知財高裁平成25年3月21日判決)
Y社は、指定商品を第25類「履物、乗馬靴」とする「rhythm」の文字を横書きしてなる商標を出願し、平成17年9月16日に設定登録を受けました。
ところが、Y社は同社の履物について「NEORHYTHM」「NEO RHYTHM」等の商標のみを使用し、「rhythm」という登録商標そのものは使用しませんでした。
商標法50条1項は、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが指定商品について登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって、同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一を認められる商標を含む)を使用していないときは、何人も、特許庁に対し、その商標登録を取り消す審判を請求することができると定めています。
そこで、X社は、特許庁に対し、Y社の「rhythm」という登録商標の取消を求める審判を請求しましたが、特許庁は、Y社が「NEORHYTHM」「NEO RHYTHM」等の商標を使用していたことをもって、商標法50条1項に定める商標権者の「使用」があるとして、X社の審判請求は成り立たないと審決しました。
これを不服として、X社が知財高裁に上記審決の取消を求めたのが、本件事案です。
知財高裁は、商標法50条1項が、(1)書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、(2)平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって、同一の称呼及び観念を生ずる商標、(3)外観において同視される図形からなる商標、を例示していることに鑑みれば、商標法50条1項の「登録商標と社会通念上同一を認められる商標」とは、上記(1)ないし(3)に準ずるようなこれと同程度のものをいい、「類似」の商標は含まれないと判示しました。
その上で、「rhythm」と、「NEORHYTHM」「NEO RHYTHM」とは、(1)書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標とはいえないし、(2)片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって、同一の称呼及び観念を生ずる商標でもなく、また、(3)外観において同視される図形からなる商標でもなく、これらと同程度のものということもできないとして、特許庁の判断には誤りがあると認め、特許庁の審決を取り消しました。
登録商標と同一の商標を利用しない場合には、本判決のように商標法50条1項に基づき商標登録が取り消されてしまうかもしれません。商標登録をする際には、現実に利用することが予定されている商標を出願しなければなりません(鈴木理晶)。
SNSへの非常識投稿による企業の信用失墜(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2013/08/post-32.html
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