≪今回の紹介テーマ≫
1 相殺と時効消滅に関する最高裁判例(平成25年2月28日)
過払金返還請求権の消滅時効期間が経過した後に「相殺適状」が生じたとして、相殺の効力を認めなかった最高裁判例を紹介します。
2 アジャイル開発のモデル契約
IPA独立行政法人情報処理推進機構が公表したソフトウエア開発に関する「アジャイル開発のモデル契約」について紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 相殺と時効消滅に関する最高裁判例(平成25年2月28日)
Xは、貸金業者Yから、平成7年から平成8年まで金銭を借り入れ、平成8年の時点で約18万円の利息制限法が定める金利を超過する過払金が発生していました。そして、Xは、さらに平成14年に457万円をYから借り入れ、Yに対し、平成22年6月までに残元金が約189万円となるまで継続して返済していました。
Xは、平成22年8月、平成8年の時点で発生していた過払金返還請求権と、平成22年6月時点の残元金約189万円の貸付金残債権を相殺するという意思表示をしました。
これに対して、Yは、Xが自働債権とした過払金返還請求権は、発生から10年を経過した平成18年に消滅時効期間が経過しているとして、消滅時効を援用する旨の意思表示をし、相殺の効力は生じないと主張しました。
民法508条は、「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は相殺をすることができる。」と規定しています。
本件では、自働債権である過払金返還請求権の時効消滅期間が経過する平成18年以前に、「相殺に適するようになっていた場合」すなわち「相殺適状」が生じていたか否かが問題となりました。
この点について、原審である札幌高裁は、受働債権である貸付金残債権について、Xが期限の利益を放棄しさえすれば、自働債権と相殺することができたとして、Xが2度目の借入を行った平成15年1月には「相殺適状」が生じていたと判断して、民法508条による相殺の効力を認めました。
これに対し、最高裁は、「相殺適状」が生じるためには、受働債権について、期限の利益を放棄することができるというだけでは足りず、期限の利益の放棄又は喪失等により、その弁済期が現実に到来していることまで必要であると判断しました。
そして、本件では、受働債権である貸付金残債権を平成22年6月まで継続して返済していたXは、同時点になって初めて期限の利益を喪失したにすぎないため、自働債権である過払金返還請求権の消滅時効期間経過時点である平成18年よりも後に「相殺適状」が生じたとして、民法508条の適用を否定し、相殺の効力を認めませんでした。
自働債権の消滅時効期間が経過する前に相殺を主張する場合であれば、民法508条に定める相殺適状と時効消滅期間の経過の先後関係は問題とはなりません。むしろ、相殺の意思表示をすれば、受働債権について期限の利益の放棄の意思表示は現にこれをしなくても相殺の効力が生じるとする判例があります(大判昭和8年5月30日)。
本件のように、自働債権の消滅時効期間経過後に相殺を主張したというレアケースではありますが、民法508条に関して最高裁が明示的に判断した事例であるためご紹介しました(鈴木理晶)。2 アジャイル開発のモデル契約
従来のソフトウエアの開発契約は、最初に要件定義を特定してから設計→プログラミング→テストと進めていくやり方でした。この手法は、ウォーターフォール(WF)型開発手法と呼ばれることもあります。
このようなソフトウエア開発契約は、要件定義を定めて、その要件定義に合う製品を開発するという内容になります。
しかしながら、実際には厳密に要件定義を行うことは難しい上に、特にアプリやECサイトなど見た目のイメージが重要な開発では、一旦要件定義を定めたとしても、開発の途中でできてきたインターフェイスを見て、クライアントが変更を望むことが少なくありません。
このため、FW型の開発契約は、しばしばベンダーとクライアントの間の紛争の原因となっていました。
アジャイル開発手法は、成果物の要件定義をあらかじめ定めるのは諦めて、開発の進捗ごとにユーザーからのフィードバックを確認しながら、部分的な開発作業を反復していく開発手法です。
IPAでは、モデル契約として、基本契約と個別契約を結ぶモデル、組合形式で契約するモデルの2種類を紹介しています。
詳細はIPAのリリースに譲りますが、アジャイル開発は、ユーザーの意思を十分に開発に反映させることを目的とするものですから、ユーザー側も要求事項の管理を行う責任を負うことになります。したがって、ベンダーは、ユーザーがベンダーまかせの対応では、スケジュール通りに開発が進まず、また、期待した成果物が出来上がらないことについて十分に説明するべきです(古田利雄)。
参考:アジャイル開発のモデル契約に関するIPAのリリース
http://sec.ipa.go.jp/seminar/2012/20120523.html
JISA情報サービス産業協会のWF型開発契約に関するリリース
http://www.jisa.or.jp/it_info/various/tabid/925/Default.aspx3 弁護士Blog情報
投信法改正と説明義務(鈴木俊)
https://www.clairlaw.jp/blog/satoshisuzuki/2013/07/post-36.html
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