1 金利スワップ契約における銀行の説明義務違反について
本ニュースレターvol.100で紹介しました、福岡高判平成23年4月27日判決の金利スワップ契約における銀行の説明義務違反に関しまして、これに対する最高裁判決がでましたので、その内容を紹介します。
2 解任された取締役の株主に対する損害賠償請求について
取締役を解任された者が議決権の過半数を有する株主に対し、退職慰労金相当額の損害賠償を求めたところ、これが認められた裁判例を紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 金利スワップ契約における銀行の説明義務違反について
本件では、三井住友銀行とX社との間の金利スワップ契約について、契約締結に当たり銀行側に説明義務違反があったかどうかが争われました。
この金利スワップ契約は、銀行とX社との間で固定金利と変動金利を交換するという内容で、想定元本を3億円、取引期間を平成17年3月8日から6年間(支払期日は3か月毎)、X社から銀行への金利支払条件を固定金利年2.445%とし、銀行からX社への金利支払条件を「3か月TIBOR※」+0%とするという内容です。当時の「3か月TIBOR」は年0.09%でした。(※TIBORとは"Tokyo Inter-Bank Offered Rate"の略で、東京の銀行間取引金利のことをいう。)
当時、X社は複数の金融機関から変動金利での借入れをしていたため、変動金利のリスクヘッジのためという銀行員の勧誘文句に応じ、この金利スワップ契約を締結したところ、平成18年6月までに、X社が銀行に合計883万0355円を支払う結果となったため、損害賠償請求訴訟を提起したというものです。
一審は銀行側勝訴でしたが、二審である福岡高裁は、この金利スワップ契約の内容は、通常ではあり得ない程の変動金利の上昇がない限り、変動金利に対するリスクヘッジの効果が生じないといえることから、銀行側の説明義務違反を認めました。
しかしながら、最高裁は福岡高裁の判決を破棄し、銀行側の逆転勝訴となりました。最高裁は、金利スワップ契約は、将来の金利変動の予測が当たるか否かのみによって結果の有利不利が左右されるもので、単純なものであるから、経営者であれば理解することは困難ではないとし、この契約の固定金利の水準が妥当な範囲にあったかどうか等はX社の自己責任に属するもので説明する必要もないといった理由で、基本的な仕組みを説明している銀行側に説明義務違反はないと判示しました。
福岡高裁は、金利スワップ契約の詳細な内容や金利の性質なども検討しながら、専門的知識を有する銀行側には、個々の相手方に見合った説明義務があるとしたのですが、最高裁は自己責任を軸に考えて、とてもシンプルに判断しています。この最高裁の判断は1つの事例判断であり、当事者の性質や契約内容が異なる他のデリバティブ事件にそのまま適用されるものとは思いませんが、他の類似訴訟事件に大きな影響を与える判例として紹介いたしました(鈴木俊)。
参照:弊所ニュースレターvol.100(裁判例紹介―福岡高裁平成23年4月27日判決)
https://www.clairlaw.jp/newsletter/2011/08/newsletter679.html
2 解任された取締役の株主に対する損害賠償請求について
今回、損害賠償請求を行ったXは、昭和59年にA社の取締役に就任した者でした。
他方、損害賠償請求を受けたYは、A社の過半数の株式を有する株主で、Xが取締役に就任した際の同社の代表取締役でした。
A社は、平成18年にXを取締役から解任し、平成22年に株主総会においてXに退職慰労金を支給しない旨を決議しました。
これに対し、Xは、(1)XとA社の間に退職慰労金を支給する旨の合意が成立していたにもかかわらず、Yは、Xに退職慰労金を支給しないように手続をした、(2)Yは、 支配株主として株主総会においてXに退職慰労金を支給する旨の決議に賛成すべき法的義務を怠り、Xの有する退職慰労金の支払いを受ける権利を侵害したと主張して、Yに対し、退職慰労金相当額の損害賠償を求めました。
裁判所は、XとA社の間に退職慰労金を支給する旨の合意が成立していたか否かについて、退職慰労金の算定基準等を定めた内規が存在していても、取締役は退任によって当然に退職慰労金請求権を取得するのではなく、株主総会の決議があって初めて会社に対する具体的な退職慰労金の請求権を取得するとしました。また、取締役が会社との間で退職慰労金を付与する旨の特約を結んでいたとしても、当該特約が当該取締役の退任時の株主の利益を害する危険が全くないことが予め明らかであるなどの特段の事情がない限り、会社に対する具体的な退職慰労金の請求権を生じさせないとし、本件では、XとA社の間に退職慰労金を支給する旨の有効な合意はないとしました。
しかし、退職慰労金を支給しなかったことについて株主に不法行為が成立するか否かについては、Yは、A社の主要株主であり、XをA社の取締役に任用するにあたって内規のとおり退職慰労金を支払うと説明しているところ、当該説明はXに対して具体的な退職慰労金請求権を直接生じさせるとはいえないまでも、Yが特段の事情がない限りXに対する退職慰労金の支給決議に賛成することを含んだ明確な支給約束として有効であり、Yは、この約束に反して退職慰労金請求権の成立を殊更に妨害したものであり、Yに不法行為が成立するとして、Xの請求を認めました。
このように、退任取締役が会社に対して退職慰労金を請求する場合、原則として株主総会の決議を経ていることが必要になりますが、かかる決議がない場合でも、会社の主要株主が、自ら退職慰労金を支払うと述べておきながら、いざ株主総会で退職慰労金の支給決議を行った際にはその成立を妨害した、などという違法性が高い事情がある場合、退任取締役は、当該株主に対し、退職慰労金相当額の損害賠償をすることも考えられます(佐藤未央)。
参考:損害賠償請求事件(佐賀地裁平成23年1月20日判決)
会社法361条1項、民法709条
3 弁護士Blog情報
民法改正のポイント 「約款」について(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2013/05/post-29.html
ミャンマーファミリークリニックと菜園の会(MFCG)の紹介(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2013/06/post-30.html
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