今回は、下請法の概要と留意点についてと、歴史上の著名な人物名を用いた商標の商標登録を認めた裁判例を紹介します。
≪今回の紹介テーマ≫
1 下請法の概要と留意点について
下請法の概要と留意点を紹介します。
2 歴史上の著名な人物名を用いた商標の商標登録を認めた裁判例について
歴史上の著名な人物名である、「北斎」を用いた商標の商標登録を認めた裁判例を紹介します。
1 下請法の概要と留意点について
取引当事者間を、資本金の額により、規制される側と保護される側に立場を変えてしまう法律として、下請代金支払遅延等防止法(下請法)という法律があります。
下請法は、昭和31年に施行された古い法律で、元請などに比べ弱い立場である下請事業者を守るための法律です。「下請」の名が表すようにもともとは製造業を対象としていました。その後、産業のサービス化やソフト化を受けて、平成15年法改正が行われ、次のような業務も対象となっています。
この改正では、ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど(これらを「情報成果物」と呼んでいます。)の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託する場合を新たに対象としました。
これにより、例えば、ソフトウェア・メーカーが、ゲームソフトや汎用アプリケーションソフトの開発をソフトウェア・メーカーに委託する場合や、広告会社が、クライアントから受注したCMの制作をCM制作会社に委託する場合、さらに、家電メーカーが、内部システム部門で作成する自社用経理ソフトの作成の一部をソフトウェア・メーカーに委託する場合なども下請法の対象となっています。
次に、運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を行う事業者が、請負った役務の提供を他の事業者に委託する場合が新たに対象となりました。これにより、例えば、貨物運送業者が、請負った貨物運送業務のうち一部経路の業務を委託する場合なども下請法の対象となります。
下請法は、下請法により規制を受ける「親事業者」と、下請法により保護される「下請事業者」とを、資本金の額で区別しています。
注意すべきは、資本金が1000万円を超える会社、例えば資本金が1000万1円の会社は、委託先が個人事業主や1000万円以下の会社の場合には、「親事業者」に該当し、下請法の規制を受けるということです。逆に、1000万円以下(1000万円を含みます。)の場合には、「親事業者」として下請法の規制を受けることはなく、常に「下請事業者」として保護を受けることになります。
下請法は、親事業者がその優位な立場を利用した下請事業者イジメとも言える、次のような行為を禁止しています。
(1)受領拒否
(2)下請代金の支払い遅延
(3)下請代金の減額
(4)不当返品
(5)買いたたき
(6)購入強制・役務の利用強制
(7)報復行為
(8)有償支給原材料等の対価の早期決済
(9)割引困難手形の交付
(10)経済上の利益の提供要請
(11)不当な給付内容の変更・やり直し
下請法に違反した場合、公正取引委員会の勧告と同時に、その違反の事実が、会社の実名入りで公表されます。1年間で15件程度が公表され、その中には東証一部に上場しているような会社も含まれています。マスコミで報道されることもありますが、公正取引委員会のホームページに永久的に掲載され、ネット検索などでも違反の事実が出てきてしまいます。これは時に、会社の信用を大きく損ねることになります。この「公表」という制裁が、下請法を意味ある法律にし、かつ小さな下請事業者でも、下請法の存在をチラつかせることにより、取引上優位にある親事業者との交渉力を持つことができるのです。
公表された下請法違反の事例において、何より多いのが、「(3)下請代金の減額」です。これは、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずることですが、直接代金を減額するだけでなく、例えば、「協賛金」の名目で下請代金の額に一定率を乗じて得た額を下請代金から差し引く場合など、あらゆる名目、方法での減額行為が禁止されています。振込手数料や消費税相当額を支払わないこともこれに該当します(佐川明生)。
2 歴史上の著名な人物名を用いた商標の商標登録を認めた裁判例について
X株式会社は、平成19年11月22日、指定商品を「被服、ガーター、ベルト」等とし、「北斎」との筆書風の漢字と葛飾北斎が用いた落款と同様の形状をした図形(以下「本件図形」とします)からなる商標(以下「本件商標」とします)の登録を出願しました。
しかし、特許庁は、北斎ゆかりの地における公益的な事業に支障を来すおそれがあるなどとして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号)に該当するから登録を受けることができない旨の拒絶査定をし、さらに、X社による拒絶査定不服審判請求に対しても、同様に本件商標は登録を受けることができないとして、X社の審判請求は成り立たないとの審決をしました。
そこで、X社が、知財高裁に対し、かかる特許庁の審決の取消を求めた訴訟の判決が、本判決(知財高裁平成24年11月7日判決)です。
本判決はまず、葛飾北斎の出身地である東京都墨田区などで、まちづくりや観光振興のシンボルとして、葛飾北斎の名を用いた施設の整備や催し物の開催等が行われていることなどを認め、「北斎」の名称は、それぞれの地域における公益的事業の遂行と密接な関係を有するため、本件商標登録を認めることは、このような公益的事業において土産物等の販売について支障をきたす懸念がないとはいえない、などと述べ、商標登録を認めなかった特許庁の審決にも一定の理解を示しました。
しかしながら、本判決は最終的に、X社が本件商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は、「北斎」との筆書風の漢字と本件図形からなり、その構成は限定されると考えられることから、公益的事業の遂行に生じ得る影響は限定的であり、また、X社には上記のような公益的事業の遂行を阻害するなどの不正な目的があるとは認められない、などと述べ、本件商標は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号)には該当しないと判断し、本件商標の登録を認めるべきとしました。
地域振興のため、ご当地ゆかりの著名な歴史上の人物名を使用した公益的事業は今後も増加していくものと予想されます。本判決は、歴史上の著名人物の名を使用した商標登録を認めた判決として、今後の参考となる事例のためご紹介しました(鈴木理晶)。
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