今回は、インターネットの投稿者を特定する方法と、商標権侵害に関するゆうメール使用差止事件を紹介します。
≪今回の紹介テーマ≫
1 インターネットの投稿者を特定する方法
インターネットの投稿者を特定する方法について解説します。
2 ゆうメール使用差止事件
郵便局が提供している「ゆうメール」というサービスが、商標権侵害であるとして、使用を差し止められた事
件を紹介します。
1 インターネットの投稿者を特定する方法
インターネットの掲示板に会社の信用を毀損する投稿がなされた場合、会社は、どのようにすれば投稿者を特定できるのでしょうか。
以下の手順で、whois というサービスを使い、投稿者と契約関係にあるプロバイダを割り出して、このプロバイダに投稿者の開示を求めることができます。
まず、前提となる仕組みについて説明します。
インターネットを利用するためには、一般的には、インターネットへの接続サービスを行うプロバイダと利用契約を結びます。したがって、このプロバイダは、インターネットの利用者の住所・氏名などの個人情報を有しています。
誰でも書き込みができるようなWebサイトAがあるとします。このWebサイトAもプロバイダ自身が運営しているか、或いは、プロバイダと契約してドメイン( @×××.××)の提供を受けています。
例えば、Nという者が、PCからWebサイトAの掲示板に、「Y社の製品は、××という違法な粗悪材料を使っている。」と虚偽の事実を書き込んだとします。この書込みは、N氏の契約しているプロバイダ(経由プロバイダ)を経由して、WebサイトAのドメインを管理しているプロバイダ(コンテンツプロバイダ)に送信され、WebサイトAに表示されます。但し、WebサイトAがN氏が契約しているプロバイダであるときは、経由プロバイダを経由せず、直接書き込まれることになります。コンテンツプロバイダは、このような書込みがなされると、通常、投稿者のIPアドレス、時間(タイムスタンプ)、アクセスしたページ、どのようなブラウザを使ったかなどを自動的にログ(記録)しています。
そこで、WebサイトAに自社の信用が毀損されるような投稿があることを知ったY社は、以下のような手順で、N氏を割り出します。
WebサイトAにコンテンツプロバイダの連絡先の記載があれば、その連絡先に、信用棄損的な投稿を行った者の、IPアドレス、タイムスタンプを明らかにするように求めます。
WebサイトAにコンテンツプロバイダの連絡先の記載がないときは、そのWebサイトAのURLのうち、ドメインを表す部分を、Whois サービスを使って調べます。
例えば、当事務所のURL「https://www.clairlaw.jp/」であれば、「clairlaw.jp」を「http://whois.jprs.jp/」サイトの検索ウインドに入力します。「.jp」 以外の「.com」「.net」などのドメインであれは、それぞれのドメイン管理会社のwhois サービスを利用します。
ネット上では、全てのドメインを探せるサービスを提供しているサイトもあります。
(例)「http://www.reg.humeia.co.jp/?t=whois」
このようなサービスを使って、当事務所のドメインを検索すると、以下のような情報が表示されます。
Domain Information: [ドメイン情報]
[Domain Name] CLAIRLAW.JP
[登録者名] 弁護士法人クレア法律事務所
[Registrant] CLAIR LAW FIRM
[Name Server] ns1.value-domain.com
Contact Information: [公開連絡窓口]
[名前] Whois情報公開代行サービス by バリュードメイン
[Name] Whois Privacy Protection Service by VALUE-DOMAIN
[Email] whoisproxy@value-domain.com
[Web Page] https://www.value-domain.com/
[郵便番号] 542-0081
[住所] 大阪府大阪市中央区南船場3-1-8
南船場ドリームビル
[Postal Address]
[電話番号] 06-6241-××××
[FAX番号] 06-6241-××××
これによって、連絡すべき窓口=[公開連絡窓口]は、その住所・電話番号、メールアドレスなどが明らかになりました。ここでは、 [公開連絡窓口]は、「 Whois情報公開代行サービス by バリュードメイン」となっています。[公開連絡窓口]と表示される企業が、プロバイダではなく、ドメイン名を管理しているに過ぎない=レジストラである場合もあります。インターネット上の住所ともいうべき、ドメイン名は、「.com」はVerisign、「.jp」は株式会社日本レジストリサービス(JPRS)が管理していますが、このような単一の組織の下に複数の登録手続を行う業者があり、レジストラと呼ばれています。
当事務所に関して言えば、「 Whois情報公開代行サービス by バリュードメイン」はレジストラで、コンテンツプロバイダは、S社です。
公開連絡窓口に示してある連絡先(バリュードメイン)では、登録者(S社)へ連絡を取り次ぐことになっていますので、こちらの連絡先を添えて登録者へ連絡を取り次いでもらい、相手からこちらに連絡をしてもらうよう申し入れます。前述のとおり、コンテンツプロバイダは、書込みをした者の、IPアドレス、時間(タイムスタンプ)などのログを有していますので、これらの情報の開示を求めます。
コンテンツプロバイダによる開示によって、投稿した者のIPアドレス
(例) 「1.33.141.×」
が判明したら、再び、IPアドレス変換サービス
(例) 「http://www.iphiroba.jp/ip.php」
などでホスト(経由プロバイダ)を探します(最近では割当可能なIPアドレスが不足しているため、他国から借りてきている場合があるので、このようなサービスで特定できない場合には、他国のWhoisで検索する必要が生じることもあります。)。
こうして、経由プロバイダの[公開連絡窓口]を把握して、投稿者の住所、氏名、メールアドレスなどの個人情報の開示を求めます。
経由プロバイダが速やかに開示請求に応じないときは、裁判所に対して、仮処分を申し立てるべきです。投稿が掲載されてからある程度の時間が経つと、プロバイダが保有しているアクセスログが削除されてしまい、投稿した者を特定することが難しくなるからです(古田利雄)。
2 ゆうメール使用差止事件
この事件は、郵便局が提供している「ゆうメール」というサービスが、商標権侵害であるとして、使用を差し止められた事件です。
DMサービスを行っていた札幌メールサービスは、「各戸に対する広告物の配布など」の分類の商標として、2003年4月に「ゆうメール」を特許庁に出願し、2004年6月に登録しました。日本郵便も2004年4月に同分類で出願していましたが、すでに札幌メールサービスが出願していたため認められませんでした。
日本郵便は、同商標を「郵便、メッセージの配達など」の分類で同年11月に登録し、自社のサービスは「荷物の運送サービスであり、広告物の配布にはあたらない」と主張して営業を行っていました。そこで、札幌メールサービスは日本郵便に対して、商標の使用差止等を求めて提訴しました。
東京地裁は、2012年1月に、札幌メールサービスの主張を認め、次のように述べました。
1 日本郵便は、各戸に対するダイレクトメール、カタログなどの配布又は配達役務の提供に当たり、「ゆうメール」の標章を付してこれを配達、展示、配布、又は電磁的方法により提供してはならない。
2 日本郵便は、「ゆうメール」の標章を付したカタログを廃棄せよ。
このように、商標権侵害であると判断されると、それまで行ってきた営業が突然できなくなり、その商標を用いて作られた広告媒体などもすべて廃棄しなければならず、会社は大きなダメージを受けます。そこで、このような状況に陥らないために、会社は、まず、使用する前に類似商標がないかを調査しましょう。
次のWebサイトで簡単に検索することができます。
「http://www.psn.ne.jp/~bds/kentokyu/tokyocho/kensaku.htm」
ゆうメール事件は、商標は同一で、サービスの分類が問題となったものでしたが、商標権は、商品やサービスの出所の誤認混同を防ぐためのものなので、類似の商標を使用することも許されません。類否の判断は、一般的な取引相手・需要者が出所を誤認しないかどうかという観点から行います。通例、「外観」「観念」「称呼」のうち1つでも類似しているかどうかが基準となります。
そして、類似する商標がないようであれば、登録するべきです。
後日談ですが、日本郵便は、この判決を不服として控訴しています。その後、両社には和解(内容非公開)が成立しており、現在の権利者は日本郵便となっています。日本郵便が札幌メールサービスから、この商標を買い取ったと思われます(古田利雄)。
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