今回は、個別株主通知制度と、新株発行と取締役の損害賠償責任に関する東京地裁平成24年3月15日判決を紹介します。
≪今回のご紹介テーマ≫
1 個別株主通知制度について
上場会社の少数株主権を行使するための事前通知制度を中心に解説いたします。
2 新株発行と取締役の損害賠償責任について
発行価格が著しく不公正な新株発行であったとして、取締役に対する損害賠償責任を認めた東京地裁平成24年3月15日判決を紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 個別株主通知制度について
―上場会社の少数株主権を行使するための事前通知制度―
平成21年に株券の電子化が実施され、上場会社の株式は株式の振替制度の対象となりました。
株主名簿の名義書換をした株主は、会社に対しては、原則として、他の方法で株主であることを証明することなく権利を行使することができます。ただし、株式の振替制度が適用される上場会社では、株主総会における株主提案や、各種書面の閲覧請求などの少数株主権を行使する際には、個別株主通知が必要とされています(振替法154条)。具体的には、株主は証券会社に連絡をとって、振替機関から会社に株主であることを通知してもらいます。
振替法は、株主権は個別株主通知がなされた「後」でなければ行使することができない。と規定していますが、裁判所は、個別株主通知は対抗要件であることや、遅れてなされた通知を前提に、改めて少数株主権の行使を求めるのは無駄であることなどを理由に、必ずしも、小数株主権行使の前でなければならないとはしていません。
例えば、平成24年2月8日の大阪地方裁判所判決は、株主提案権の行使に関して、株主提案の前に個別株主通知が到達することまでは必要でなく、株主提案権の行使期限である総会の日の8週間前までに個別株主通知がなされれば良いとしています。
また、全部取得条項付種類株式の取得について、株主総会で決議がなされた場合、これに反対の株主は、株式の価格決定の申し立てをすることができます(会社172条1項)。
平成22年12月7日の最高裁の決定は、この価格決定の申立は、株主毎に個別的な権利行使が予定されているものであるから、「少数株主権」に該当するとしたうえで、この申立を受けた会社が、裁判所における株式価格決定の審理において、申立人が株主であることを争った場合には、その審理終結までの間に個別株主通知がされれば良いとしました。
ただ、平成24年3月28日の最高裁の決定は、同様に反対株主による株式の価格決定の申立事件において、会社が上場廃止になったときでも、個別株主通知は必要であるという立場をとったため、株主は上場廃止になる前に(振替株式でなくなる前に)個別株主通知をしなければ権利行使できないことになりました。
個別株主通知については、このように振替法の規定と裁判所の解釈に乖離があること、個別株主通知を失念していると権利行使の機会を失うことがあるため、紹介します(古田利雄)。
参考:振替法 正式法令名「社債・株式等の振替に関する法律」
2 新株発行と取締役の損害賠償責任について
カツラメーカーであるZ社は、いずれも1株1500円として、平成15年11月に社長のYに対して自己株式の処分を、翌16年3月にY社長を含む経営陣に対して新株発行をする臨時株主総会決議を行いました。いずれの臨時株主総会でも、1500円が特に有利な価額である旨の説明はされていませんでした。その後、Z社は平成19年2月に1株7000円の公募価格により上場しました。
これに対して、Z社の株主Xは、これらの取締役らに対して、自己株式処分と新株発行は著しく不公正な価額によるものだとして、旧商法266条1項5号(現会社423条1項)に基づき、株主代表訴訟を提起しました。
株主Xの請求に対して、東京地裁は、自己株式処分は、過去に公認会計士が算定した配当還元法に基づく価格に準拠したものであり、Z社が従前より退職者から1500円により取得してきたこと、当時は購入希望者がいない株式であったこと、Y社長の取得価格もZ社が取得した価格と同一の金額であったことなどから、公正な価額であったと認めました。
他方、新株発行は、発行済株式数40万株に対して4万株という規模の新株発行であることから、少数株主の株式評価に用いられる配当還元法は相当ではないこと(なお、前述の本件自己株式処分は約3万株を平成14年7月から同年10月にかけ、3回に分けて取得されたものであった。)、当時は中期利益計画等も策定され、財務状況も管理できる状況にあり、増収増益にあったことなどから取引事例法も相当ではないとして、本件自己株式とは事情が異なるものとして著しく不公正な価額によるものと判断しました。
その上で、本件新株発行が、有利発行に関する株主総会の特別決議の手続を経ないで行われたものであること、Y社長らは発行価額に関して公認会計士等の専門家の意見を聴取することなく、取締役会において全員一致の賛成によって決議したものであることから法令違反行為と過失があるものと認め、Y社長らは1株5500円(7000円と1500円の差額)の損害をZ社に与えたものとして、2億2000万円の損害賠償責任を認めました。
上場を目指す会社の中には、本件のようにわずか4ヶ月の間に自己株式の処分や新株発行を、専門家の意見を聴取せずに同一の価格で発行してしまうことがあります。しかし、この裁判例が示すように、たとえ4ヶ月の期間の違いであっても、同一の価格が妥当しないことがあり、しかもその責任は社長らが負わされることがあります。このため、新株発行の際には、外部の専門家に相談し、適正な手続を踏んでいるという証拠を残すべきです。そのようにすれば、過失が認定されるリスクを限定することができます(菅沼匠)。
参考:東京地裁平成24年3月15日判決
3 弁護士Blog情報
アメーバ経営を話し合った(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2013/04/post-28.html
記事に関するご意見やご質問がありましたら、「コメント」欄 https://www.clairlaw.jp/newsletter/ にご記入下さい。当事務所の弁護士がコメントさせて頂きます。みなさんのご意見・ご質問をお待ちしています。