今回は、株主総会決議なき役員退職慰労金が問題となった事案と、口座情報取得手段としての弁護士会照会の利用について紹介します。
≪今回のテーマ≫
1 株主総会決議なき役員退職慰労金について
株主総会決議なき取締役の退職慰労金であっても、取締役は会社に返還すべき義務を負わない場合があることを示した最高裁平成21年12月18日判決を紹介します。
2 口座情報取得手段としての弁護士会照会の利用について
弁護士会照会により、金融機関は口座情報の報告義務を負う場合があることを認めた東京地裁平成24年11月26日判決を紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 株主総会決議なき退職慰労金について
取締役の退職慰労金の支給については、株主総会の決議が必要です(会社法361条)。
株主総会の決議がない限り、仮に退職慰労金に関する規程があったとしても、退職慰労金を請求する権利は発生しません。
ところが、実際には退職慰労金の規程に規定された「社長」の決裁により退職慰労金を支給している会社が多いと思います。
株主総会の決議がない以上、例え退職慰労金に関する規程があり、規程に従い支給されたとしても、原則として、その支給は違法であり、不当利得として返還しなければなりません。しかし、最高裁平成21年12月18日判決は、以下の理由を述べて、会社からの返還請求が「権利の濫用」として許されない場合があることを認めました。
①当該会社では発行済株式総数の99%以上を保有する代表者が内規に基づく退職慰労金の支給を決裁することにより株主総会の決議に代えてきた。
②退任取締役が上記内規に基づく退職慰労金の支給を催告したところその約10日後に上記金員の送金がされ、これにつき代表者の決裁はなかったものの、当該会社が退任取締役に対しその返還を明確に求めたのは送金後1年近く経過してからであった。
このように、例え株主総会決議を欠いていたとしても、取締役に対する退職慰労金については、過去の支給方法などの諸事情を勘案し、取締役は会社に対して返還義務を負わない場合があります(佐川明生)。
注:「社長」が会社の株式を100%保有しているのであれば、株主総会の決議に代る「全株主の同意」があったとみなして退職慰労金の支給は適法となります。
参考:最高裁平成21年12月18日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091218115254.pdf
2 口座情報取得手段としての弁護士会照会の利用について
訴訟で勝訴しても、相手方が任意に支払いを行わなければ、強制執行の手続きを行わなければなりません。相手方預金口座を差し押さえるためには、預金口座の特定(銀行名及び支店名による特定)が必要となりますが、情報が取得できず、強制執行ができないことが多々あります。
これらの情報を取得するため、金融機関に対し、弁護士会照会による問い合わせが行われることがありましたが、金融機関は、口座保有者(相手方)への守秘義務から、回答をしないところが多く、預金口座の特定をすることが困難でした。そのため、金融機関に対する弁護士会照会は口座情報の取得手段としては役に立たないと考えられていました。
ところが、東京地方裁判所は、平成24年11月26日付判決で、金融機関に重大な不利益を生じさせるような場合以外は、口座情報についての弁護士会照会を受けた金融機関は報告義務を負うとしました。
また、金融機関が口座保有者に対し負っている守秘義務について、金融機関が弁護士会照会に対する報告義務を負っていることを前提に、金融機関が弁護士会照会に対し口座保有者の承諾なく回答することは、正当行為であり違法性を欠く(つまり、口座保有者に対する守秘義務違反となっても、損害賠償責任を負わない)と判示し、守秘義務よりも報告義務が優先されることを示しました。
本判決は地裁の判断ですので、確定的なものではありませんが、この判断が出たことにより、今後は、弁護士会照会で相手方の口座情報を取得しやすくなると思われます(吉田南海子)。
参考:東京地裁平成24年11月26日判決
3 弁護士Blog情報
桜の街 市ヶ谷(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2013/03/post-26.html
"人口構造の変曲点に立つマーケティング"(古田隆彦さん)を読んで(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2013/03/post-27.html
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