今回は、株主総会における取締役の説明義務が問題となった事案と、競業関係にある株主による株主名簿閲覧謄写請求について紹介します。
≪今回のテーマ≫
1 株主総会における取締役の説明義務について
株主総会における取締役の説明義務が問題となった東京地裁平成24年7月19日判決の事案
を紹介します。
2 競業関係にある株主による株主名簿閲覧謄写請求について
会社と競業関係にある株主(会社)による株主名簿閲覧謄写請求が認められるかについて判断した
東京地裁平成22年7月20日決定をご紹介します。
3 弁護士Blog情報
所属弁護士による最近のBlog情報を紹介します。
1 株主総会における取締役の説明義務について
取締役は株主総会において株主から質問を受けたときは必要な説明をしなければならず、正当な理由なく説明を拒絶すると株主総会決議取消しの訴えの対象になります(会社法314条、831条1項1号)。
原告は、株主総会において、A社が長年にわたり産業廃棄物の不法投棄をしていたことを前提として、この不法投棄に関与したと思われる役員の責任やコンプライアンス等に関する質問を行いました。
これに対して、A社代表取締役は、そもそも不法投棄の事実はなく、原告らの質問は前提を欠くため回答をする必要はないと説明した上で、市と協議して調査をした結果、周辺環境への影響がないことを確認しており、今後は市からの指導に基づき、定期的に水質調査を実施し適切に対処するなどと説明しました。
このようなA社代表取締役の説明が説明義務違反に該当するか争われたところ、裁判所は、まず、「取締役は総合考慮を行い、平均的な株主が議決権行使の前提として合理的な理解及び判断を行い得る程度の説明をする義務を負う」という基準を定めました。そのうえで、本件のA社代表取締役の説明は、不法投棄に当たらないことの根拠や廃棄物の投棄状況等の前提となる事実関係を明らかにしていない点で、いささか不十分ではあるものの、不合理とまではいえないし、平均的な株主としても今後も市の指導に従って定期的な水質調査を実施するなどの対応を予定していることを理解することができるため、議決権行使の前提として合理的な理解及び判断を行い得る程度の説明はあったと判示し、株主総会決議取消事由はないとして、原告らの請求を棄却しました。
本件の結論は、株主総会決議取消事由にはあたらないとされたものの、「いささか不十分」と指摘されていることからして、裁判所としても判断が難しい事案であったと言えます。株主総会において株主から質問を受けた場合には、取締役は丁寧に回答する姿勢が求められています(鈴木俊)。
参考:東京地裁平成24年7月19日判決
2 競業関係にある株主による株主名簿閲覧謄写請求について
株主は株主名簿の閲覧謄写を請求することができますが(会社法125条2項)、会社は、株主である「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」など、一定の事由がある場合は、この株主の請求を拒むことができます(同条3項)。
株主X及び会社Yは、いずれも不動産の賃貸や売買等の事業を営む株式会社です。平成19年12月以降、株主Xと会社Yは、ユニット型共同住宅に関する業務提携を行ってきました。
平成21年7月、株主Xは、会社Yに対し、業務提携強化のため、取締役や従業員の受入れなどを求める提案をしましたが、会社Yは、この提案に応じませんでした。
平成22年1月、株主Xは、自らが推薦する者をY社の取締役に選任させたいと考え、株主総会の招集請求を行った後、委任状勧誘のために株主名簿の閲覧謄写を請求したところ、会社Yは、今度は会社法125条3項3号等の拒絶事由があるとして拒絶しました。
そこで、株主Xは、裁判所に対して、委任状勧誘を行うための株主名簿閲覧謄写請求を認めるように申立てました。
裁判所は、会社が株主名簿の閲覧謄写請求を拒絶できる事由を列挙した会社法125条3項は、株主等による濫用的な権利行使を防止すると同時に、会社が濫用防止に名を借りて株主等の正当な権利行使を妨げることを防ぐため、閲覧謄写請求を拒絶し得る場合を限定したものであるとしました。
さらに、会社法125条3項3号と同一文言の拒絶事由のある、会計帳簿の閲覧謄写請求の場合(会社法433条2項3号)には、経理の実情に関わる情報が記載されており、競業に利用され会社が不利益を被る危険性が高いため、請求者が競業者であるときには、定型的に権利濫用のおそれがあるといえるのに対し、株主名簿の閲覧謄写請求の場合は、株主構成に関わる情報にすぎないため、単に請求者が競業者であるというだけでは、競業に利用されて会社が不利益を被る危険性が高いということはできず、定型的に権利濫用のおそれがあるとまでいうことはできないとしました。
そして、「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」とは、単に請求者が会社の業務と形式的に競争関係にある事業を営むなどしているというだけでは足りず、例えば、会社が得意先を株主としていて、競業者に株主名簿を閲覧謄写されると、顧客情報を知られて競業に利用されるおそれがある場合のように、株主名簿に記載されている情報が競業者に知られることによって不利益を被るような性質、態様で営まれている事業について、請求者が会社と競業関係にある場合に限られると解するのが相当であるとしました。
本件では、株主X及び会社Yは、いずれも不動産の賃貸や売買等の事業を行っており、形式的には競業関係にあるものの、競業関係にある上記事業について、株主名簿に記載されている情報が競業者に知られることによって不利益を被るような性質、態様で営まれているものであるということはできないとして、株主Xの株主名簿閲覧謄写請求を認めました。
上場会社では、競業関係にある会社が株主になる可能性があります。このような株主からの株主名簿閲覧謄写請求を拒むためには、会社の事業が、株主名簿に記載されている情報が競業者に知られることによって不利益を被るような性質、態様で営まれていることを説明できるようにしておくべきです(佐藤未央)。
参考:株主名簿閲覧謄写仮処分命令申立事件(東京地裁平成22年7月20日決定)
会社法125条、同法433条
3 弁護士Blog情報
E-Discovery Eディスカバリー(古田利雄)
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